8-2
2回に1回、次回予告的なのを後書きに入れてみたいと思います。何か違うと思ったらやめます。
ブックマークと評価、待ってるぜ!
ジェイムズとシナトラが出会う時から時間は少し遡る。
シナトラはアレハンドロの別荘へ向かう為、用意していた中古の軽自動車に乗っていた。
運転は出来るが免許は無い為、後々の事を考えると運転手兼部下のような人間が欲しいと考えていた。
(男の方が戦闘面で有利だけどね......。戦えるなら女でも良いけど......そんなの中々居ないわよねえ。)
車を走らせ、サン・アンドレス・トトルテペックに向かう。メキシコの交通マナーは、正直に言うとあまり良くない。異世界からの難民の方がまだルールを遵守している。
少し危なげな十字路を切り抜けると、目的地である別荘まで後少しという所まで来ていた。
「さて、やっちゃいますか」
舌で唇を潤し、ニヤリと笑いながらアクセルを力一杯踏み込む。
「......ん? オ、オイ! 止まれ! 」
「クソッ! 撃て! 撃てぇ! 」
猛スピードで突っ込んで来る車に気付いた門番達は一斉に銃撃を開始する。だが、車は勢いそのままに門を破り、別荘の入口に突っ込む。
「......オイ! 誰も居ない! 」
「しまった! 改造された無人運転だっ」
「何!? ゔっ」
車の運転席を確認しに行った2人の男は、門側から現れたシナトラに頭を撃ち抜かれ絶命する。
車に突っ込まれた状態の玄関に近付き、手榴弾のピンを口で抜きエントランスに投げ込む。
「グレネードーー! 」
凄まじい爆音と衝撃波が周囲に襲い掛かる。反応出来ずに行動不能になる者、まともに衝撃波や破片を受けてしまい即死した者も居た。
シナトラは塵が舞い上がったエントランスを歩きながら、生存者の確認を行う。1人、壁にもたれて肩で呼吸をしていた男が居た。
「うぅ......」
「......ねぇ、ジェイムズ・ウォーカーって男は居る? 」
「ッ、くたばれ......! 」
「あ、そ。じゃあ死ね」
右足で男の顎を蹴り抜き首をへし折る。
(ここに居るのは間違い無さそうね。何処に監禁されてるのか......ん? )
邸内をクリアリングしながら捜索していると、1階キッチン近くに地下室への扉らしき物があった。
隠れられる曲がり角で手榴弾のピンを抜き、扉の前に転がす。素早く隠れ、爆発音を確認して突撃する。
「あら? 貴方がジェイムズ? 」
「......そういうお前は......『キラークイーン』なのか? 」
突入した地下室、その一室の前には体が滅茶苦茶になって死んでいる男と、ボディアーマーを付けて短機関銃を装備した黒人の大男が居た。
シナトラの問いに、大男は二つ名の様な単語を出して問返して来るが、彼女にそんな物を付けられた覚えは全く無い。
「何それ。......ま、良いわ。エスコート、して下さらない? 」
「......ああ、いいぜ? 女王陛下? 」
ジェイムズはシナトラの願いに快活な笑みとサムズアップで応える。
「ジェイムズ......は何か違うわね。ジェイミー、何で捕まってたの? 」
「何か違うって何だよ!? ......ゴールドウィンからの依頼でアルマダの別荘と麻薬の精製所なんかを探ってたら捕まっちまったのよ。だが大丈夫だ、何も吐いてねえ」
「そ、今は脱出が最優先だけど......色々調べたいわね。2階に行くわよ」
「あいよ」
2人は地下室から出て、エントランスの階段から2階に向かう。2階に上がったところで、目の前から銃弾が飛来する。
「危ねぇっ! 畜生喰らいやがれ! 」
慌ててしゃがみ階段に避難したジェイムズは、奪った短機関銃を銃弾が飛んで来た場所に向けて撃ちまくる。
敵を遮蔽物に隠れさせる事には成功したが、当たりはせず直ぐに弾が切れてしまった。
「弾切れだ......予備のマガジン位取っときゃ良かったな......いや、今から漁りに戻るか? 」
「その必要は無いわ。これ使って。これマガジンね」
シナトラは持っていたアサルトライフルをジェイムズに投げ渡し、持っていた予備マガジンも2つも同様に投げ渡した。
「おっ、おう? 良いのか? それじゃアンタが丸腰になっちまうんじゃ......」
「心配しなくても、私にはコレがある」
ドレスのスカートの中に手を入れ、レギンスを着けた太もも部分に固定していたガンホルダーから、デザートイーグルを2丁取り出す。
セーフティは既に外れており、シナトラは銃を持ったまま階段から飛び出して行く。
「オ、オイ!死ぬ気か!?」
敵が何人居るかも分からない上に、漏れなく全員銃を持っているはずだ。そんな状況で突撃等、自殺行為としか思えなかった。
「殺す気よ」
ジェイムズの予想は裏切られ、シナトラの放った弾丸により、恐る恐るソファーから顔を出していた男の額に風穴が開く。仲間が殺され、慌てて飛び出して来た男達も同様に、頭を撃ち抜かれ崩れ落ちっていった。
「ぐおっ!」
「うぶっ」
続いて、屋上から降りてきた見張りも出て来た瞬間に射殺する。
恐ろしい程に正確で、躊躇いも迷いも無い攻撃だった。顛末を見ていたジェイムズは恐れと同時に、一種の憧れの様な感情を覚えた。
(す、すげぇ......!1人でギャングを皆殺しにした殺し屋は伊達じゃないってか!?それだけじゃねえ......)
ドレスを着た美しい少女が拳銃を2丁持ち、武装した男達を問答無用で撃ち殺していく。さながら映画のワンシーンの様な光景に、彼の目は釘付けにされていた。
ジェイムズにアレハンドロのような趣味は無い。女性の好みもシナトラの体型とは真反対の物と言える。だが、この感動と憧憬に近い感情の名前は『一目惚れ』だった。
「ふぅ......良い運動になった。......何惚けてるの?」
「......ああ、いや、やるなアンタ」
「まあね。ほら、さっさと来てよ。調べる物調べて、さっさと逃げるの」
「あ、ああ」
2階の奥には、黒の大理石で作られた扉が一際目立つ部屋があった。シナトラは蹴って開けようとするが、少し動く程度で破る事は出来なかった。
「任せろッ!オォラァァァ!!」
アメリカンフットボーラーも真っ青のタックルは扉を弾き飛ばし、その扉も窓を突き破って行ってしまった。
「上出来じゃない」
何にせよ扉は破れたので、シナトラとジェイムズは共に部屋に侵入する。広い部屋にはカッシーナのソファーや、何か良く分からない抽象画、年代物のウィスキー等、高価そうなものが置かれていた。
窓の近く、丁度壁に背を向け狙撃を避けられる位置に置かれたデスク、その引き出しを片っ端から漁っていく。
鍵の付いた引き出しを『ミゼリコルデ』で溶かしてこじ開ける。
「これは......地図かしら?ジェイミー、この地図のバツ印とか星印って何か分かる?」
「ん?......ああ、これは恐らく現金の隠し場所かコカインの精製工場、後はコカ農場の場所だな。DEAやCIAが動くレベルだぞ」
「これは回収して......そろそろ行くかな。さて......仕上げと行きましょうか」
シナトラは地下まで降り、ジェイムズの捕らえられていた牢屋の隣にあった倉庫から灯油タンクを持ち出す。
ジェイムズにも3個担がせ、それを2階の至る所に撒いて行く。
次に向かったのは1階のキッチン。シナトラの狙い通り、電線を切られる事を想定してか、ガスも使用出来るようになっていた。
ガス管を全て銃で撃って壊すと、ガスの漏れ出す音共に、不快な臭いが充満するのが分かる。
「さっさと出るわよ!」
「お、おう!?......って、奴ら増援を送って来やがったぞ!」
別荘には敵の増援がすぐそこまで迫っていた。何人かはこちらに向いて銃撃を開始している。
シナトラは直感で弾丸を避けながら走り、ジェイムズはひたすら指で十字を切りながら少女の後を追う。
ガレージまでは短い距離だったが、ジェイムズにとっては何時間にも感じられた。
「さっさと乗って。はい、これ鍵」
「おっと!って、え、俺が運転すんのか!?」
「当たり前でしょ。私はやる事があるし、疲れてるの」
「お前なぁ!こっちは牢屋で監禁されて尋問された後だぞ!少しは丁重に扱『チャキッ』OK目的地は!?」
こめかみに銃を突き付けられ、ジェイムズはやけくそ気味にエンジンを起動させる。車が発進しガレージから出た直後、シナトラは窓から身を乗り出す。
最後の手榴弾を右手に持ち、左手でピンを抜くと、別荘の2階に向けて思い切りぶん投げる。
「アディオス!」
シナトラ渾身の投げキッスに対して、構成員は銃弾で応えるが、その行為が無ければ彼らはもう少し人生を謳歌出来たかもしれなかった。
直後、シナトラの投げた手榴弾が爆発し、撒いた灯油に引火する。炎は更に下の階に充満していたガスも取り込み、大爆発を起こす。
「うぉおおおおお!?」
「ヒューッ!」
シナトラ達は裏門から逃げ間一髪脱出する事が出来たが、増援は見事に爆炎と衝撃波に巻き込まれた様で、遠目から見ても凄惨な光景だった。
豪邸と呼ぶに相応しかった別荘は一瞬で廃虚になったのだった。
☆
公道を走るスポーツカーの中で、ジェイムズはようやく一息つく事が出来た。
アメリカでもメキシコでも、確かに危ない橋ばかり渡って来たし、頭のおかしい連中と仕事をして来た。
だが、ここまでキマってる奴は初めてだった。今は助手席でボーッと窓の外を眺めており、これだけ見れば本当に、本当に絶世の美少女なのだ。
だが、先の戦いぶりを見るにかなりのジャンキーか戦闘狂だろうという考えに至った。そんな事を信号待ちの時間に考えていると、助手席の少女からの視線を感じた。
「ねえ......何か失礼な事考えてない?」
「いや?......何も」
「ふーん?ところで、『キラークイーン』ってあだ名、誰が付けたのよ?」
「知らねえなあ......。ギャングを殺しまくってアルマダに喧嘩を売った馬鹿が居るってんで大盛り上がりでな。でもどんな奴か、誰の依頼でやったかも分からなかった」
青信号で車は発進し、メキシコシティへ向けて粛々と走行していた。
「だが市民には噂で広まってた。『銃を持ってドレスを着た美しいハイエルフの女がギャングを殺した』ってな! ハイエルフって事は王族だからな、それを知ってた奴が付けたんだろう、『殺し屋女王』と」
「馬鹿らしいけど嫌いじゃない。気に入った。ジェイミー、貴方はこれからどうする?」
「どうするったって......」
ジェイムズは己の今後について考えた。アレハンドロは既に自分をマークしているだろうし、今回シナトラの手を借りて脱出した事で、『次』は恐らく無いだろう。
生き残る為には、アルマダと渡り合える人物か勢力を味方に付けておく必要があった。手渡されたアサルトライフルはドイツ製の物、拳銃や手榴弾も、助手席の少女だけで確保したとは考えにくい。
(コイツにはバックボーンが居る。しかも、派手に暴れても揉み消せる様なデカいのが)
「私と一緒にカルテルの連中を皆殺しにしない? 貴方のコネと情報が必要なの。それに......戦える人間が、ね」
シナトラの提案は、ジェイムズにとって願ってもないものだった。......少女の言葉の裏に気付いていたとしてもだ。
「乗った。アンタに惚れちまったよ」
結論から言うと、この判断は英断だった。シナトラ達が別荘を塵にした後、現場に来たアレハンドロはジェイムズの抹殺を部下に指示していたからだ。金で抱えた警官と一般人の監視の中、独りで逃げ切るなど不可能に近い。
「......ロリコンじゃないよね?」
「そういう惚れたじゃねえよ!!あぁ、調子狂うぜ!!」




