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真実

 絶体絶命の危機を、一人の人間の少年により助けられたサタン達。


「な、なんという力……。」

「……1000年ぶりに味わったが、末恐ろしいのぅ。。」


 サタンの背後では、未だに震えが止まらない様子のサリエリとベルゼブブがそう呟いた。


 サタンは震えこそしないが、未だ解放されたわけではない今の状況に緊張感を高めていた。

 これから先、自分達がどうなってしまうかは相変わらず目の前の大悪魔の機嫌一つで決まるのだ。


 当の大悪魔はというと、少年に止められても尚、こちらをただ睨み付けていた。

 しかし、先程のような凄まじい圧は感じられず、ただ気にくわない虫を見るような目でこちらをずっと睨み付けていた。


 ここで、下手にまた何か言葉を発したところで再び逆鱗に触れてしまう恐れがあるため、サタンは適切な言葉を見付けられずただ睨み合う状況が続いた。


「……貴様は、我の友を殺した。」


 そんな状況の中、大悪魔はそっと言葉を発した。


 しかしその言葉こそが、サタンに向けられる憎悪の理由だった。


 確かにこれまで、サタンは何人もの人間を殺してきた。

 魔族領に侵略してきた冒険者や兵士達、それから1000年前の戦いの中で衝突した全ての人間達。


 決して少なくはない人間達をサタンは自らの手でこれまで屠ってきたのだ。


 その中の誰かが、この大悪魔の言う友だったという事だろう。

 しかし、サタンとしては無益な殺生などはしていないつもりだった。

 1000年前の戦いであっても、降伏してきた帝国は受け入れ、あくまで対立してきた者のみ屠ってきたつもりだ。


 そもそもそれは、人間と魔族お互い様のはずだ。

 人間も、我々魔族を何人も殺してきたのだから。


 そうした人間と魔族、互いにいがみ合ってきた歴史の中で、大魔王という立場にあるサタンはこれまで必要に応じた行動が常に求められてきたのである。


 そもそも、1000年前の侵略自体それが起因しているのだ。


 人間は、一人一人は魔族よりも弱い。

 だが、そんな人間でも大勢が互いに連携し合う事で個の魔族以上の力を持ち、そして時には狡猾に我々の隙を狙っては攻め入ってくるのだ。


 そうした、人間達はその高い知恵により、徐々にではあるが魔族領への侵略を開始している事に対する対抗措置として取った行動が、あの侵略なのである。


 そして結果は、こちらの圧勝だった。

 人間達の得意とする知恵や連携も、大勢の魔族達を相手には全く通用しなかった。

 それまで10体を相手にしていたところ、数百、数千の魔族を同時に前にしては全く相手にはならなかったのだ。


 しかし、それも長くは続かなかった。

 何故なら、今サタン達の目の前にいるこの大悪魔によって、我々魔族はそれまでの人間達と同じように簡単に屠られてしまったのだ。


 それはまるで、人間達の命を奪いすぎた我々に対する天罰にさえ思われた。


 どんな強者であっても、一撃で屠られていくあの異常な光景は、今も尚サタンの脳裏にこびりついて離れないのだ。


 そしてその結果、我々は人間達の国を侵略する事なく撤退をせざるを得なくなったのだった。



 そうした魔族と人間の衝突の中で、我々は大悪魔の言う友とやらの命を奪ってしまったのだろう。


 正直、あの時我々の同胞の命を沢山奪っておいて何を言うと言いたいところだが、そんな事は口が裂けても言えなかった。


「貴様ら魔族はやり過ぎた。我の居ぬ隙を狙い、グルノーブル、そしてアルブール領へと侵略し、我の友の命を奪った。」

「ま、待て?何の話だ?」


 我々が侵略した?それは何の話だ?

 あの時の我々は、この大悪魔により壊滅状態に追い込まれ、結果グルノーブルに到達する前に撤退したはずだった。


「……ほう?貴様、我を前にして惚けるか?」

「ま、待って欲しい!妾も確かにこの目で見ていた!貴女により壊滅状態に追い込まれた我々は、グルノーブルの侵略を開始する前に撤退したはずだ!」


 あまりの迫力に言い淀むサタンをフォローすべく、慌ててサリエラが代弁してくれた。


「であれば、何故グルノーブルが壊滅し、アルブールに人と魔族が押し寄せていたのだ?」

「な、何の話だ?確かにあの戦いのあと、グルノーブルは壊滅したと聞く。だがそれは、人間達の仲間割れが原因ではなかったのか!?」


 全く心当たりの無い話に、今度は慌ててサタンは訂正した。

 誓って侵略などしていないのだ。

 グルノーブルは、人間達の仲間割れにより滅んでしまったのではなかったと言うのか。


「どういう事だ?」


 これには、大悪魔も困惑している様子だった。


「すまぬ、マーレーよ。当時、グルノーブルに攻め入ってきたのは魔族で間違いないのであろう?」

「はい、確かにあの時、大勢の魔族が私達の国へと雪崩れ込んできました。でもそれは、帝国が固めているはずだった一角から一斉に押し寄せてきたものでした。今思えば、そこが崩れるにしては早すぎたし、魔族達も無傷でした。」


 大悪魔に問われた一人の少女は、まるで己の目で見てきたかのように当時の状況を語りだした。


「そうか、であればマーレーがその目で見てきたそれが真実で間違い無いだろう。辛い思い出を語らせてすまなかったな。」

「大丈夫。私も真実を知りたい。」

「そうか。では話を戻そう、そこの大魔王よ。このマーレーは当時のグルノーブルから時空魔術により時を越えてきたのだ。故に、マーレーの語る事こそが真実であり、魔族が攻め入ってきたというのは間違いないだろう。」

「そ、そんな…!!私は確かにあの時、全軍撤退の命令を下したはずだ!」

「であれば、勝手に部下が侵略に移ったという事か?」

「そこの少女の言う事が真実ならば、そういう事になる。思えば、確かにあの時侵略に強い意志を持っていた魔王が一人いたが、奴はあの時の戦いで命を落としているはず……だがもしや奴が…。」

「ドラバルドか。確かにあの時、奴の様子は少し可笑しかったように思う。」


 サタンの言葉に反応したのは、当時魔王として共に会議へ参加していたフェンリルだった。


 当時のエルザードの魔王、竜王ドラバルド。

 現魔王であるドラゲルグの父にあたる、かつての魔王の一人である。

 ドラバルドと言えば、常に義理堅く、曲がった事が大嫌いで高潔な魔王の一人であったが、あの時はまるで何かに取り憑かれたかのように人間達を滅ぼせと進軍を推進していた。


「主よ、サタンは保身のため見え透いた嘘をつくような男ではありません。確かにあの時、私の元にも撤退命令は届いておりました。」


 サタンやサリエラ、ベルゼブブと共に、当時の魔王の一人であったフェンリルが大悪魔に向かって助言をしてくれた。


「そうか、お前が我に嘘をつく理由もあるまい。ならば、あれは本当に一部の者によって独断で行われた行動であったのだな。」

「あ、そう言えば、あの時私達の国に攻めてきたのは竜族の魔族がほとんどだったような気がする。」

「そうか。確かに我がアルブールへついた際も、そこにいた魔族は竜族であった。」

「ドラバルドは、竜族が住まう国エルザードの魔王でした。つまりは、奴とその配下達が、独断で行った行動であるのは間違いなさそうですね。」


 大悪魔、フェンリル、そしてマーレーという少女により、徐々に当時の真実が証されていった。


 あの時、様子の可笑しかったドラバルドにより、独断でグルノーブル、そしてアルブール領へと侵略を行ったというのが、サタンからしても納得の行く結論だった。


 しかし、どうして何故あの高潔で曲がった事が大嫌いだったドラバルドが、サタンを裏切るような行動に出たのかが分からなかった。


「なるほどな、大方の理由は分かった。続きはあれを片付けてから整理するとしよう。」


 悩めるサタンを他所に、大悪魔は遠くを見つめ訳の分からない事を言った。

 その場にいる全員が、何事かと大悪魔の視線の先を振り向いた。


「バレてしまったか。」

「あら、大魔王様までいるじゃない。」

「関係ねぇ、全部蹴散らすだけだ。」


 遠く見える崖の上、そこには魔王であるドラゲルグ、メルディ、そしてセタスの三人が、それぞれ大勢の配下を連れて立っていた。

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