夕食
「じゃ、じゃあ我はそろそろ部屋に戻らせて貰うぞ。」
「は、はい!」
互いの唇を離すと、顔を赤らめたアスタロトさんは足早に自分の部屋へと入っていってしまった。
そして、すぐに部屋の中からドンドンと音が聞こえてきたけれど、その理由はなんとなく分かる気がするからアルスはそっとしておくことにした。
というか、アルスだってそれどころではないのだ。
あの、アスタロトさんと、キ、キスを……!!
思い出すだけで、また顔が真っ赤になる。
アスタロトさんの柔らかい唇、体温、香りを思い出すだけで、アルスも居ても立ってもいられなくなり自室へと駆け込んだ。
そして、アルスも同じく部屋の中でドンドンと音を立てるしかなかった。
どれぐらいの時間が経っただろうか、窓に目をやるとすっかり陽は落ちていた。
お昼から何も食べていないため、流石にお腹が空いてきたので食事へと向かう事にした。
部屋を出ると、先に復活していたアスタロトさんが1人テーブルに腰を掛けお茶を飲んでいた。
「食事か?」
「は、はい!もう良い時間かなぁと。」
「そうだな、では行くか。」
まだ会話するのが恥ずかしい気持ちでいっぱいのアルスに対して、アスタロトさんはすっかりいつも通りの振る舞いになっていた。
そうだよね、見た目こそアルスと同世代に見えるけれど、アルスなんかよりよっぽど長い時間過ごしてきたアスタロトさんだもの、これぐらいの事でいつまでも動揺なんてしないよね。
ダメだダメだ!男らしくちゃんとしなくちゃ!
気持ちを引き締め直したアルスは、もう成るようになれとばかりにアスタロトさんの手を取った。
「じゃ、行きましょうか!」
「ア、アル!?手!?」
「あっ、ダ、ダメでした?」
やばい、やっぱりいきなりやり過ぎてしまっただろうか……。
「いや、構わん……少しその……なんでもない!行くぞ!」
ビックリしたのか、アスタロトさんは少し戸惑ったようだったけれど、すぐに気を取り直すと今度は逆にアルスの手を引いて歩き出した。
ここは男らしく引っ張りたかったんだけどなぁと思いつつも、グイグイと引っ張ってくるアスタロトさんの勢いに今回は身を任せる事にした。
そして、二人で手を取りながら食堂へ着くと、いつも通りビュッフェ形式の晩御飯の中から食べたいものをチョイスし、いつもの席へと腰をかけた。
だが、全てがいつも通りとはいかなかった。
「ちょっと、今のはどういう事かしら?」
「ん?クレア?どうかした?」
アルス達が席に着くとすぐに、足早にかけつけてきたクレアに声をかけられた。
「どうかしたじゃないわよ。今、貴方達、手を握って食堂まで来たわよね?」
そこでアルスはしまったと思った。
そうだった、ついつい流れでそのままここへ来てしまったけれど、アスタロトさんと手を取りながら食堂へ来るなんて、端から見たらただの使い魔と主の関係には見えないかもしれない。
というか、絶対見えないよね。
「何か問題でもあるのか?」
「お、大有りよ!やっぱり貴方達、同じ部屋に住むなんて不健全なのよ!」
「それで、お前に何の問題があるのだ?」
「そ、それはあれよ……私がどうこうってよりも、私達はまだ学生なんだから、一緒に手を取り合うような男女が1つ屋根の下に住むなんて早いのよ!えぇそうよ!早すぎるわ!!」
「なるほどな、お前の言い分は分かった。」
「そ、そう?分かればいいのよ。これから卒業まではお互い別々の部屋で健全に」
「だがそれは出来んな。何故ならアルスは我の物だからだ。」
「なっ!?そ、それはどういう意味よ!?」
「我はアルスが好きだ。だからこれからも共に居るのは絶対なのだ。」
クレアの質問に対して、アスタロトさんは包み隠すことなくあっさりと本心をぶつけた。
それを受けたクレアは、言われた事に対する処理が追い付かないのか、その場で呆けた表情をして立ち尽くしてしまった。
「ク、クレア?」
「……認めないわ、そうよ、アルスくん!アルスくんはどうなのよ?そういうのは、お互いの気持ちが大事なの!えぇそうよ!!アルス君の気持ち!!これ!!大事!!」
心配になってクレアに声をかけると、クレアはテーブルにドンッと手をつきながら今度はアルスに向かって問い詰めてきた。
「ぼ、僕だって、その……アスタロトさんの事が、好きだよ。。」
かなり恥ずかしかったけれど、先ほどアスタロトさんははっきりと言ってくれたんだ。
アルスの事を好きだって。
だったら、アルスもちゃんと答えなければならないと思ったため、ありのまま本心をクレアに告げた。
「あ……そう。アルスくんはアスタロトさんの事を……そう、分かったわ。じゃあ、今日は失礼するわね。」
アルスの返事を受けたクレアは、先ほどの勢いはどこへ行ったのか、今度は魂の抜けたような表情で生返事をすると、そのままトボトボとどこかへ歩いて行ってしまった。
あの、クレアさん?だ、大丈夫かな……?
「あれは放っておけばいい。それよりもアルスよ、先程の言葉は……本当か?」
「その……はい。じゃないとあんなこと、しませんよ。。」
「そうか、ありがとう。自分に直接好意を向けられるというのは、こんなにも嬉しいものなのだな。」
アルスの返事に対して、アスタロトさんはニッコリと満足そうな笑みを向けてくれた。
あぁ、こんな素敵な笑顔をする存在が、アルスの使い魔で、大悪魔で、そして両想いの相手だなんて今でも信じられないな。
でも、そんなアスタロトさんと両想いなのであれば、これからもっとしっかりとアスタロトさんの期待に応えられる男になれるよう頑張らないといけないな。
隣に立つのに相応しい男になるんだ!
アルスは内心でそう決意を固めると、アスタロトさんといつもと同じだけど同じではない特別な夕食を終えたのであった。
急なラブコメに作者もビックリです。
壊れかけのクレア。




