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理由

「ここで何をされているのです?」


 遥か上空から戦況を見守るアスタロトに、突如背後から声がかけられた。


「ふん、誰だか分からんがお前には関係無かろう。」


 だが、アスタロトは驚きはしない。

 何者かがアスタロトの存在に気付き、近付いてきている事は知っていた。


「この地は私の管轄なのですよ。ですので、ここで好き勝手やられてしまっては困るというわけです。私にはこの地に住む者達を護る義務がございますので。」

「そうか、ならばどうすると言うのだ?」


 男は、まるで世間話をするように穏やかな口調でアスタロトに語りかけてきた。

 アスタロトは返事をしながら、振り返り背後に現れた男の姿を確認する。


 そこには、黒髪のロングヘアーに尖った耳。

 その額からは二本の角を生やした男がいた。

 常に目を瞑っており、その表情から感情は伺えなかった。

 そんな何を考えているか、アスタロトをもってしてもよく分からない不思議な雰囲気を放つ男だった。


「困りましたね。しかし、貴女を止めさせて頂くしかないでしょうね。」

「ほう?我に挑むというのか?」

「さて、どうでしょう?とても敵う気がしないのですがね。」


 アスタロトの挑発にも、変わらない調子で返事をする男。

 敵う気がしないと口では言ってはいるが、その態度に変化はなかった。


「ですが、戦いだけが全てではありません。少しの間、拘束させて頂きます。」


 男がそう告げるのと同時に、両手をアスタロトに向けて掲げると、掌から無数の蔦が飛び出した。

 そうして、アスタロトは一瞬にしてその蔦で身体を巻き付けにされ拘束されてしまった。


 ただの蔦ならば、力だけで簡単に引き千切る事など容易い。

 だが、この蔦には相当な魔力が込められているため、力付くで引き千切るのは難しいだろう。


 それが人や魔族なら。


 だが残念ながら、アスタロトには関係なかった。

 アスタロトは、普通の蔦を引き千切るように力任せに蔦を粉々に粉砕してみせた。

 何重にも巻き付けられた蔦が簡単に引き千切られた事で、それまで無表情を浮かべていた男の表情に少しだけ困惑の色が浮かんだ。


「……なるほど。これ程ですか。」

「どうした?もう終わりか?来ないならばこちらから行くぞ。」


 そう告げたアスタロトは、次の瞬間男の目前まで一瞬で迫ると同時に、男の腹目掛けて拳を放つ。


 だが、男は拳が届く前に転移し、アスタロトの攻撃をかわしてみせた。


「ほう?今のをかわすか。面白い。」


 背後に移動した男に話しかける。

 アスタロトにとってはなんでもないただの拳での攻撃なのだが、それでもこの世界においてアスタロトの攻撃に反応できる存在は数える程だろう。


 つまりは、この世界の標準において、この男は相当な強者だという事だ。


「魔力も使わずにその速さですか。いやはや、恐ろしいものです。」

「ふん、それは貴様も同じであろう。」

「いえいえ、こっちはギリギリですよ!」


 男はそう告げるのと同時に、右手を前に掲げると先程と同じように無数の蔦をアスタロト目掛けて放ってくる。


 放たれた蔦は、互いが絡み合い渦を巻くと、1つの巨大なドリルの形を作りアスタロト目掛けて高速で襲いかかってくる。


「目には目を、だ。」


 アスタロトは、その蔦目掛けて同じく蔦を放つ。

 以前、セレスが現れた時と同じ黒い蔦を。


 この蔦は、魔術とは若干異なる性質の攻撃である。

 恐らく目の前の男のものも同様、これは所謂ユニークスキルというものに部類されるものだ。


 魔術と同じく魔力を根源に放たれるものだが、魔術は錬成するのに対して、ユニークスキルは剣術や体術、またはドラゴンのブレスなどと同じく個の能力に依存するものである。

 根本的には魔術と同じなのだが、イメージ的には己の中にオリジナルの魔法陣が存在する感覚だ。


 そのため、詠唱は不要であり、かつ強力な技を可能にさせるのだが、その分ユニークスキルを保有するのは一定レベル以上の実力が必要とされるため、この世界においてユニークスキルの保有者は非常に稀である。




「これは!?」


 アスタロトの放った黒い蔦は、男の放った蔦を全て喰らい尽くすと、そのまま今度は逆に男の身体に巻き付き完全に動きを拘束した。

 男は即座に再び転移を試みたが、この蔦から逃れる事は不可能であり、転移先ですぐに拘束された。

 これには流石に驚き、それまで閉じていた男の目が大きく見開かれた。


「なるほどな、やはりお前は精霊か。それも、ただの精霊ではないな。」


 男の瞳は、綺麗な青色をしていた。

 男の容姿、そして瞳の色から、やはりこの男は相当高位の精霊である事が分かった。


「……ご存知ですか。そうです、私はこの地を納める精霊の王。精霊王サイリスと申します。」

「やはりお前がサイリスか。ミスズから聞いておる。」

「ミスズ……あぁ、ゲンブの里の長の一人娘ですか。ご存知で?」

「あぁ、あいつの紹介で我らはこの地にやってきたのだからな。」

「であれば、何故貴女はゲンブの里を襲わせるような事をされているのですか?」

「襲っているわけではない。試しておるのだ。」

「試す?」

「あぁ、そうだ。近いうち必ず起こるであろう、我の居ない状態での格上との戦いを経験させているのだ。本当にその状況になった時、自分達でどこまでやれるのか。そして、己に何が足りていないのかを経験させるためにな。以前、我がその役を務めようとしたが上手くいかなかったのでな。だから丁度良いレベルの奴がおったから、利用する事にしたのだ。」

「ふふっ、同じ権限者であるガリュウやダイルが丁度良いですか。これはもう、流石に私ではどうにもなりませんかね。」


 そう言うと、サイリスは飽きらめるように再び瞳を閉じた。


「安心しろ。村も住まう者達もアルス達も、誰一人犠牲を出させるつもりはない。そのためにも、万が一に備えてここで監視しておるのだ。」

「そういう事でしたか。その言葉を信用するしかないようですね。であれば、権限者として私もその監視に加わっても宜しいでしょうか?」

「別に構わん。好きにしろ。」


 そうして、アスタロトは黒い蔦からサイリスを解放してやると、サイリスは大人しくアスタロトの隣に並んで戦況を監視した。


「しかし、凄いものですね。あの数の高位の魔族や魔物達が、人間の子供達にやられているというのは驚きです。」

「あいつらはまだまだ強くなる。だが、猶予がどれ程あるのかも分からんのでな。だからこうして、手法は荒くとも経験を積ませておるのだ。」

「それは、この先大魔王との戦いを見据えているためでしょうか?」

「それは分からん。あの阿保の動き次第だな。」

「すみません、あの阿保とは?」

「あぁ、大天使セレスだ。あいつは何かと我に固執しておるのでな。近いうち必ず何かしらの干渉してくるだろう。」

「大天使ですか、であればなるほど。。」

「そういう事だ。仕掛けられる前に全てを蹂躙すればよいのだが、それでは関係の無い者達まで巻き込んでしまうのでな。」

「大悪魔ともあろう貴女が、人々の心配をされるのですね。」

「悪いか?」

「いえ、むしろ親しみを覚えただけですよ。ではもし今後そのような危機が生じた際は、我々も手伝わせて下さい。我々にとっても、きっと他人事ではないですから。」

「そうか、宜しく頼む。」


 こうして、アスタロトはサイリスと共に戦況を監視する事になった。


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