もう一つの決着
少しだけいつもより長いです。
目の前には二人の人間の少年。
通常ならば、ここ奈落エフで権限者を務めるダイルにとって、取るに足らない存在のはずだった。
だがしかし、ダイルは現在この二人に追い込まれているのだ。
人間が扱えるとは到底思えない未知の魔術により、先程危うく命を落としかけたダイルは、その恐ろしさを思い出すだけで全身がブルリと震えた。
もう、このふたりをただの人間だと思って侮るのは危険だと本能が警告する。
だからこそ、今からは早期決着をつけるべく全力を出すことに決めた。
そう決心したダイルは、先程の少年の魔術で壊れた外壁の隙間から一旦外へと飛び出す。
ダイルにとって、障害物の多い屋敷内での戦いはあまり望ましくなかったため、どうやら屋敷をこれ以上壊したく無さそうな少年らとは利害は一致していたようで助かった。
そうしてダイルが屋外へ飛び出すと、二人の少年もすぐに後を追ってきたため近くの開けた土地へと移動する。
「さぁ、ここならいいだろう?これで敗けても恨みっこなしだぜ?」
「えぇ、敵ながら配慮ありがとうございます。」
ダイルの一言に、素直に礼を述べた一人の少年。
この少年、まだ幼さを残しているがその佇まいは毅然としているというか、只者では無さそうだ。
そして、警戒しつつ先程有り得ないレベルの魔術を放ったもう一人の少年の方にも目をやると、同じくこれで心置きなく戦えるなという安堵の表情を浮かべていた。
腐っても権限者であるダイルを前に、心置きなく戦える事に安堵している余裕が感じられた事に、ダイルは若干の苛立ちを覚えた。
権限者であるダイルを前にして、そのような態度を取る余裕を持たれている事に納得がいかなかった。
だからダイルは、改めてこの二人に権限者の恐ろしさを分からせる事にした。
ダイルは即座に闇と同化し、一瞬で背後に忍び寄る。
そしてやる事は同じで、再び少年の背後から右腕を漆黒の刃に変形させ一気に突き刺す。
だがここで、先程と同じ攻撃をしたのならば、圧倒的な防御魔術により防がれてしまう事は承知の上だ。
だから今度は、右腕に先程以上の魔力を籠める。
籠められた膨大な魔力により、巨大な漆黒の刃に変形させたこの右腕は、先程のものとは比べ物にならない破壊力を有する。
ここまで、時にして一秒程度の出来事。
一瞬で相手を確実に仕留めるこの攻撃は、ダイルにとっての文字通りの必殺技である。
少年は反応し回避しようとするが、人間の身体能力では当然間に合うはずがなく、そのまま背中に刃の切っ先が突き刺さる。
あとはこのまま力を込めて貫く事で、とりあえず片方の始末は完了だ。
だが、問題は先程強烈な魔術を立て続けに放ってきたもう一人の少年の方だ。
あんな魔術をまだ他にも秘めているのだとしたら、こうして下手に近接攻撃に移るのが得策かどうかも判断が難しい。
そんな、次の行動を瞬時に考えながら攻撃をするダイルだったが、そのせいか異変が起きている事に気が付くのが一瞬遅れてしまった。
そしてその遅れはコンマ何秒レベルの話だが、それでもこの時間は命取りに近しい事を全身が警戒する。
少年を突き刺したはずの腕に目をやると、スレスレのところで止まっていた。
いや、これは止められているのだ。
慌てて右を振り向くと、無表情でダイルの腕を掴んでいる少年がそこにはいた。
「なっ!?馬鹿な!?」
あり得ない出来事に、ダイルの理解が全く追い付かなかった。
即座に闇を伝い瞬時にゼロ距離まで詰め、そこならノータイムの必殺の一撃を、この少年は反応し防いでみせたのだ。
こんな事、魔王クラスでも出来るか?
かの黄泉の国の魔王、サリエラならば可能だろうか?
少なくとも、その領域の話だ。
それをただの人間の、しかもまだ幼いこの少年がやってのけたのだから、全く意味が分からなかった。
だが、この戸惑いの時間もまた、この少年相手に与えてしまう事が命取りとなる事を即座に察したダイルは、すぐに少年から距離を取るべく再び闇と同化した。
これにより、掴まれていた腕は闇と同化する事で解放され、二人の少年から十分な距離をとって姿を現すダイル。
だが、積み重なった僅かな時間により、少年は先程の爆破魔術をダイルに向けて放ってきた事で、ダイルの全身はボロボロになってしまっていた。
「……どうやら、危機一髪だったようだね。ありがとうアルスくん。」
「いえ、彼の攻撃はもう見切りましたので、スヴェンくんにはこれ以上触れさせませんよ。」
「はは、あの速度を一度で見切ってしまったとはね、どうやらアルスくんは人間をやめてしまったようだね。」
「でも、未だにアスタロトさんに触れるのが精一杯ですよ。だから僕なんてまだまだです。」
「今のアルスくんでもその程度なのかい?それはもう、本当に訳が分からないね。だがまずは、目の前の敵の相手をしないとだね。」
「はい。」
思わぬダメージを負ったため、一先ず自身に治癒魔術を施していると、そんな二人の会話が聞こえてきた。
アスタロトさんに触れるのが精一杯、確かにアルスという少年はそう言っていた。
アスタロト。
それは正しく、今自分をこの地へと向かわせた張本人の名で間違いないだろう。
あの少年のあり得ない力から推測するに、どうやら少年があの大悪魔アスタロトの主という事で間違い無さそうだ。
アスタロトは言っていた、「我の主達の訓練に付き合え」と。
だからてっきり、アスタロトと同格以上の化け物がこの地に控えているものだとばかり思っていたが、そんな大物の気配は全くしなかったためどうやらそれは杞憂であったと安堵したところだ。
だが、このアスタロトの主であろう少年を前にして、安堵など出来るはずがなかった事を思い知ったダイルは、額から汗を垂らしつつこれからどうすべきか思考を巡らせた。
「隙有り!」
だが、残念ながらダイルにはそんな余裕は与えられなかった。
突如背後から聞こえた声と共に、突き付けられた刃がダイルの左肩を貫いたのだ。
目の前の少年二人に集中し完全に油断していたダイルは、何者かの攻撃を直に受けてしまったのだった。
「貴様は!?」
「この地での好き勝手は、私が許さぬ!」
驚き背後を振り返るダイル。
するとそこに居たのは、険しい顔を浮かべながら刃を突き立てる一人の男がいた。
ダイルはこの男を知っている。
何故なら、この男はシャドウオーガであるダイルに近い存在であり、アサシンオーガを統べる者。
ジンだった。
ジンとダイルは、これまで互いの存在を認知しつつも干渉し合う事は無かった。
シャドウオーガであるダイルにとって、アサシンオーガなんて下等種族だ程度に思っていたため最初は全く気になどしなかったのだ。
まぁいつか、近い種族の吉身で、自身の傘下に従えてやろう程度にしか考えていなかった。
だが、初めてジンとすれ違った際、ダイルはジンの発するその迫力に気圧されてしまった事をよく覚えている。
この男だけは、他のアサシンオーガの放つ雰囲気とは全く異なっていたのだ。
それ以降、ダイルはジンを下等種族と侮ることを辞め、敵と成り得る存在だと警戒を高めてきた。
そして今、ジンは明確な敵としてダイルの前に現れた。
圧倒的力を持つ二人の少年に、アサシンオーガの長であるジンが加わった今の状況は、権限者と言えども最早絶望的な状況だった。
「おっかねぇなぁ、これじゃ命がいくつあっても足りないぜ……。」
「目的は分からぬが、ここで散って貰う。」
「へっ!やれるもんならやってみな!行くぞ!!」
ダイルは、一か八か奥の手を放つ事を決意した。
ダイルは闇に同化し、その上でユニークスキルにより複数体に分身する。
そして、分身体含め一斉に魔術を放つ。
「「「第7位階魔術 影分身!!」」」
放った影分身により、分身したダイルが更に分身する。
その結果、少年らには見えないだろうが、計10体のダイルが闇の中に現れる。
これこそが、ダイルの奥の手である。
魔術による分身体は魔術を放つ事は出来ないが、ユニークスキルによる分身はダイルの8割の力であれば何でも放つ事が出来るのだ。
あとはこの分身体含め、この場にいる敵全てに対して一斉に襲い掛かるだけだ。
闇を伝い相手の正面や背後に忍び寄り、漆黒の刃でその身を貫く。
数は増えてもやる事は同じなため、時間にして一秒未満。
一瞬にして相手の命を刈り取る……はずだった。
「「「……どこに行った?」」」
ダイルは辺りを見渡すが、先程までそこに居たはずの少年やジンが姿を消しているのだ。
「闇を這うのは、お前だけではない。」
すると、月明かりにより若干生まれていた木陰の中から現れたジンが、ダイルに向かってそう告げてきた。
シャドウオーガは闇に溶け込むが、アサシンオーガは影に溶け込むのだ。
先頭においては、圧倒的にシャドウオーガの方が優位なのだが、その技の性質は異なるのだ。
だからこそ、闇に潜ったダイルが関知されないのと同様に、影に潜ったジンもまた、ダイルには関知する事ができなかった。
「「「少年は、どこだ!?」」」
だが、それはジンに限った話のはずだ。
人間である少年らが姿を消すなんて事は、ありえないのだ。
「ここだよ!」
取り乱すダイルに向かって、少年の声がかかる。
ダイルは慌てて、声のする方向を振り返った。
それは、遥か上空だった。
あろうことか、アルスという少年がスヴェンという少年を抱き抱える形で、上空に浮かんでいたのだ。
恐らく、一瞬にして上空に転移をしたのだろう。
だが、上空だろうと闇の中であるのに変わりはない。
ダイルは即座に、分身体と共に闇を這い上空へ移動を開始する。
「もう遅いですよ!第15位階魔術 究極爆発!!」
ジンとのやり取りを含め出遅れてしまったダイルに向かって、1つの巨大な魔術が放たれる。
それは、先程浴びせられた爆破魔術とは比べ物にならなかった。
巨大な光の塊が現れると、一瞬にしてダイルとその分身体を全て包み込む。
その眩い光により姿が露になったダイル達。
そして、その全身を包み込んだ光の塊は次の瞬間、爆発した。
それは、まさしく回避不可の必殺の一撃だった。
その爆発により分身体は全て消え去り、そしてダイル自身も全身を激しく焼き付けられる。
そして生じた爆風により、大きく弾き飛ばされたダイルはそのまま大木にぶつかるとその場に崩れた。
最早身動きなど全く取れないレベルのダメージを負ってしまっている事を実感した。
「なん……だよ……これ、は……。」
反則だろ。
こんな魔術がこの世に存在したなんて、ダイルは知らない。
こんな魔術が存在するのであれば、最早ダイルにはどうしようもなかった。
あーちくしょう、俺の敗けだ。
そうして、そのままダイルの意識は途絶えた。
諦めたような、自重染みた笑みを浮かべたまま。
いつもありがとうございます。
おかげさまで、この作品も20万文字を突破致しました。
ほぼ処女作であるこの作品ではありますが、それでも数多くの評価やブックマーク等頂けているのは本当に皆さんには感謝しかないです。
これからも、皆さんに少しでも楽しんで頂けるような作品にしていければと思いますので、今後とも宜しくお願い致します。
◇
これにて、権限者との戦いは終了です。
となれば、次はいよいよその上ですね。




