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新旧魔王

「お主……フェンリルなのか……?」


 大悪魔の召喚に応じて、かつてこの地の魔王であったフェンリルが魔法陣の中から姿を現せた。

 1000年前の戦いの中で、フェンリルはその命を落としたものだとばかり思っていたサリエラは、突然の旧友が現れた事に驚きを隠せなかった。


「ん?そこにいるのはサリエラか。随分と久しいな。」


 サリエラの声に、フェンリルは何事も無かったように答える。

 それこそ、久々に友人と会った時と同じようなテンションで。


「久しいだ?妾がどれだけお前が死んだものだと心を痛めたと思っておる!?それなのにお前の魂はどこにも見当たらぬし、どれだけ!!どれだけ妾が!!」


 そんなフェンリルに、サリエラは思わず感情が押さえられなくなってしまった。

 本当にあの時、友であるフェンリルは死んでしまったのだと思っていたのだ。

 であれば、せめてネクロマンサーの能力で甦らせようと思っても、どこを探してもフェンリルの魂が現れる事は無かったのだ。


 それからは暫く、サリエラは自室に閉じ籠ってしまった。

 大悪魔への恐怖、そして友であるフェンリルを失った事の喪失感に、完全に心を支配されてしまっていたのだ。


「そ、そうか、すまん。お前には一言伝えておくべきであったな。」

「ド阿呆……だが、本当に無事で良かった……。」


 こんなサリエラを前に、フェンリルはおどおどとしながらも謝罪した。

 そんな、昔と同じように狼狽えるフェンリルを見て、再び出会えた事に安堵したサリエラの頬には自然と涙が伝った。


「な、泣いてるのか!?俺は無事だから、な、泣くな!!」

「泣いてなどおらぬわ馬鹿者!!しかしそうか、お前は大悪魔の使い魔をやっておるのだな。」

「あ、あぁ。あの日より少し前、俺は主の使い魔になった。」

「そうか、まさかとは思うが、あの日お前は妾達を……裏切ったのか?」


 久々に出会う事ができたフェンリルに対して、ふとサリエラの中で1つの疑惑が生まれた。

 サリエラは、それをそのままフェンリルに問いかける。

 久々の再会の喜びも束の間、返答によってはフェンリルとの在り方を考えなければならない程、これは重大な事だ。


 だが、サリエラはフェンリルを信じたかった。

 それまで、共に友として長い時間を過ごしてきた仲間なのだから。


「それについては誓って言おう。俺は何も関与していない。というより、俺の参戦は主より禁じられていたからな。友と敵対するなんて辛いだろうと、せめてもの情けをかけて頂いていたのだ。だが、残念ながら俺にはあの日の戦いを止める事が出来なかった。。」


 フェンリルの返答に、サリエラは一先ず安心した。

 この大悪魔は、フェンリルの事を思い関与をさせないでいてくれたのだ。

 それまではただただ恐怖の対象であった大悪魔であるが、友の事を考えてくれていた事に驚き、そして素直に感謝の念を抱いた。


「そうだったな。あの時、お前は最後まで反対しておったな。だが、ドラバルドを筆頭とする好戦派に圧されて進撃は開始された。」

「あぁ、そうだ。あの時、俺も主の持つ力をもっと明確に伝えておけば良かった。だが、それは魔王として違う問題を招く危険があったから、伝えられなかった。結果ドラバルドには、魔王のくせに臆病者だと馬鹿にもされたな。」


 かつての出来事は、今でも昨日の事のように思い出せる。

 あの時のドラバルドは、まるで何かに取り憑かれてでもいるかのように、強硬に進軍一筋であった。

 その勢いにサタンも靡き、結果人間界への進軍が開始されたのだ。


 サリエラは、正直あの時はどちらでも良かった。

 それは、ベルゼブブもサタンも同じ感覚であったに違いない。


 人間などを相手に、自分達が敗れるなんて事は微塵も考えられなかったのだ。


 だが、それでも必死に反対するフェンリルのため、サリエラは反対派に回っていたのだ。

 別にこれ以上領地を広める意味なんて無かったし、無意味に命を刈り取るような行為は不要だと考えていたから。




 ―――だが、結果としては人間ではなく自分達の命が刈り取られてしまう結果となってしまった。



 こうなる事を、フェンリルは知っていたのだろう。

 であればなんであの時それを伝えてくれなかったのだと思ったが、フェンリルは最初から全力で反対していたのだ。

 結局は、それを本気で相手にせず好戦派に圧しきられてしまったサタン達、そして、フェンリルに協力はしつつも内心どちらでも良いと無関心であった己の責任なのだ。

 もう1人でも、真剣にフェンリルの言っている事を理解し賛同する者がいれば、結果は違ったかもしれないといつ後悔が、ずっとサリエラの心残りとして心の奥底にこびりついて離れないのだ。



 そうしたら、きっと友であるフェンリルも生きていたのではないかと……。



「まぁ、この辺の話はまた後でしよう。今はそこの馬鹿者を始末しなくてはならん。」

「馬鹿者?あぁ、あいつか。」


 そう言うと、サリエラはこの場の問題を引き起こした張本人、ガルドの方を振り向いた。

 それに合わせて、フェンリルもようやくそこにガルドが居ることに気が付き、そして事の成り行きも概ね予想がついたような表情を浮かべていた。


 2人の魔王に視線を向けられたガルドは、突然のフェンリルの登場に驚きを隠せない様子でいたが、それ以上にガルドは嬉しそうに好戦的な笑みを浮かべていた。


 それはまるで、長年待ちに待った望みが叶った時のような歓喜の笑みであった。


「フェンリル!!やっぱりそうだよな!お前は絶対に生きていると思っていたぞ!!」


 フェンリルに向けてそう叫ぶガルド。


「今日こそ俺はお前を越える!!そして正式にこの俺がこの地の魔王として君臨するのだ!!」

「お前も懲りない奴だな。」

「あの時の俺だと思うな!!今の俺ならば、お前なんて軽く凌駕する!!」

「変わったのは自分だけだと思ってるのか?ガルドよ、世界はお前が思っている以上に広いという事を教えてやろう。主、宜しいでしょうか?」


 フェンリルは、黙ってやり取りを見ていた大悪魔を振り返り、ここは自分に任せてくれと伺う。


「あぁ、そのために召喚したのだ。あとはお前に全て任せた。」

「承知しました、主。すぐに終わらせます。」


 大悪魔から許可を得たフェンリルは、ガルドへと向き合う。


「面白い!!ならばこの俺を倒してみろ!!」


 それを受けてガルドは、両手を広げて愉快そうに笑った。



 サリエラは、ガルドの始末はフェンリルに任せる事にした。


 久々に帰ってきたフェンリルが、この大悪魔の元でどれだけ力をつけたのかサリエラとしても興味があったのだ。


「行くぞ!ガルド!!」

「来い!!フェンリル!!」


 その声と同時に駆け出すフェンリルとガルド。




 こうして、現魔王と旧魔王による、魔王同士の戦いの火蓋が落とされた。


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