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クレアからの挑戦

 あの日から、アルスとアスタロトさん二人の距離は確実に縮まっており、彼氏彼女のような形とはまだ全然違うのだけれど、互いのスキンシップは確実に増えていた。

 未だに、自分なんかがこんな世界一の美女と言っても過言では無いアスタロトさんと触れ合っている現実が信じられないでいる。

 でも、これまでのようにそれを理由に勝手に落ち込むような事はもう卒業したのだ。

 自分に至らない点があるのだとしたら、それを克服していく事こそ、アスタロトさんの気持ちに応えるという事だと思うから。




「大悪魔アスタロト!!私と勝負なさい!!」


 そんなある日、授業も終わり帰宅しようと支度していたところ、目の前で仁王立ちしたクレアが突然アスタロトさんに向かって宣戦布告をしたのだった。


「ほぅ、勝負?」

「そう、決闘よ!あの日から急にアルスくんにベタベタして羨ま……じゃなくて風紀が乱れてるわ!もう我慢の限界よ!言ってダメなら私が分からせてあげる!!」

「そういう事か。良いだろう、相手をしてやる。」


 鼻息をフンフン鳴らしながら怒るクレアの挑戦であったが、アスタロトさんはまさかの二つ返事でその挑戦を受け入れたのであった。


「ちょ、ちょっと二人とも!決闘ってなんで!」

「やれやれ、アルスくんの鈍感にも困ったものだな。」


 慌てて止めに入ろうとするアルスに対して、事の成り行きを見ていたスヴェン王子が呆れたように加わってきた。

 周りを見ても皆同じリアクションをしており、どうやら何も分かっていないのは本当にアルスだけのようだった。


「すまんな、我の主の鈍感は筋金入りだ。だが、お前も覚悟を決めろ。我に戦いを挑むのだ、手加減などせぬぞ。」

「わ、わかってるわよ!初めからそのつもりよ!」

「良かろう、ならばついでだ。魔術師団の訓練場を借りるとしよう。」


 こうして、アスタロトさんの提案に従い王国魔術師団専用の訓練所へと向かう事となった。



「何事かと思いましたが、ほぅ、決闘ですか?」


 訓練所へ着くと、サミュエル団長が一体何事かとやってきた。


「あぁ、こいつが我を分からせたいと煩いのでな。」

「ほぅ、これはまた……そうですか。」


 顎髭を擦りながら、事の成り行きを瞬時に理解したであろうサミュエル団長は、そのままアルスの方を向いて哀れみの笑みを向けてきた。


 やっぱり、今回の決闘は自分が関係してるんですね……。

 でも、なんでクレアは僕達の事にいつも干渉してくるのだろう。

 別に、僕達以外にも付き合ってる男女はいるのに。


「さぁ、早く始めましょう!」


 そうこうしていると、既にアスタロトさんとの距離を充分にとり、いつでも戦えるとばかりにクレアが急かした。


「こちらはいつでも構わん、さっさとかかってくるがよい。」


 挑発するクレアであったが、気にも止めていないアスタロトさんの余裕の返答に対して、クレアの表情には怒りが表れていた。


「じゃあ、行くわよ!」


 クレアは直ぐ様使い魔のペガサスを召喚すると、ペガサスに跨がりアスタロトさん目掛けて突進を開始した。

 光のごとく高速で、あっという間にアスタロトさんの目の前まで迫ると、クレアは予め展開していた魔術付与した光の剣でアスタロトさんに思いっきり斬りかかった。


「魔術で敵わないなら、近接はどうよっ!」

「遅いな。」

「なっ!?ウソ!?」


 だが、その光速の一撃もアスタロトさんへは届きはしなかった。

 なんと、アスタロトさんはクレアの一撃を交わす事なく、剣先を親指と人差し指で摘まんで防いでしまったのだ。


 そしてアスタロトさんは、片手で剣を摘まんだまま逆の手で魔法陣を展開した。


 そんなありえない出来事に、一瞬呆気にとられたクレアであったが、アスタロトさんが魔法陣を展開している事に気が付くと、すぐに危険を察知したクレアは剣を手放し急いで距離を取った。


「ふむ、良い判断だ。これが剣士であれば、今頃死んでいただろう。」


 展開していた魔法陣を遠ざかるクレアに向けながら、アスタロトさんは称賛の言葉を述べた。

 確かに、クレアは剣士ではなく魔術師であるから、別に攻撃手段は剣に限らないためすぐに剣を手放すことが出来た。

 しかし、これが剣士の場合、剣を手放すという事は即ち戦う術を失うという事になるため、その判断には躊躇が生まれるだろう。

 だが、だからと言ってアスタロトさんから剣を取り戻そうと少しでも足掻いていたのならば、逆の手で唱えられる魔術により確実にその身を滅ぼしていたのだろう。


「だが、距離はそれで充分か?避けて見せろよ、第9位階魔術 三重(トライアングル)雷撃(ライトニング)。」


 アスタロトさんの魔術により、一斉に三本の雷がクレアを目掛けて飛び出した。

 光速とも言える速度で距離を取るクレアであったが、アスタロトさんの魔術の速度はそれを大きく上回っており、あっという間にクレア達に向かって三本の雷が迫っていた。


「クソッ!避けきれない!!」


 このままではすぐに追い付かれると判断したクレアは、即座に方向転換し雷を交わそうとした。

 だが、凄まじい速度で迫る雷の三本の内一本が避けきれず、ペガサスの胴体に命中してしまった。


 雷の一撃をまともに受けたペガサスは、鳴き声をあげながらそのまま地面へと墜落してしまった。

 こうして、ペガサスに跨がっていたクレアもそのまま一緒に落下してしまったのだが、即座にシールド魔術を展開していたためなんとか落下によるダメージは受けないで済んでいた。


 だが、先程の一撃の余波がクレアにもかなりのダメージを与えているようで、全身ボロボロになっていた。

 それほどまでに、先程の魔術は凄まじい一撃であった。

 魔術はその位だけではなく、術者の魔力によってもその威力は異なるものだが、アスタロトさんのそれは常識の範囲外にある。


「まだよ……まだ私は、諦めたくない!!」


 クレアとアスタロトさんとでは、そこには圧倒的な力量差があることぐらいクレアも分かっているだろう。

 それでも尚、アスタロトさんと戦うべくボロボロになりながらも立ち上がったクレアの表情は、戦意を失ってなどいなかった。


「ほぅ?まだ立つか。」

「当たり前よ……認められない……違う、私は貴女に負けたくないのよ……。」

「ふむ、良かろう。お前のその強い意思は気に入った。だが、お前1人で我に勝つのは無理な話だというのはこれで分かっただろう。そこで、1つ提案がある。」

「……何よ?」

「なに、簡単だ。ここにいる全員で我にかかってくるがよい。お前達の全力をもって、我を越えてみよ。」


 アスタロトさんは、ここまで一緒に来たクラスメイト、そしてサミュエル団長率いる魔術師団の皆さんを一瞥すると、不敵な笑みを浮かべながらとんでもない事をさらりと言い放った。


 ―――ここにいるお前達全員でかかってこい、と。

すいません、忘年会シーズンでオンオフ共に忙しく更新が遅れました。

また年末年始なので時間を作りたいと思いますが、気長に待っていただければ幸いです。


次回、レイドバトルスタートです。

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