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対アスタロト⑤

 わなわなと震えだしたマーレーなどお構い無しに、アスタロトさんは上空からゆっくりと近付く。

 徐々にアスタロトさんとマーレーとの距離が縮まるにつれて、マーレーの表情は恐怖から絶望の色へと変わっていく。

 それは、改めて自分はとんでもないものを相手にしてしまったという後悔。

 そして、自分の最後を悟ったからである。


「私は……父と母の仇を……。」

「……何の話しだ?」

「だって貴女が!!貴女が私の父と母!そして私達の国を滅ぼしたのでしょう!?」

「……国を滅ぼす?」

「えぇ!!グルノーブル共和国よ!!自由と平和を愛した私達の国は突然現れた貴女によってその全てを滅ぼされた!!」


 マーレーは、素知らぬ素振りをするアスタロトさんが許せないとばかりに、自暴自棄になると此度の戦いを挑んだ理由を叫んだ。

 それは、自分の父と母、そして自分の国を消し去った事に対する復讐なのだと。


「お前は勘違いをしておるようだな。」

「何が!?」

「我はグルノーブルを滅ぼしてなどおらん。滅ぼしたのは魔族だ。」

「嘘よ!!」

「何故そう言い切れる?」

「天使様がそうお告げ下さったからよ!!」

「……あいつか、なるほどな。」


 マーレーの話を聞き、全てを察したアスタロトさんは、その綺麗な顔を怒りで大きく歪めた。

 今のアスタロトさんは、絶対に怒らせてはいけない存在を怒らせてしまったのだと、いつも一緒にいるアルスですらも震える程の迫力があった。

 その姿はまさに、大悪魔と呼ばれるに相応しい程に。


 マーレーの言った天使とは、この世界にたった一人いる天使、セレスさんの事だろう。

 この国に語り継がれてきた歴史、そして以前のアスタロトさんとの話からも、アスタロトさんがグルノーブル共和国を壊滅させたというのは恐らく誤解だ。

 しかし、天使であるセレスさんが何らかの手段を用いてマーレーを洗脳する事で、マーレーはグルノーブル共和国を滅ぼしたのがアスタロトさんだと思い込んでしまっているようだ。


 しかし、何故1000年前の出来事を今マーレーが語っているのか、そして先程の大魔術を何故放つことが出来たのか、色々と不可解な点が多すぎるのは確かだ。


「第18位階魔術 初期化(リセット)


 アスタロトさんは、恐怖と怒りに支配され、最早自我を失ってしまっているマーレーに魔術を放った。

 すると、マーレーの全身が青く輝いたかと思うと、糸が切れたようにそのままその場にバタリと倒れてしまった。


「安心しろ。殺してはおらぬ。」


 まさかと思い声を上げようとしたが、声を発する前にアスタロトさんから殺してはいないと言われ一先ずは安心した。


「こいつがセレスに操られているのが分かったのでな。その呪いを解いてやっただけだ。」

「呪い……ですか?」

「あぁ、あの木っ端悪魔と同じく、セレスにより暗示のようなものがかけられていた。今度は、我でもすぐには分からないような精度でな。そしてもう1つ、あいつは自身の加護をこいつに与える事で、人間では到底操る事など出来ない高位の魔術を可能にさせていた。」

「そんな事が……。」


 アスタロトさんの説明を受けて、アルスにもようやく事態が飲み込めてきた。

 要するに、今回の出来事は全てセレスさんによるものであったという事だ。

 それが分かると、アスタロトさん同様、アルスの中にもフツフツと怒りが湧いてくるのが分かった。


 天使とは、人々を、世界を守護する存在ではなかったのか?

 それが何故、こんな少女一人を騙し貶めるような事をするのか、アルスには全く理解が出来なかった。


「……何故、私はここに?」


 すると、先程の魔術で洗脳が解けたマーレーは静かに目を覚ました。


「マーレー!!貴女無事なの!!」

「……クレア?」


 目を覚ましたマーレーの元へと一番に駆けつけたのはクレアであった。


「お願い!!この子の事は殺さないで下さい!!私が戦いを挑んだ事も謝るわ!!だからどうか!!」


 マーレーの無事を確認したクレアは、アスタロトさんとマーレーの間に立ち、そして両手を広げてマーレーを庇うように立ち塞がると、足をガタガタと震わせながらもアスタロトさんの方をしっかりと見てアスタロトさんに向かって頭を下げた。


 普段、あまり人付き合いを好まないマーレーだが、クレアとだけは仲良くしているのを度々見かける事があった。

 だが、普段のアスタロトさんではなく、怒りに満ちたあのアスタロトさんを前にしてもあの行動が出来るクレアは、アルスが思っていた以上にマーレーの事を思い、そして勇気のある女性なのだと分かった。

 だからこそ、アルスも黙って見ているわけにはいかない。


「アスタロトさん、僕からもお願いします!」


 アルスは震えるクレアの横に駆け寄ると、一緒に両手を広げてマーレーを庇い、そしてアスタロトさんへお願いした。

 今回の件は、アスタロトさんは全く悪くない。

 だからこそ、一時の感情でアスタロトさんに罪を被って欲しくはないのだ。


「……殺しなどせん。そうだな、我も少しばかり熱くなってしまったようだ、反省しよう。」


 アルスとクレアの懸命な訴えを受けて、アスタロトさんも落ち着きを取り戻してくれた。


 こうして、アスタロトさんによる特訓は思わぬ形での終了となった。


次回、マーレーの過去を少し掘り下げます。


良かったら、評価・ブックマーク等頂けましたら励みになりますので、宜しくお願い致します。


【補足】

第18位階魔術 リセット。

これは、回復系魔術の最上位の位置付けの魔術です。

あらゆる状態異常や物理的ダメージ等、対象に向けられた全ての干渉に対して、それを受ける以前の状態に戻す効果が与えられます。

デメリットとしては、デバフだけでなくバフ効果についても同様に作用するため、これでマーレーはセレスによる加護も打ち消されています。

マーレー単体では、第10位階魔術まで扱えるので、それでも人間最強に近い存在です。

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