次に備えて
「全員揃ったな。」
魔族による襲撃も一段落し、何故かその襲撃してきた魔族共々アスタロトさんにより集められたアルス達。
「アスタロトさん、これは一体……?」
「あぁ、アルスにはまだであったな。此度のこやつらの襲撃は、我が用意したものだ。」
こうして、今回の襲撃の理由が語られた。
確かに、アルスにとっても最大の気掛かりはあの大天使セレスの存在だ。
セレスによるこれまでの干渉を考えると、彼女はアスタロトさんの事になると手段は選ばない。
だからこそ、アルスはいつまでもアスタロトさんに頼るのではなく、いつか自分がアスタロトさんを護れるようになりたいとこれまで必死に魔術の訓練を重ねてきたのだ。
そして今回の魔族による襲撃は、実際のところ自分達の実力を知れる良い機会となった。
自分達がどこまで戦えるようになっていて、そしてその上で何が足りていないのか、実戦を通してそれぞれが抱える課題に気付くことが出来たのだ。
アルス自身、なんとか勝利する事が出来たが、一歩間違えば大惨事になっていたであろう事に今更ながら恐怖が込み上げてきた。
あの時は戦いに夢中だったが、こうして思い返してみるとまさにギリギリの命懸けの戦いだった事を思い出す。
アスタロトさんが使い魔で、またそのアスタロトさんから圧倒的な魔術を伝授して貰っていようと、絶対に大丈夫なんて事は無いのだ。
一歩間違えば、自分や周りの大切な人が命を落とす危険と隣り合わせだという事を、今回の実戦を通してしっかりと実感した。
「しかし、まさか人間のガキに敗けるなんてな。おれもまだまだ技を研かないとダメだな。」
先程まで戦っていたダイルが、やれやれと話しかけてきた。
「あ、あはは。僕はその、アスタロトさんに毎日みっちり訓練して貰ってるので今回はたまたま勝てただけですよ。」
「ふーん、てことはやっぱりお前が例のあの大悪魔の主で間違いなかったんだな。そりゃそれだけ強いわけだ。」
「当たり前だ。お前ごときが我のアルスに敵うわけがなかろう。」
ハズレを引いたなと苦笑いするダイルに、無慈悲な言葉を投げかけるアスタロトさん。
そんな突然のアスタロトさんの割り込みに驚き、恐れ戦いてしまったダイル。
それ程までに、彼にとってアスタロトさんという存在がトラウマになっているようだ。。
「理由は分かりました。それで、アスタロトさん程の方がそれ程までに危惧する事態というのが、今後近いうちに起きるという事でしょうか?」
「ん?あぁ、そうだな。セレスは必ずまた現れるだろう。そして、次は前回のそれとは比較にならない規模でな。あいつの目的は我だ。だが、あいつはこの世界に生じている歪みを利用しているだけだ。つまりは、遅かれ早かれこの世界は戦乱に包まれる。だからこそ、お前達はこれまで以上の力をつける必要がある。」
「……戦乱、ですか?」
「そうだ。まぁそれも、我が動けるうちは問題ないだろう。だが、仮に我の敵と成り得る存在が現れた時、お前達を最後まで護ってやれる保証はない。それに、お前達にとっても護りたい存在があるであろう。ならばそれらを護るためにも、力をつけておくに越した事は無い。」
スヴェン王子の問いかけに答えるアスタロトさん。
そんな、アスタロトさんをもってしてもこれ程までに警戒する必要があるという事に、この場にいる全員それが冗談では無いことを理解し、一斉に緊張が走った。
「なに、今すぐにどうこうなるという問題ではない。まずは、次の刺客がやってくるのをここで待つとしよう。」
緊張が走る中、あっけらかんとそう言ったアスタロトさんは、何事も無かったようにゲンブの里へと戻って行った。
それを受けて、今日のところは解散となった。
明日以降、彼ら魔族や魔物達との訓練が始まるというのは未だに飲み込みきれない状況ではあるが、マークくんとデュラハン達は戦いを通して心を通じ合わせているようだし、問題にはならないだろうと一安心した。
しかし彼らの中には、凄まじい力を感じられるキマイラや、今のアルスでも敵わないと思われる程のオーラを放つ男性が混ざっているが、そこはアスタロトさんを信用して一先ずは気にしないでおく事にした。
ただ、アスタロトさんの言っていた次の刺客とは一体なんの事だろうか。
あとでアスタロトさんに聞いてみようと、アルスはアスタロトさんの背中を追って駆け出した。
◇
「あの馬鹿者めが……忠告はしたはずだぞ。」
広く薄暗い部屋の中、最悪の事態に発展してしまった事に苛立ちを露にする一人の小柄な少女。
かの存在は、馬鹿者どもが動き出している事は既に気が付いているだろう。
こんな事になるならば、あの時さっさと屠っておけばよかったと悔やまれる。
しかし、今更そんな事を思っても後の祭りだ。
であれば、せめて最小限の被害で事を治める必要があるだろう。
「少し出る。此度の件は妾が対処すると、サタンに伝えておけ。」
少女は側近達にそう告げると、その場から姿を消した。
―――彼女の名は、サリエラ。
黄泉の国ミレディアを統べる魔王が一人、冥府の女王サリエラである。
評価やブックマーク、それから誤字報告いつも本当にありがとうございます。
中々更新頻度を上げられず申し訳ありませんが、執筆は必ず続けるので気長に待っていただければ幸いです。
激オコのサリエラさん、ついに動きます。




