対アスタロト③
行動を開始したアスタロトさんは、まずは先程戦闘していたマークともう一人、スヴェン王子の背後に立った。
その速度は、ここにいる誰もが目で追うことなどできなかった程速かった。
「なっ!?くそっ!!」
突然背後に立たれたスヴェン王子も驚きを隠せなかったようだが、咄嗟に危険を察知するとアスタロトさんとの間にシールド魔術を展開した。
展開されたシールド魔術は、魔術師団員が扱うものよりも更に一層分厚く、その精度の高さは流石の一言であった。
「ふむ、良い反応だ。だが、これではダメだ。」
そう言うと、アスタロトさんはスヴェン王子の展開したシールドに向かって軽くデコピンをした。
すると、スヴェン王子の張ったシールドはそれだけで無惨にも粉々に破壊されてしまった。
「だろうね!それはこちらも想定済みだ!」
シールド魔術を簡単に破壊されてしまったスヴェン王子であったが、驚く事もなく生まれた僅かな時間ですぐに次の行動に移っていた。
「ほう?勘が良いな。」
「勘も何も、端から通用するなんて思ってないさ!第9位階魔術 光の剣!」
シールド魔術を生け贄に、僅かに生まれた隙を見逃さなかったスヴェン王子は、己の持てる最上位の魔術を展開した。
展開したのは、第9以階魔術 光の剣。
光の粒子を集約し、剣状に集約させた正に言葉通り光の剣である。
炎や氷などの属性に比べ、集約した光が生み出すその威力は一段と高いものとなっている。
また、魔の属性に対しては効力が跳ね上がる特性もあるため、スヴェン王子が扱う事のできる魔術の中で、1番対アスタロトさんに有効だと判断したのがこの光の剣なのである。
「まぁ、正直これも通用するとは思えないが、やれる限りやらせて貰おうか!」
そうしてスヴェン王子は、そのまま光の剣を思いっきりアスタロトさん目掛けて横から斬りつけた。
光の剣は、アスタロトさんに近づくにつれ一気に巨大化し、その一太刀はアスタロトさんの全身を覆うほどの質量まで膨れ上がり、そしてそのままアスタロトを飲み込んだ。
「ほう、中々やるではないか。」
しかし、スヴェン王子の光の剣がアスタロトさんを飲み込んだように見えたが、よく見ると光の剣とアスタロトさんの間には、分厚い障壁が展開されていた。
そして、その障壁により光の剣はアスタロトさんの身に一切触れる事すら無く、その場から消え去ってしまった。
アスタロトさんが展開したのは、先程スヴェン王子が扱ったのと同じシールド魔術であった。
しかし、それはアルスも以前見た、いやあの時以上に高い精度を誇っていた。
まるで、巨大な鉄の板がそこに存在するかのように、絶対に壊れる事など無いと思わせる程の巨大な防壁が、巨大な光の剣の全てを遮ってしまったのだった。
「だが、当たらなければ意味はない。」
「ふぅ、分かってはいたが、本当にデタラメだな君の魔術は。」
「先程の一撃をこの身に受ければ、傷の1つぐらいは付いたやもしれぬ。これからも己の業を極めるがよい。」
自分の渾身の一撃を簡単に無効化されたスヴェン王子は、やれやれと諦めたように笑うしかなかった。
そして、また一瞬にしてスヴェン王子の背後に回り込んだアスタロトさんは、魔術を使う事も無くスヴェン王子の首をトンと叩くと、スヴェン王子はそのまま気絶しその場に倒れてしまった。
こうして、マークくんに続きスヴェン王子も戦線離脱してしまったのだった。
「さて、次は誰にしようか。」
アスタロトさんは、次を標的を探すべく周りをぐるりと一瞥した。
そして、一人の存在がそこにいる事に気が付くと、うっすらと笑みを浮かべた。
「ほう、お前もおったのか。前からお前には多少の興味があったのだ。」
「……そう。」
アスタロトさんが声をかけたのは、同じクラスのマーレーであった。
普段、マーレーはこういう集まりなどには全く興味を示さず、授業が終わればすぐに帰宅していたのだが、今日は何故かこの場へとやって来ていたようだ。
「……私も、貴女に興味がある。」
「ふむ、では隠すことなく全力でかかってくるがよい。この場で1番強いのはお前だ。」
アスタロトさんは、驚くべき事をさらりと言った。
スヴェン王子やマーク、そしてあのサミュエル団長もいるこの場で1番強いのは、マーレーだと言うのだ。
「……私には目的がある。それは、貴女を倒すこと。」
マーレーは、アスタロトさんのまさかの言葉を受けても少しも動揺する事なく、代わりに手に持っていた杖をアスタロトさんの方へ向けると、先程のアスタロトさんの言葉よりも更に驚きの言葉を呟いたのであった。
マーレーの目的は、アスタロトさんを倒す事だと。




