対アスタロト④
「ほう、我が貴様に恨まれる心当たりなどないのだがな。」
「……知らなくていい。私には、貴女を倒す使命がある。」
「そうか、まぁなんでもよい。ならばさっさとかかってくるがよい。」
そして、このやり取りが開始の合図となった。
いつもは無表情なマーレーであるが、そのアスタロトさんの一言を受けて怒りの表情を浮かべていた。
「……お前が!お前が私達の国を!!許さない!!」
そして、マーレーはそのままアスタロトさん目掛けて特大の魔術を放った。
それは、これまでアスタロトさんと行動を共にしているアルスでも見たことがない程の巨大な魔術であった。
「第17位階魔術 三重水の大竜巻!」
マーレーの放ったのは、3つの巨大な水流であった。
その1つ1つが、まるで巨大な龍が現れたような大きさを誇り、渦巻く水流はその全てを飲み尽くすかのような激しさを伴っていた。
そんな、ただでさえ1つでもとんでもない魔術を、マーレーは同時に3つ詠唱してしまったのだ。
「ほう、これほどの高位な多重魔術をまさか人であるお前が操れるとはな。」
だが、アスタロトさんはその3つの巨大な水流を前にしても驚く事はなかった。
そして、アスタロトさんも魔術を詠唱した。
「流石にこれをそのまま受けるわけにはいかんのでな。第18位階魔術 魂喰らい」
そう唱えると、アスタロトさんの展開した魔法陣から巨大な黒い植物のようなものが飛び出してきた。
飛び出す漆黒の蔦の先端には巨大な口のようなものがついており、それが無数の数飛び出してきたのだ。
そして、マーレーの放った魔術とアスタロトさんの放った魔術の2つが激しくぶつかり合うと、アスタロトさんの放った魔術はマーレーの放った魔術をそのまま喰らいかかったのであった。
マーレーの放った魔術が巨大な龍だとするなら、アスタロトさんの放った魔術はまるで無数のピラニアのようであった。
そしてそのまま、マーレーの放った魔術はアスタロトさんの魔術に無惨にもその全てを喰われてしまったのである。
マーレーも、まさか自分の放った魔術がアスタロトさんに1つも当たることなく全て食べられてしまうなんて思わなかったのだろう、口を大きく開けて驚きの表情を浮かべたまま固まっていた。
「……で、何故ただの人間であるはずのお前が、こんな魔術を放てるのだ?」
そう言うと、驚くマーレーに向かってアスタロトさんはゆっくりと歩き出した。
その表情には、これまで見たこともない怒りの表情を浮かべていた。
「クソ!カーバンクル!!」
ゆっくりと近寄るアスタロトさんに気が付いたマーレーは、取り乱しながらも使い魔であるカーバンクルを召喚した。
そこには、これまで誰にも感情を表に出さなかったマーレーの姿などもうなかった。
自分の持てる最大限であろう魔術を簡単に防がれてしまった事に焦り、そして取り乱しているマーレーがそこにはいた。
「カーバンクルまで、このようにしてしまったのか。」
アスタロトさんは、目の前に現れたカーバンクルを見て、より一層不愉快そうにそう呟いた。
何故なら、マーレーの召喚したカーバンクルは以前見たカーバンクルの姿とは大きく異なっていたからだ。
マーレーのカーバンクルは、以前の愛らしい姿はそこにはなく、黒く禍々しいオーラを放つ巨大な龍の姿に変わっていたのだ。
その禍々しい姿となったカーバンクルは、大きな雄叫びをあげると共に、口から巨大な黒いエネルギー波をアスタロトさん目掛けて放った。
それは、以前デーモンロードのイワンが放った魔術よりも更に一回り大きく、そして威力も段違いであった。
その黒い渦はあっという間にアスタロトさんの全身を飲み込むと、そのままその直線上にあった壁も建物も全てを飲み込み、そして激しい音と共に全てを破壊し尽くしてしまった。
これが、マーレーの召喚したカーバンクルの真の力だというのか。
あまりにも激しいその一撃に、この場にいる全員がただ呆然とその成り行きを見守る事しか出来ないでいた。
「この畜生と戦うのは、2度目だな。ふん、相変わらずふざけた畜生だ。」
先程の一撃を全身に浴びたと思われたアスタロトさんであったが、自身の羽根を広げながら上空に浮かんでいた。
しかし、そこに居たのはいつもの無傷のアスタロトさんではなかった。
その全身に、無数の傷を負ってしまっているのだ。
「ア、アスタロトさん!!大丈夫ですか!?」
アルスは思わず声をあげてしまった。
まさかあの、いつも余裕で最強と思わせるアスタロトさんが、その身にあれ程の傷を負ってしまうなんて思わなかったのだ。
「アルスよ、今は特訓の最中だぞ?敵である我を心配してどうする。」
「もうそんなこと言ってる場合じゃ!傷が!」
「ふふっ、相変わらず優しいやつだな。だがアルスよ、心配は無用だ。こんな畜生ごときに我が負ける事など有り得ないのだからな。」
心配するアルスを見て、アスタロトさんは嬉しそうに少し笑みを浮かべると、再びカーバンクルに視線を戻した。
「さて、やってくれたな畜生よ。覚悟は出来ているのだろうな。」
そして、アスタロトさんは上空からカーバンクルに向けて魔法陣を展開する。
その魔法陣の数、そしてその大きさは、これまで見たどの魔術よりも数が多く、巨大で、そして一つ一つが非常に複雑であった。
アスタロトさんの展開する魔法陣に気が付いたカーバンクルは、慌てて第二波をアスタロトさん目掛けて放とうとする。
だが、カーバンクルの放つ黒い渦がアスタロトさんの元に届くことはなかった。
「超位魔術 地獄への道。」
アスタロトさんは、カーバンクルの攻撃が放たれるより前に魔術を放った。
すると、カーバンクルの背後に突如として大きな鎌を持った巨大な黒い死神が現れた。
そして、その死神は手に持った鎌でカーバンクルの身体を軽々切りつける。
その鎌は、カーバンクルの身体を実際に切る事はなく、その身体をそのまま貫通させたかと思うと、それを受けたカーバンクルは一瞬にして絶命したかのようにその場に崩れ落ちてしまったのであった。
「カ、カーバンクル!?貴様ぁ!!私の子に何をしたの!?」
マーレーは、突然崩れ落ちてしまったカーバンクルの元へと慌てて駆け寄ったが、先程の攻撃により既に絶命していた事を悟った。
そして、その怒りをそのままアスタロトさんへと向け、睨み付けながらそう叫んだ。
「お前からあれ程の攻撃を仕掛けておいて、随分な言い方だな。……お前こそ、何のつもりだ。」
怒りを向けられたアスタロトさんであったが、怒るマーレーに向かって更に厳しい目付きで睨み返した。
アスタロトさんの鋭い眼光からは、目に見えない波動のようなものが飛び出し、一瞬にして辺り一帯の緊張を高めた。
それを受けたマーレーは、先程の怒りすらも全て飲み込まれてしまったかのように、小さな悲鳴と共に一瞬にして怒りの表情から恐怖の表情へと変わってしまった。
アルスが見ても分かる。
アスタロトさんは、本気で怒っているのだと。
そしてその激しいプレッシャーは、マーレーだけでなくこの場にいる全ての人間が恐怖で固まってしまう程凄まじかった。
「覚悟はいいか、小娘よ。」
そして静かに、アスタロトさんはマーレーに向かってそう告げたのだった。
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