来客
テーブル越しに向き合う二人。
しかし、お互いに視線は合っていない。
「あ、あの……さっきは変な事言ってすみませんでした。」
「気にしてなどおらぬ。」
「でも……。」
ずっと目を合わせてくれないじゃないですか。
目を逸らせたまま、アスタロトさんはアルスの淹れたお茶を飲んだ。
「ん?美味いな。」
「で、ですよね!それ、僕の故郷で作ってるお茶なんですよ!」
「ほう、アルスの故郷でな。」
「はい!」
アルスの故郷のお茶を、アスタロトさんはそうとは知らずに飲んで美味しいと言ってくれたのが嬉しかった。
「ふぅ、茶を飲んだら落ち着いた。すまなかったな、我は普段恐れられる事はあっても、褒められるような事はあまり言われ慣れておらぬのだ。」
「え、そんな、アスタロトさんは本当に美人っていうか、その。。」
「ふふっ、本当にアルスは優しいのだな。ありがとう。」
そう言いながら、今度は顔を赤くする事もなく、アルスの目を真っ直ぐ見てニッコリと笑った。
それはちょっと……流石に反則ですよ。
世界一美しいと言っても過言ではないアスタロトさんの満面な笑みを前に、アルスの胸のドキドキは最高潮に達してしまった。。
―――――コンコン。
そうこうしていると、誰かに部屋をノックされた。
こんな時間に誰だろう?
そう思いながらも、出ないわけにはいかないのでアルスはそっと玄関の扉を開けた。
「アルスくん、失礼するよ。」
「え、スヴェン王子!?」
「こんばんわアルスくん。クレアも一緒だよ。」
「ど、どどど、どうされたのですか?!」
急な来客かと思えば、まさかのスヴェン王子とクレアだった。
「いや、今日は色々あったしアスタロトさんも一緒だろ?ちゃんと上手くやれているか、クラスメイトとして見にきただけさ。」
「私もよ!!それに、やっぱり男女が1つ屋根の下なんて、ふ、不健全よっ!!」
そう言うと、クレアはアスタロトさんの方を見てキッと睨んでた。
「スヴェン王子はこちらに座ってください!」
「クラスメイトなんだ、スヴェンでいいよアルスくん。」
「そ、そう言われましても!」
「じゃあこうしよう、命令だ。スヴェンと呼んでくれ。」
め、命令!?
「じゃ、じゃあ……スヴェンくん。。」
「宜しい。改めて宜しくね!アルスくん!」
満足そうなスヴェン王子は、アルスの手を取り握手をした。
アスタロトさんが使い魔になったと思ったら、今度は王子をくん呼びだなんて、もう色々ありすぎてアルスの脳はそろそろ限界を迎えつつあった。
「クレア、一先ず落ち着いたらどうだ。アルスくんが困っているじゃないか。」
「え?あ、そ、そそうね!ごめんなさいね、アルスくん。」
「いえ、僕は。。」
クレアは何をしていたかと言うと、恐れ知らずなのかアスタロトさんに向かってずっとキィキィ威嚇していた。
でもアルスはそれどころではなかったため、そちらの件はどうでもいいですとは言えなかった。
「なんだ小娘よ。もうキィキィは終わりか?」
「い、一時休戦よ!私は絶対認めないんだからね!」
「そうか、我相手にここまで噛み付いてくる者など初めてかもしれぬな、中々面白い小娘だ。」
こうして、王子、公爵家の令嬢、僕、そして大悪魔の4人で1つのテーブルに着席するという、アルスはなんとも異様な輪の中に加わる形となった。
落ち着かないアルスは、とりあえず二人にもアルスの故郷のお茶を出すことにした。
「ほぅ、良いお茶だな。王室で飲むのと変わらないレベルだよ。」
「本当ね、美味しいわ。流石アルスくんだわ。」
スヴェン王子とクレアの二人も、ア、アスタロトの淹れたお茶を褒めてくれた。
例えお世辞だとしても、やっぱり嬉しい。
「良かったな、アルスよ。」
「えぇ、帰郷したら村の皆への土産話にします。」
スヴェン王子が故郷のお茶を美味しいと言ってくれた事を知ったら、きっと皆喜ぶだろう。
「故郷?」
「はい、このお茶は僕の生まれ故郷で作られているお茶なんです!」
「そうだったんだね。もしかして、アルスくんの生まれ故郷はサバタ村かな?」
「え?どうして分かったのですか?」
「サバタ村のお茶は有名だからね。ここアルブールでは高級茶として知られているよ。」
「そ、そうだったんですか!?知りませんでした!」
まさか、アルスの故郷のお茶がこちらでは高級茶として飲まれているとは思わなかった。
「まぁ、ここからサバタ村はかなり離れているものね。そっか、アルスくんはサバタ村出身だったのね。メモメモ……」
後半小声で聞こえなかったけど、クレアは制服の内ポケットからメモ帳を取り出し何かを急いで書き込んでいた。
本当、昔からクレアは不思議な行動ばかり取っていて面白い子だ。
でも皆からは、凛々しくて正義感に溢れる全校生徒の憧れとまで言われており、アルスの印象と皆とでは全然違った評価をされている。
オレンジの髪をツインテールでまとめ、顔もスタイルも完璧だと男女共に人気があるのだ。
一部の男子生徒の中では、実はファンクラブが存在する程皆の憧れの対象となっている事は知っている。
だから、なんていうか、たまにアルスが見ているクレアと皆の見ているクレアとでは、別人なんじゃないかと思う時がある。
確かに容姿は学年で1番と言える程綺麗だし、成績も良いし、すぐ助けてくれるし、クラスを引っ張ってってくれるし……あれ?そう考えるとやっぱりクレアって本当に最強なんじゃ……?
そんな事を考えながらクレアを見ると、血走った目をして未だ嬉しそうに何かを一生懸命メモしていた。
……うん、やっぱりクレアはクレアだった。
「じゃあ落ち着いた事だし、ちょっと話をしていっても良いかな。」
そんなこんなで、お茶を飲み一息ついたところで、スヴェン王子が話を切り出した。