魔王衝突
魔族達の襲撃から明けて2日目の昼下がり。
アルス達は、その魔族達と共に実戦形式の訓練を続けていた。
共に訓練をする魔族や魔物達は、まだ訓練を始めて2日目だというのに目に見えて成長しているのが分かった。
元々彼らは、種族としてのその圧倒的な力を駆使して戦っていたのだが、悪くいえばそれだけだったのだ。
それが、アスタロトさんのような自分達より圧倒的上位の者による訓練を受ける事により、自分達では気付く事の出来なかった改善点に気付き、そして一つ一つ改善を重ねる事であっという間に強くなっていってるのだ。
正直、今の状態ならアルス達は敗けていただろう。
それ程までに、すぐに成長していく彼らを見て、アルス達もまた実戦に応じた訓練に励むという切磋琢磨が繰り返されていた。
「ほう、もう来たか。」
日が沈み、今日の訓練もそろそろ終える頃かと思われた頃、突如アスタロトさんがそう呟いた。
「来たって、誰がです?」
どうしたんだろうと問いかけるアルス。
だが、それがなんの事かはすぐに分かった。
「貴様が大悪魔アスタロトか!!」
突如、こちらへ向けて何者からかそう声がかけられた。
その声に全員が振り向くと、遠く向こうにある崖の上に3人の魔族が立っていた。
「ガルド!!」
その存在に気付いたダイルが、そう驚きの声をあげた。
「ダイルか、それにガリュウにサイリスも。仮にも権限者である貴様らが、たかが人間に敗れ、こんな飯事のような真似をしているとはな。情けないとは思わぬか?」
「う、うるせぇ!!お前だってこいつらには敵わねぇよ!!」
呆れるガルドに向かって、声をあげるガリュウ。
「黙れガリュウ。貴様には地位を与え泳がせていただけだ。貴様ごときがこの俺に意見するな。」
権限者であるガリュウ相手にも、このガルドという男は余裕の態度を見せていた。
「彼はガルド。ここ奈落エフの現魔王です。」
状況が分からず戸惑うアルス達へ向かって、サイリスがそう説明してくれた。
サイリスが嘘をつく必要もないため、あれが間違いなくこの国の魔王で間違いないのだろう。
アルス達に緊張が走る。
魔王とは、たった1人でも国1つ落とせる程の圧倒的な力を持つ存在。
そんな天災とも言えるような存在が今、アルス達の目の前に現れたのだ。
「それで、我に何用だ?」
「ここは俺の国だ。随分と好き勝手やってくれたようだが、これ以上は許さん。」
「許さん?お前が我をか?」
「あぁそうだ。己が最強だと思っているようだが、それがただの思い上がりである事を分からせてやろう。」
アスタロトさんを指差し宣戦布告するガルド。
それを受けて、アスタロトさんの放つ空気が変わった。
一瞬にして、場の空気が一気に張り詰めてしまったのだ。
その空気の変化に、ガルド達も気が付き臨戦態勢を取る。
「この件、妾に預けて貰えぬだろうか?」
今まさに戦いが始まろうと緊張が走る中、突如どこからともなく少女の声が響いた。
一体誰だ?と辺りを見渡すと、アスタロトさんとガルド達の居る場所の丁度中間地点に、1人の少女が立っていた。
黒いゴシックドレスに水色の髪をした少女は、スカートの裾を摘まみながら、こちらへ向かって挨拶をした。
「サリエラか。何故貴様がここにいるのだ?」
「ガルドよ。妾は忠告したはずだ。勝手な行動はするなとな。」
「勝手?ここは俺の国だ。国の秩序のための行いを勝手とは理解出来ぬな。貴様に干渉される覚えはない。」
「惚けるな。まぁよい、これ以上は看過できぬ。ここでくたばれド阿呆。」
少女の名はサリエラというようだ。
そして、魔王であるガルドと対等に話している辺り、サリエラもまた同格の存在、つまりは魔王の1人と見るのが妥当だろう。
サリエラの言葉に舌打ちするガルド。
そしてその隣の2人は、突然サリエラが現れた事に驚き、そして震えているのが見て分かった。
「嘘でしょ……なんであんたがこんな所に……。」
「マリーか、貴様まだ生きておったのか。全くしぶとい奴だな。」
「わ、私は降りるよ!!あんな化け物と戦うなんて無理よ!!」
サリエラに怯え逃げ出そうとするマリーだったが、突如足元から氷漬けにされ身動きが取れなくなっていた。
「貴様は後だ。そこで見ておれ。」
そう言うとサリエラから、先程までは無かった凄まじいプレッシャーが放たれていた。
その瞳は赤く光り、見るもの全てを震え上がらせるような迫力があった。
決して怒らせてはならない相手を怒らせてしまったという事が、アルス達にもビシビシと感じられた。
「サリエラぁー!!」
だが、その圧にも全く怯まないガルドは、力付くで氷を粉砕すると、叫びながら一気にサリエラ目掛けて突進を開始した。
一瞬にしてサリエラの目前まで迫ると、右腕を巨大な漆黒の腕へと変形させ一気に殴りかかった。
ガルドのそれは、ダイルの技と系統は同じではあるが、威力が段違いであった。
あれに殴られれば確実に即死。
本能がそう察してしまう程、その一撃の破壊力は計り知れなかった。
だが、それでもサリエラは微動だにしない。
結果、無情にもサリエラ目掛けてその腕が振り落とされてしまった。
だが、その攻撃がサリエラに届く事はなかった。
ガルドの腕が触れる直前、その腕は巨大な盾により防がれてしまっていたのだ。
突如現れたのか巨大な盾を持ち重厚な鎧を着たスケルトンが、サリエラの前でその攻撃を防いだのだ。
それに驚き、一度距離を取ろうとするガルドだったが、次の瞬間激しい衝撃を受け、元居た崖まで弾き飛ばされてしまった。
全く状況が掴めなかったアルス達だったが、そこにはまたしても突如現れた巨大なスケルトンドラゴンと、それを撫でるサリエラの姿があった。
どうやら、スケルトンドラゴンの尻尾の攻撃により、ガルドは一瞬にして弾き飛ばされたようだ。
「ほう、ネクロマンサーか。」
それまで黙って戦況を観ていたアスタロトさんが、少し嬉しそうにそう呟いた。
「我々は貴女と争うつもりはない。此度の不始末は、妾があやつを屠る故、水に流しては貰えぬだろうか?」
アスタロトさんの声に気が付いたサリエラは、少し緊張した様子でそう告げた。
これだけ圧倒的な力を有するサリエラでも、恐怖を顕にしているのだ。
それ程までに、例えサリエラであっても、アスタロトさんと敵対するのが恐ろしいというのが分かった。
だが、アスタロトさんはその言葉に答える事は無かった。
代わりに、サリエラへ向けて少しだけ笑みを浮かべて見せたのだ。
これが何を意味するのかは分からないが、サリエラは苦虫を噛んだような表情を浮かべた。
「ガルド!!貴様やってくれたな!!万死に値する!!」
憤りの声を上げたサリエラは、スケルトンドラゴンに命令し、漆黒のドラゴンブレスをガルド目掛けて放った。
それは以前、アスタロトさんとカーバンクルの戦いの時見たブレスに近い強力な一撃であった。
放たれたブレスはガルドへ直撃したかと思われたが、ガルドの前に立つマリーともう1人の男の放つシールド魔術により、ギリギリのところで防がれてしまった。
「なんて破壊力ですか。。」
「私達2人がかりでギリギリって、やっぱり無理よ!」
攻撃を防いだ2人だったが、その表情には絶望が浮かんでいた。
攻撃を防がれた事に更に怒りを顕にしたサリエラは、ネクロマンサーの能力で更なる召喚をした。
巨大な剣を持ったスケルトン、何体もの死霊が重なり合った禍々しいモンスター、巨大な狼のアンデッドなどなど。
そのどれもが、今ここにいる魔族や魔物、下手したらガリュウやダイルより強いと思われる程、一体一体がとてつもなく強力な存在である事が見て分かった。
これには、流石のガルドも焦りを隠せなかった。
スケルトンドラゴンだけでも容易ではない相手だというのに、それと同格と思われる化け物が次から次へと湧いて出てくるのだ。
数がいればまだしも、ガルド達はたったの3人しかいないのだ。
絶望的な状況に追い込まれてしまった事を理解した。
「まぁ待て、そもそもお前達は勘違いしておる。」
そんな中、状況を全く気にしていない様子のアスタロトさんが平然と声をあげた。
その声に反応した狼のアンデッドが、アスタロトさんの存在に気が付くと突然襲いかかった。
怒りに我を忘れていたサリエラだったが、それに気付いたサリエラは真っ青な顔を浮かべながら慌てて狼を止めようとした。
だが、サリエラの制止は間に合わずアスタロト目掛けて飛びかかる狼。
しかし、アスタロトさんは飛びかかる狼をまるで虫を払うかのように片手で凪払ってしまったのである。
キャウンという鳴き声と共に、一撃で大きく弾き飛ばされてしまった狼を見て、サリエラもガルド達も理解が追い付かず固まってしまった。
あの狼の正体は、ギガントウルフのアンデッドなのだ。
ギガントウルフとは、この世界で2番目に強いとされる狼の魔物だ。
2番目と言っても、その力はガリュウと同格、下手したらそれ以上とも言われている程だ。
その上の存在が規格外すぎるだけで、ギガントウルフは魔物の中でも最強に部類されるレベルの存在なのだ。
だが、そんな圧倒的な力を持つギガントウルフだが、1000年前の大悪魔との戦闘に敗れてしまい、絶滅した存在とされている。
当時の魔王の下部として、魔王と共に戦場へ向かったギガントウルフだったが、その全てが大悪魔により倒されてしまったのだ。
そんな、今では現れる事の無いはずの伝説級の魔物なのだが、当時戦場に残された死骸を元に、サリエラがネクロマンサーの能力でアンデッドとして蘇生したのがこの狼の正体なのである。
ネクロマンサーの能力でアンデッドになったものは、魔力が半減される代わりにその身体能力を上昇されると言われている。
そのため、元々魔術を扱う事の出来ないギガントウルフにとって、アンデッド化はプラスの要素しかないのだ。
だが、そんなギガントウルフのアンデッドであっても、まるで虫を払うかのように、魔術を使う事もなく一撃でやられてしまったのである。
その出来事に、ガルド達は勿論、分かっていたはずのサリエラでさえも事態が飲み込めず固まってしまったのである。
ギガントウルフを凪払ったアスタロトさんは、何事も無かったかのように話を続けた。
「この国の魔王は、貴様などではなかろう。」
アスタロトさんは、ガルドへ向かってそう言うと、1つの魔法陣を展開した。
アルスは、その魔法陣に見覚えがあった。
なぜなら、この魔法陣はアルスとアスタロトさんが初めて出会ったあの日、一度見た事があるからだ。
「出てこい、ポチ。」
その声に答えるように、魔法陣の中から一体の魔物がゆっくりと姿を現した。
「お呼びですか、主。」
魔物の名はフェンリル。
アスタロトの使い魔にして、ギガントウルフを統べる狼の魔物の頂点。
そしてここ、奈落エフの真の魔王フェンリルである。
コロナの影響もあり、仕事が忙しく平日の更新が難しくなっていますすみません。。
そして今回の話、やっと書けると思いながら一度書いたものが、手違いで消えてしまい心が折れそうになりました。。
ですが、同じことを2度書いてみると、一回目より話がまとめられたのでむしろ良かったとポジティブに考えるようにしました。
今回、ずっと仕込んでいた設定をようやくお披露目できました。
フェンリルのポチさん、実は魔王だったんですね。
決して存在を忘れて物語に出さなかった訳じゃないんですよ?
奈落エフのFとは、FenrirのF




