奈落の王
「ふん、何が大悪魔だ、馬鹿馬鹿しい。」
魔王会議を終えて、自室へと戻ってきた魔王が1人。
奈落エフを統べる、魔王ガルドは苛立っていた。
「それで、魔王会議はどうでしたか?」
共に自室を訪れた、ガルドの右腕であるソリンが尋ねる。
ガルドにとってソリンは、あらゆる場面でサポートしてくれる頼れる相方である。
近接攻撃が得意なガルドに対して、魔術による遠距離攻撃が得意なソリンは正に真逆なタイプであるのも、戦闘においては相性が良いのだ。
互いに1人でも十分な実力を有しているが、この二人が合わさった前には敵など居ないという程に。
そんなソリンが居なければ、ここ奈落エフの征服も容易ではなかっただろう。
それだけ、ガルドにとって頼れる相方であるソリンだからこそ、唯一ここガルドの自室への入室を許可している。
「どうもこうもない、大魔王サタンともあろう者が、酷くその大悪魔とやらを警戒していた。」
「あの大魔王がですか。それほど大悪魔とやらは恐ろしいのでしょうか。」
「ふん、どうだかな。そんな悪魔1人に対して、我々魔王には絶対に手出しをするなと忠告された。馬鹿馬鹿しいとは思わないか?」
「なるほど、大魔王ですらもそれほど警戒する存在ですか。しかしそうですね、ガルドの言う通り過剰すぎる対応に思えます。大魔王は我々の事を過小評価しているのでしょうね。」
ガルドの問いに、ソリンは冷静に己の考えを述べた。
ソリンの意見は、ガルドの考えと同じであった。
ソリンの言うとおり、いくら大悪魔が強い存在だとしても、ここゴエティア全土に手出しを禁じる程の存在なのかというのは疑問しか残らない。
というか、ここ奈落の魔王として本当にそんな強き存在が実在するならば、それならそれで実際に己の目で見てみたいものだ。
「俺の目標は、ここ奈落エフの魔王になる事ではない。大魔王になりゴエティアを支配する事だ。」
「えぇ、だからこそ我々は動き出したのですからね。」
「そうだ、だが大魔王であるサタン、そしてサリエラは確かに強大な力を有している。であれば、そんなあの二人が警戒する大悪魔の実力とやらを、まずは確認しようと思う。」
「なるほど、大悪魔の実力を測れば、大魔王達の実力の程度も知れるという事ですか。」
「あぁ、そうだ。それに、聞く話によるとかつて大魔王はその大悪魔から逃げ帰った事があるというのだ。ここゴエティアの大魔王として、本当に嘆かわしい話だ。」
そうだ、大魔王である身の上であるにも関わらず、1人の悪魔相手に逃げ帰ったなど大魔王の名が廃るというものだ。
だからこそ、一刻も早くサタンから大魔王の座を奪ってやらなくてはならない。
そもそもガルドにとって、これまでに出会ってきた中で自分より明らかに強いと思えた存在など、この世に1人しかいないのだ。
それは、大魔王でもサリエラでもまだ見ぬ大悪魔の事でもなく、ここ奈落のかつての魔王をしていたあいつだけなのだ。
その魔王も、1000年前の大悪魔との戦いの中で敗れたと言われているが、あいつがそんな簡単に死ぬわけが無かった。
あいつの真の実力を知っているガルドだからこそ断言できる、100%あいつはまだ生きていると。
だから、あいつが居なくなってからも暫くは様子を見ていた。
だが、いつまで経ってもあいつはここ奈落に戻っては来なかった。
だからこそ、ガルドはここ奈落エフの新たな魔王として、あいつの帰りを待つ事を選んだのだ。
自分が魔王となる事で、何処かに居るあいつに何か動きがあるかもしれないと考えたからだ。
だが、あいつに代わり自分が魔王となった今も、あいつが現れる事はなかった。
ガルドの最終目的は、ここゴエティアの大魔王となる事だ。
だから、自分より強いと思えたたった1人の存在を越える為に、これまで更なる力を身に付けてきたのだ。
その結果、今の自分に敵う相手などいるはずが無いという程、あの時より遥かに己の力は上がっている。
だからこそ、今度こそ力であいつを越える事が出来れば、それ即ち己が大魔王に成るに価すると考えているのだ。
だが、これだけ待ってもあいつが現れる事は無かった。
であれば、今が良いタイミングなのだろう。
大魔王が逃げ帰り、かつての奈落の魔王を倒したと言われている大悪魔アスタロトがこの地に現れたのであれば、代わりにそいつを越えれてやればいい。
だから大悪魔アスタロトよ、まずはその実力測らせて貰おう。
そうしてガルドは、己の配下の1人をソリンに呼びつけさせると、大悪魔が居るとされる人間どもの国、アルブール王国へと向かわせる事にした。




