草原での戦い⑤
マーク、クレア、マーレー、そしてミスズの活躍により、里へと攻め入る魔族達を食い止める事に成功した。
4人とも、もはや王国魔術師団のレベルを軽く超越しているのはまちがいない。
特にマークの紅蓮の剣の威力は凄まじかった。
先程まで追い込まれていた、一体でも化け物クラスの魔族や魔物達を、マークはその剣で次々と斬り倒してしまったのだった。
これこそが、あの大悪魔アスタロトに傷を負わせた技の威力なのだ。
アスタロトに傷1つ負わせる技の威力とは、その他の存在には致命的なダメージを負わせる事が出来る程の強力な一撃なのである。
こうして、マーク達は魔族の軍勢を片付け、残す敵は最後尾に控えている一体のみとなった。
おそらく、あれが今回の軍勢の親玉で間違いないだろう。
その容姿は、巨大な獅子のようであるが大きな翼を広げており、尻尾は巨大な蛇になっていて、こちらに向かって大きく口を広げている。
そのあまりにも特徴的な容姿から、ここにいる全員があれ存在を知っていた。
そう、あれこそが、伝説級の魔物キマイラで間違いないだろう。
かつて、たった一体で一国を滅ぼしたとされる恐ろしい魔物。
そんな、化け物の中の化け物が、今マーク達の目の前に立ちはだかっているのだ。
「残すはあと一体のみだが、こいつはこれまでの相手とはまるで桁が違う。油断するんじゃねぇぞ!」
「えぇ!」
「分かった。」
「うん。」
マークの掛け声に、クレア、マーレー、ミスズが返事をする。
他にこの場にいたマリアナ達だが、先程までの戦いで疲弊しきっており、これ以上の戦いは無理そうなため下がって貰っている。
全員悔しそうな表情を浮かべながらも、居ても邪魔になるだけだとすぐに離脱してくれた。
だが、化け物クラスの魔族や魔物複数相手にあれだけ戦えた上、重傷者一人出さずに戦いきったのだから、本当に良くやってくれた。
そんなクラスメイト達が誇らしく、また彼らの為にもマークは目の前の怪物に負けるわけにはいかなかった。
クレア達の様子を伺うと、全員この魔物は先程までの魔物達とは桁が違う事は既に察しているようで、緊張した表情を浮かべていた。
ここからが本当の戦いだと、マークも握った剣に力を込め直した。
「おい、人間ども!よくもやってくれたな!お前達に致命傷を負わせる事は禁じられていたのだが、止めだ止めだ!お前達を敵と見做して、全力でやらせて貰うことにした!手加減抜きだ!」
ジリジリと間合いを詰めるマーク達に向かって、キマイラの方から声をかけてきた。
この魔物話せるのか驚いたが、そんな事考えている場合ではないとすぐに気持ちを引き締め隙を作らないように徹した。
致命傷を負わすのを禁じられたとかなんとか訳の分からない事を言っているが、それも全部あとだ。
この目の前の魔物相手に一瞬でも隙をみせれば、それ即ち死を意味するだろう。
それ程までに、近付けば近付く程、浴びせられる威圧は凄まじく、今すぐにでも逃げ出したくなる程だった。
「行くぞ!」
キマイラがそう叫ぶと共に、猛スピードで接近してきた。
でかい身体のわりに動きが素早く、マークの魔術付与された状態での全速力をも上回る程の速度で接近してきた。
直ぐ様、マーレーが氷の壁でキマイラの足を止めようとする。
いつ見てもマーレーの放つ魔力の質はずば抜けており、3段階は魔術のレベルを高めているのではないかと思える程の威力を誇っている。
生み出された氷の壁は、壁と言うよりまるで巨大な氷塊としてキマイラの前に現れたのだ。
そして、マーレーの魔術に呼応するように、クレアも上空から魔術を放つ。
第9位階魔術聖なる波動だ。
これも、流石はクレアだった。
これまでかなりの魔術を放っていたにも関わらず、まだこんな高位の魔術を放つ余力を残していたのだ。
この二人は本当に同級生なのかと疑いたくなる程に、人知を越えた頼れる仲間だ。
だが、それでも相手は伝説級の怪物キマイラだ。
あの巨大な氷塊を物ともせず叩き割ってしまったのだ。
そして、完璧なタイミングで放たれた聖なる波動がキマイラの身体に直撃したのだが、キマイラはその衝撃で大きくよろけはしたものの、その足を止める事なかった。
おいおい……本当に化け物すぎるだろと、マークは笑うしかなかった。
そして、マークの目の前まで迫ってきたキマイラは、勢いそのままその前足でマークに激しく斬りかかってきた。
マークは、紅蓮の剣でなんとかその攻撃を捌くが、キマイラの連撃は凄まじく止まる事なく浴びせ続けられた。
捌きながらなんとか隙を狙うマークだが、全くその隙が生まれない。
そして、あまりにも速いその連撃に耐えきる事ができず、逆にマークの剣が弾かれ相手に隙を作ってしまった。
それに気付いたキマイラはニヤリと笑うと、空かさずその隙を狙って一気に斬りかかってくる。
不味い!やられる!
そう思った時、キマイラの背後から一人の人物が現れた。
ミスズだ。
隙有りと油断したキマイラの背後から、逆にミスズが斬りかかったのだ。
まったく、主人のピンチを利用する使い魔なんて聞いた事ねぇぞ……だが、それでいい。
普通にやったらマーク達では敵わない化け物が相手なんだ、こっちもそれぐらいリスクを負わないと勝てる相手じゃないからな。
そして、ミスズは音をたてる事なくキマイラを仕留めるため、首もとに素早く斬りかかった。
だが、次の瞬間ミスズの肩に何かが食らい付くと、その動きを止められてしまった。
そして、それによりキマイラは止まる事なくマークに向かって斬りかかった。
「プロテクション!」
キマイラの攻撃が直撃する直前、マーレーによるプロテクションがマークに付与されたおかげで、マークは大きく弾き飛ばされたが多少の打撲のみで済んだ。
だが、これは非常に不味い事を意味していた。
炎の精霊状態のマークに、マーレーの鉄壁とも言えるプロテクションを重ね合わせたというのに、先程の一撃でダメージが貫通したのだ。
つまりは、もしあれを生身で浴びれば、一撃で身体が弾け飛ぶ程の威力だったのは間違いないだろう。
そうだ!ミスズは!?と慌ててキマイラの方を向くと、ミスズはキマイラの尻尾の蛇に噛みつかれたまま吊るされていた。
ミスズはなんとか必死に逃れようともがいているが、噛みついた蛇から逃れる事が出来ないでいた。
「おい、お前らの実力はこんなもんか?だがまぁ恥じることはない。俺も始めから全力だからな!」
そう言いながら、今度はゆっくりと歩み寄ってくるキマイラ。
マーク達が束になっても、全く敵わない相手。
それが、伝説級の化け物キマイラの実力だった。
それを悟ったマーク、クレア、ミスズの表情に絶望が浮かんだ。
またかよ!また俺は負けるのかよ!と地面を強く叩くマーク。
だが、マーレーだけは違った。
「第10位階魔術 白の世界」
マーレーの放った魔術により、辺り一帯が白く覆われた。
そして、マーク達の視界は全て白い霧により奪われてしまった。
「なんのつもりだ?視界を遮って時間稼ぎか?」
どうやら、キマイラの視界も遮る事には成功したようだ。
だが、それはここにいる全員が同じであり、キマイラが視界を奪われているようにマーク達も視界を奪われているため攻撃は届かないだろう。
だから、マーレーが何故この魔術を放ったのか、マーク達にも分からなかった。
だが、マーレーは次に予想外の魔術を唱えたのだった。
「……召喚!」
その詠唱に呼応し、白い霧の中からぼんやりと光輝くのが見えた。
そう、あの感じはマークもよく知っている魔術、使い魔召喚の魔術で間違いなかった。
「お願い、また私を助けて。側にきて。」
マーレーは今にも泣きそうな祈るような声で、そう呟いた。
すると、今度は白い霧の中でもハッキリと光輝くのが見えた。
そして、その光の中から一体の魔物が姿を現す。
「……良かった、また会えた。」
「グウォウ」
マーレーの涙ぐむ声に反応するように、現れた魔物が答える。
やがて白い霧が晴れ、徐々に現れた魔物の姿が見えてきた。
それは、以前アスタロトとの戦いで姿を現せたマーレーの使い魔と酷似した怪物。
アスタロトにやられ傷つきながらも、マークはあれの存在をその目にハッキリと焼き付けていたのだ。
あの怪物は、あのアスタロトの全身に深い傷を負わせていた。
これまでで、一番アスタロトを追い込んだ存在。
それが、再びマーク達の前に現れたのである。
再び、マーレーの使い魔として。
ただ、以前の禍々しい雰囲気とは異なり、色は黒から白に変わり、そして以前は理性を失ったようであったが今度はちゃんと理性を保っているように見える。
「……なんで貴様がこんな所にいやがるんだ。。」
マーレーの召喚した使い魔に気がついたキマイラは、それまでの歩みを止め、そして一歩後退した。
魔物の頂点とも言えるキマイラが、あろう事かマーレーの召喚した魔物相手にたじろいでいるのだ。
「主を護るのが、わたしの役目。」
キマイラの問いに、マーレーの使い魔が答える。
「主?誰が主だってんだ!?」
「グルノーブルの意思を次ぐ者。それを護るためにわたし、精霊カーバンクルは存在する。かつての恩義に報いるために。そして、か弱き少女、マーレーを護るためにわたしは生まれ変わった。」
そう告げたカーバンクルは、優しくマーレーに視線を向けた。
それはまるで、これまで待たせてごめんなさいと言うかのように。
そんなカーバンクルを見上げながら、泣きじゃくるマーレー。
「なんだか訳が分からねぇが、やろうってんならやるしかねぇな。。」
そう言うとキマイラは、尻尾で捕まえていたミスズを投げ飛ばすと、カーバンクルにだけ集中するように戦闘態勢に入った。
しかし、カーバンクルを前にしたキマイラには、これまでの余裕は全く無いのが見て分かった。
やるしかないとは言ったものの、敵うわけがないと始めから分かっているように見えた。
それ程までに、マーク達4人を圧倒したキマイラをもってしても、このカーバンクルの相手をするというのは厳しい戦いである事を意味していた。
「ふむ、そこまでだ。」
だが、そんな緊張が張り詰めた場に、突如上空から乾いた声が響いた。
突然の出来事に全員驚きながら上空を見上げると、そこには翼を広げたアスタロトと、隣に見たことのない男の二人が浮かんでいた。
「戦いはこれまでだ。しかし、お前達は我の期待を大きく上回る結果を残してくれた、誇るがよい。」
またまた更新が遅れて申し訳ありません。
在宅ワークと、それに伴うトラブル対応等で平日は本当に大変でした。。
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マークくんは、なんやかんややられちゃう展開多いですが、後程必ず輝く場面がやってくるので、ヤ○チャポジションではないです。
権限者の攻撃を剣で防いだだけでも、もはや王国で一番の剣士なのは間違いありません。




