対アスタロト①
「無論、アルスもだぞ。さぁ、準備の出来た者からどこからでもかかってくるがよい。」
突然の宣言に、訓練場に集まった全員は一瞬何の事だか理解が追い付かなかった。
でも、すぐに全員アスタロトさんの言った事の意味を理解し、そして全員が狼狽えた。
―――全員でかかってこい。
ここ、近隣の国々においても最も魔術の発展した国であるアルブール王国の中においても、最強と言われるサミュエル団長やその魔術師団、そして僕達クリストフ魔法学校の生徒達を相手に全員でかかってこいという話は、通常なら馬鹿げた話である。
でも、ここにいる全員が知っているのだ。
自分達が束になった所で、このアスタロトさん相手に敵うわけがないと。
其ほどまでに、自分達とアスタロトさんの持つ力との間には、差なんて言葉で片付けられない程の距離があった。
「これはただの余興ではないぞ。これからの戦いにおいて、お前達1人1人では敵わないような相手が現れた時の為の訓練だ。互いに共闘し、見事我の隙を付き傷を1つでも与えられる者が現れれば合格だ。」
アスタロトさんは言った、これは余興ではなく訓練だと。
確かに、アスタロトさんは圧倒的に強い。
だけど、アスタロトさん以外でもデーモンロードのイワンさんや魔族レベルの相手が現れた時、自分達個人の力のみで勝てるかと言ったら、答えはノーだ。
そのクラスの相手が現れれば、残念ながら戦いにもならないというのが現実なのだ。
そうしてやっと、ここにいる全員がアスタロトさんの言っている意味を理解し、そして全員が臨戦態勢へと入った。
もし、アスタロトさんのような災害レベルの相手が敵として目の前に現れた場合、それは即ちこの国の終わりを意味する事態だと思う。
だから、そんなアスタロトさんが敵役として相手をしてくれるなんて事は、通常あり得ない事だし有難い話だと思う。
だからこの特別な機会に、アスタロトさんの言う通り自分より強い相手と戦う際の連携を身に付けなければならない。
「なるほど、アスタロト殿のおっしゃる通りですな。我々より強い相手などこの世には五万とおりましょう。ここは、ご厚意に甘えてその肩を借りると致しましょう!!行くぞ!!」
緊張の走る中、最初に声を発したのはサミュエル団長であった。
そして、そのサミュエル団長の一言を皮切りに魔術師団の一団は一斉に魔術を唱え始めた。
唱えた魔術は、第3位階魔術の火の球と氷の球であった。
どちらも其ほど位の高い魔術ではないが、そこは流石の王国魔術師団の中でも上位者のみが属するサミュエル団長の率いる魔術師団である。
アルス達学生が唱える魔術と比べ、そのどれもが大きさも威力も倍ほどはあるであろう強力な一撃であった。
これは、これまでのアスタロトさんによる特訓の成果でもある。
サミュエル団長の懇願により、日々行われていたアスタロトさんによる魔術の訓練によって、魔術師団全員の扱う魔術の質は以前とは比べ物にならない程上達しているのだ。
そうして、アスタロトさん目掛けて炎と氷の無数の塊が一斉に降りかかった。
だが、アスタロトさんは避ける素振りすら見せず、その身に降りかかる魔術を全てその身に受けてしまった。
炎と氷の塊は、アスタロトさんのいる場所へと到達すると互いに干渉し合い、そしてその場に激しい大爆発を発生させた。
これこそが魔術師団の狙いだった。
いくら魔術のレベルが上がったからと言って、1つ1つの魔術ではアスタロトさんには傷1つ与えられない事は全員承知の上であった。
だからこそ、炎と氷の塊2つを合わせることで、放った魔術以上の威力を生み出したのである。
そうして生じた大爆発により、アスタロトさんの立っていた一帯は大きくえぐれてしまっていた。
しかし、それでもアスタロトさんには届かなかった。
大爆発が起きた中心に、アスタロトさんは無傷のまま魔術を受ける前と同じ姿勢のままその場に立っているのである。
「……全く、どこまで出鱈目なのですか、貴方は。」
「ふむ、だが悪くない攻撃であったぞ。あのイワンとかいう木っ端悪魔であれば、再起不能程度にはダメージを負っていたはずだ。」
「そうだと良いのですが、無傷で立たれては説得力に欠けるというものですよ。」
先程の魔術師団の攻撃を褒めるアスタロトさんであったが、その身に全て受けて尚無傷のままその場に立たれては確かに説得力がなかった。
だが、サミュエル団長が話終えたその瞬間であった。
アスタロトさんの背後の影から1人の人物が突如として現れ、そして勢い良くアスタロトさんの首元目掛けて斬りかかったのであった。
アサシンオーガのミスズさんだ。
教室でじゃれていた時のそれとは段違いのスピードと殺意をもって、一気にアスタロトさんに襲いかかったのである。
これにはアスタロトさんも油断したのだろう。
すぐに後ろを振り返ろうとするが、間に合わなかった。
そしてそのまま、ミスズさんはダガーで首元に斬りかかった。
これは確実にアスタロトさんでも致命傷を負うと思われたが、しかしそれでもその刃はアスタロトさんに届く事は無かった。
ミスズさんのダガーは、見えない防壁により完全に防がれてしまっていたのである。
「なっ!?こんなの卑怯ですよお師匠!!」
「ふん、急に影から現れて首を斬りつけてくる奴に言われたくはない。」
確実に致命傷を与えたと思われたミスズさんの一撃は、まさかの絶対防御により防がれてしまったのであった。
「今の魔術師団の一撃、そしてミスズの不意の一太刀、どちらも悪くはない。だが、決定的に1つ欠けたものがある。それは技そのものの威力だ。我に傷を付けるには、単純にそれでは威力が足りないのだ。魔術であればもっと高位のものを、一太刀であればもっとその技を極めよ。」
そう言うと、アスタロトさんは次の攻撃を仕掛けていたミスズさんを片手で凪ぎ払うと、ミスズさんはそのまま外壁まで大きく吹き飛ばされてしまった。
アスタロトさんは、それを分からせる為に先程の攻撃をわざとその身に受けたのだろう。
どれだけ攻撃の数を重ねたり、不意をついても無駄だという事を知らせるために。
技そのものの質を極めない限り、アスタロトさんには傷1つ負わせることは出来ないという事だった。
「成る程な、だったらこれはどうよ?」
「そうだな、俺も試すとしよう。」
そんなアスタロトさんの一言を受けて、今度はマークとスヴェン王子がアスタロトさんの前へと歩み出た。
また期間空いてしまい大変申し訳ございません。
やはり年末年始は色々と忙しく、中々時間が取れませんでした。
そんな私ですが、これまでこの作品を読んで頂きありがとうございます。
来年からも、引き続き執筆は続けさせて頂きますので、宜しくお願い致します。
それでは皆様、よいお年を




