いざゴエティアへ
翌朝、アルス達は2台の馬車に別れてミスズの故郷まで向かう事となった。
先頭の馬車にはマーク達隣のクラスの面々、そして2台目の馬車にはアルス達が乗り込む形となった。
今回、向かう先が魔族の国ゴエティアであるため、魔術を扱えない一般人には危険が伴うと判断し、魔術を扱える自分達のみで馬車を走らせる事となった。
「でも、本当にゴエティアに向かって大丈夫だったのでしょうか?」
「今更だねアルスくん。大丈夫さ、我々は弱くはない。ただ、今だから言うけれど、今回の行き先は皆に嘘をついて出てきたんだ。だから、この件は父には秘密にしておいてくれよ?」
やはり、まだ学生である自分達だけでゴエティアの、しかもその中でも奈落と呼ばれているエフに向かう事に不安を覚えたアルスの問いかけに対して、スヴェン王子は笑いながらさらりととんでもない事を言い出した。
「何、こういう未知の世界へ向かうというのは、いかにも冒険という感じがしていいじゃないか!まるで冒険者になったようだね!ハッハッハッ!」
しかし、アルスの心配を余所に、スヴェン王子は楽しそうに笑っていた。
どうやら、これまでのアルスの印象とは異なり、スヴェン王子という人は無茶が大好きな性格をしているようだ。
「もうっ!アンタになんかあったら国の一大事なんだから、ちゃんとしてよね!」
「分かってるよ!しかしクレア、君だって同じだろう?」
「そ、そんな事無いわよ!私は皆が行くって言うから仕方なく!」
「その割には、皆より先に参加表明していたように思うけどね。おっと、そろそろゴエティア内に入りそうだね。しかし改めて、この距離が半日で着いてしまうなんて、我ながら速すぎるな……。」
スヴェン王子の言葉に全員前を向くと、確かにいよいよ魔族の国ゴエティアが目前のところまで来ていた。
通常、アルブールからゴエティアまでは馬車で移動する場合、数日かかる程の距離がある。
しかし、そこはまだ学生であってもアルス達は魔術師の集まりであるため、代わる代わる馬に対して強化魔術を施し続ける事で、休みなく通常の5倍の速度で走り続ける事を可能にしているのだ。
そしてその結果、数日かかるはずの距離が僅か半日足らずでゴエティアまでたどり着いてしまったのである。
もっとも、その扱う魔術は第7位階に位置する高位の強化魔術であるため、最早かつての王国の魔術師団をもってしても成せる技ではなかった。
アスタロトさんの特訓を受け続けた結果、アスタロトさんには遠く及ばないものの、人間基準ではアルス達も十分チート集団と呼べる領域に達しているのであった。
「みなさーん!ここから先は秘密の通路を進みます!見通しが悪くなるので、はぐれないようについてきて下さいねー!」
いよいよゴエティアの入り口である深い森に入り込む直前、先頭の馬車から顔を出したミスズがこちらへ向かって手を振りながらそう叫んだ。
確かに、前方の森は木々に覆われ、かつ霧も濃く出ているため視界がとても悪かった。
これでは、ミスズの言うとおり少しでも距離が空くと前方を見失いかねない危険があった。
本当に、こんなところを突っ切って大丈夫なのかと少し不安になったが、ここまで来た以上覚悟を決めて進むしかなかった。
だが、馬車の速度も相まってか、幸い魔物と出会う事なく順調に奥へと進む事が出来た。
ミスズの言うとおり、この通路は周りを木々に覆われているものの、獣道レベルではあるがはっきりと道が続いているため、順調に突き進む事が出来ているのが一番大きいだろう。
しかし、全てがそう都合よくはいかなかった。
そう易々とゴエティアの、しかも奈落エフの奥地へと進む事は許されなかったようだ。
「何者だ貴様ら?そこに止まれ。」
日もすっかり落ち、暗闇に包まれた中、突如として前方に巨大な魔族が現れ突き進むアルス達の前に立ちはだかったのである。
そこには、身長は10m以上あるだろうか、青い肌をした1つ目の巨人の魔物、サイクロプスが2体こちらを見下ろしていた。
突如現れたサイクロプスを前に、一気に場に緊張が走る。
先頭を行く馬車からはマークが飛び降り、直ぐ様臨戦態勢に入ると、それに合わせて他の5人も飛び降りマークを支援するように構える。
「あ、ドルにゲルだね!久しぶり!」
しかし、そんな緊張が走る場には似つかわしくない緩んだ声が1つ鳴り響いた。
「ん?お前は……ミスズか?随分と大きくなったな。ということは、こいつらはお前の知り合いか?」
「うん!私の初めて出来た友達だよ!だから、この人達に手出ししちゃダメだからね!これから父さんと母さんに皆を会わせるんだ!」
「そうか、しかし何故人間と?」
「種族なんて関係無いよ!人間でも魔族でも魔物でも、必ず手を取り合えるって私は信じてる!」
どうやら、この2体のサイクロプスはミスズの知り合いのようだった。
ミスズが現れた事で、サイクロプス達は今まさに攻撃を仕掛けようと振り上げた巨大なこん棒をそっと下ろした。
「皆も!このゲルとドルはここで侵入者を阻止するのが仕事なの!でも私達は敵じゃないから、攻撃はしちゃダメだよ!」
ミスズの言葉を受けて、臨戦態勢だったマーク達は戸惑いながらも言われたまま、今まさに発動しようと展開していた魔法陣を解いた。
こうして、一触即発の状況であったが、ミスズにより解消されたのであった。




