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アスタロトvsサミュエル団長

「さぁ、ここなら思う存分戦う事ができます。」

「ふむ、確かにここならばいらぬ物を巻き込む事もなかろう。」


 サミュエル団長に連れられてきたのは、魔術師団専用の訓練場だった。

 外壁は高く積まれた石畳で覆われ、中には広大な平地が続いている。

 ここは、魔術師団が魔術の訓練を行う事に特化した場所なだけあって、壁際に的のようなものがあるのみで、他には障害物など何もない構造となっている。


「では、早速始めさせて頂いても宜しいですかね?」

「いや、少し待たれよ。せっかく人並みの服を与えられたのだ、不要に汚したくないのでな。」


 そう言うと、これも魔力の一種なのだろうか、アスタロトさんは自身の周りを黒い霧が包み込んだ。

 すぐに覆っていた霧が晴れたかと思うと、そこには元々の黒と赤のドレスを着たアスタロトさんが現れた。

 オマケに、頭には隠していた角も現れている。

 角無しも綺麗だけど、やっぱりアスタロトさんは角がある方が美人だなぁなんて、思わずアルスは見とれてしまった。


 これから二人の戦いなのに何を考えてるだと、すぐにアルスは緩んでいた気を引き閉め直した。

 そう、これから自身の使い魔であり大悪魔でもあるアスタロトさんと、王国最強であるサミュエル団長が戦うのだ。


「なるほど、そちらが本来の姿という所ですかな。」

「あぁ、この服は我の魔力で出来ておるのでな。汚れや傷などはすぐに修復できるのだ。」

「ほう、それは便利ですね。では、これで本当に準備は宜しいでしょうか?」

「あぁ、いつでもかかってくるがよい。」


 アスタロトさんがそう応えると、ついに二人の戦闘が開始となった。



「出し惜しみはしませんよ、最初から全力で行かせて頂こう。」


 そういうと、早速サミュエル団長は素早く魔法陣を展開した。

 展開した魔法陣の数は片手に1つずつで計2つ、これは並行魔術である。

 相当な熟練者でしか為せない技と以前授業で学んだ事がある。

 僕も一度、興味本位で試してみた事があるが当然無理だった。

 魔法陣を展開するには、その構成される要素を1つ1つ展開する必要があり、それを同時に2つ並行して展開するというのは、低位の魔術であっても物凄く難しい事なのだ。


 だからこそ、この並行魔術というのはサミュエル団長だからこそ出来る極地の技と言えるだろう。


「第5位階魔術 水槍の雨(レインアロー)!第7位階魔術 雷撃(サンダーボルト)!」


 サミュエル団長は、アスタロトさんめがけ2つの魔術を発動した。

 1つ目は水槍の雨(レインアロー)

 雨のような雨粒を上空からターゲットめがけ無数に照射する広範囲魔術だ。

 雨粒1つ1つが弓のように鋭く、凄まじい勢いで降り注ぐまさに回避不能の必中魔術だ。


 そしてもう1つは、人間が為せる最上位魔術とされる第7位階魔術の雷撃(サンダーボルト)だ。

 狙った対象に向けて雷の一撃を与えるという、まさに必殺の大魔術だ。

 この大魔術を扱える人間は、この王国の歴史をもってしても、過去数える程しかいないと言われている。

 しかもサミュエル団長は、それを並行魔術で操り、水槍の雨(レインアロー)で相手の足止めをさせる事で雷撃(サンダーボルト)の命中確度を上げるだけでなく、水槍の雨(レインアロー)でアスタロトさんとその一帯を水に濡らせる事で、雷撃(サンダーボルト)の効力自体を引き上げる事まで狙っての攻撃だ。


 これこそが、王国最強の魔術師の戦いかと感心してしまったが、これでは流石のアスタロトさんもただでは済まないのでは!?という事にすぐ気が付き、すぐにアスタロトさんの様子を伺った。

 すると、なんとあろう事かアスタロトさんは先程から一歩も動かず棒立ちのまま、サミュエル団長の放った水槍の雨(レインアロー)を全身に浴びているのだ。

 しかし、そこでアルスは可笑しな事に気が付いた。

 アスタロトさんは、無数の水槍の雨(レインアロー)を全身に浴び続けているにも関わらず無傷なのだ。


 だがそれでも、サミュエル団長の撃った雷撃(サンダーボルト)がそのままアスタロトさんに直撃してしまい、轟音と共に辺り一帯が物凄い勢いで爆発した。


「ア、アスタロトさん!!」


 僕は思わず叫んでしまった。

 流石にこれは無事であるはずがない。


「……ふむ、中々の魔術だな、王国最強というのも頷ける。」

「……直撃はしたはずなのですがね。」

「悪くはないが、我を倒すには威力が足りなすぎる。低位の攻撃では、我には傷1つ付ける事などできぬ。」


 そういうと、先程の爆発で起きた砂煙の中から、無傷のアスタロトさんがゆっくりと歩み出てきた。


「ならば!!第6位階魔術 聖なる光球(セイントボール)!!」


 驚いたサミュエル団長だったが、直ぐ様次の魔術を発動させた。

 聖なる光球(セイントボール)は、聖なる力を球状に圧縮し相手にぶつける高等魔術だ。

 魔の属性である相手に効果が大きい魔術のため、悪魔であるアスタロトさんにも効果があるはずだった。

 しかし……。


「下らん。」


 一言そう言うと、目の前まで迫った聖なる光球(セイントボール)を、なんと片手で真横に弾き飛ばしてしまったのだ。

 弱点である属性で、それも第6位階魔術であるにも関わらず、アスタロトさんはそれを簡単に片手で簡単に弾いて見せたのだった。


「いやはや……これは流石に、私ではどうにもなりませんね。」

「そういう事だ。人と我とでは埋められぬ差がある。しかしそれは、魔族とて同じこと。だからそう悔しがるでない。」

「これ程ですか。。」


 サミュエル団長は、そう言うと諦めたように両手を上げ降参のポーズをとった。

 凄い、、アスタロトさんは物凄く強い事は分かっていたけれど、まさかサミュエル団長ですら戦いにならないレベルだとは思いもしなかった。

 というか、さっきの攻撃で傷1つ付いてないなんていうのは、流石に規格が違いすぎる。


「待たれよ。我はお前の攻撃を防いだだけで、まだ攻撃すらしておらぬぞ?」


 そう言うと、アスタロトさんは片手を前に掲げ魔法陣を展開した。


 相手は降参しているというのに攻撃を仕掛けるなんて、アスタロトさんはやっぱり悪魔だ。

 なんて思いながら成り行きを見ていると、アスタロトさんが展開したのはあの時と同じ綺麗な赤色の魔法陣。


 だが、今回のは訳が違った。

 なんと、魔法陣が同時に5つも展開されているのだ。


「5つの魔法陣を同時に展開だと!?」

「なに、ちょっとした並行魔術のお手本だ。」

「なんと……!!」


 そして、アスタロトさんはそのまま魔術を詠唱した。


「こうして複数の魔術を合わせて、1つの魔術を錬成する事もできる。これを多重魔術と言う。並行魔術より更に難度は高くなるが、その分強力な魔術を生み出すことが出来る。まぁ百聞は一見にしかずだ、第15位階魔術 黒の炎獄(ダークインフェルノ)


 そうしてアスタロトさんは詠唱を唱えると、魔法陣の中から漆黒の炎が溢れ出し、一瞬にしてサミュエル団長の周りは漆黒の炎で囲まれてしまった。


「な、なんだこれは!?」

「気を付けろ、その黒い炎は魂を焼き付くす炎だ。ただの人間では触れた瞬間あの世行きだぞ?」


 魂を焼き付くす炎だって!?

 しかも今、第15位階って言ったよね!?

 え、魔術は第10位階までしかなかったのでは!?

 と、最早常識など通用しない領域にある魔術をこの目に見せられたアルスもまた、腰を抜かす程の驚きを隠せなかった。


「こんな魔術が存在するとは……!!こんな魔術が、もし街に向けられでもしたら……。」

「そうだな、一瞬で人や魔族の命など刈り取れてしまうだろうな。」

「な、なんという……!!」

「安心しろ、お前が並行魔術を使えるものだから、参考に我の多重魔術を見せてやっただけだ。」


 そう言うと、アスタロトさんは指をパチリと鳴らすと、たちまちにサミュエル団長を囲っていた漆黒の炎は消え去っていった。


「我はかつてこの地を滅ぼした悪魔アスタロトだ。お前達が警戒するのは必然であろう。だが今、我はアルスの使い魔だ。それ以上でもそれ以下でもない。要するに、アルスに危険が及ばない限り我がお前達人間に何かする事は無いと知れ。」

「……なるほど、肝に命じておきましょう。」

「ふむ。」

「正直、アルスくんの使い魔であって本当に良かったと思うよ。悪魔であるアスタロト殿が、もし純粋に悪魔として我々の前に立ち塞がった時、この国、、いや、この世界は終わるのでしょうな。それも容易く。」

「本気を出せば、一晩とかからないだろうな。」

「……冗談だと信じたいところですな。」

「それでよい。」


 こうして、アスタロトさんとサミュエル団長の戦いは一方的な結果で終了した。

 しかし、サミュエル団長ですら相手にならない使い魔を持ってしまったアルスは、これからどうなるんだろうか。


 そんな事を考えただけで、胃がいたくなるアルスであった。

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