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イワンの配下として

「なんていうか……その……改めて色々済まなかったな、アルス。」


 アスタロトさんの振る舞いに慌てるセベレク校長やイワンを無視して、ヤブンはアルスにずっと言いたかった謝罪をようやく口にする事ができた。

 結局、学校へ悪魔達と攻め入った時も直接的にこうして謝罪する事が出来ていなかったのがずっと心の中でしこりとなっていた。


「あ、うん……。僕はもう気にしてないよ。それよりも、ヤブンくんの方はなんていうか、その……上手くやれてるのかな?」


 ヤブンの謝罪を受けて、アルスは思いの外簡単に受け入れてくれた事に安堵した。

 アルスの言っているのは、今ヤブンがいる環境についてだろう。


「あぁ、俺の方は正直最初は右も左も分からなかったけど、イワンさんに与えられたこの力を使って徐々に仕事を覚えていってるよ。元々俺は、学校を卒業したらどこかに就職するつもりだったんだ。だから、今こうして仕事に就けてるってのは正直助かってるぐらいさ。大分イレギュラーな就職先にはなったけどな。」

「そうか、なら良かった。でも、こうして僕とヤブンくんが普通に話を出来る仲になれるなんて、正直思わなかったよ。」

「本当だな。俺はなんていうかその……アルスが気に食わなかったんだ。俺が何をしてもなんの抵抗もしてこないし、それなのに女子からは人気だし……ダメだな、正直今思えば全部俺の勝手な僻みだった、本当にすまなかった。」

「いや、僕なんかが女子から人気なんて事はないよ!それはヤブンくんの勘違いだよきっと!」

「だから、そうやって周りが全く見えてないところなんだよなぁ。」


 全く気が付いていないアルスに、ヤブンはヤレヤレと笑った。

 これが嘘だったらまた腹を立てていたかもしれないけれど、今のアルスの反応は素で分かっていない反応だった。

 鈍感もここまでくると才能かもしれないな。


 だが、次の瞬間ヤブンは完全に要らないことを言ってしまった事を後悔した。


「ほぅ……アルスは女子から人気なのか?」


 さっきまでイワンさん達の所で話していたはずのアスタロトさんだったが、気が付くと隣に立っており、そして先程のヤブンの発言を小声で掘り返してきたのだった。


「あ、いえ、その、なんていうか、まぁ……そうです……。」


 咄嗟に取り繕おうと思ったヤブンであったが、よくよく考えたらヤブンは何も嘘を言っていないのだから、下手にアスタロトさんに嘘をつく方が危険であると瞬時に判断し素直に答えた。


 アルスは女子からめちゃくちゃ人気がある、これは紛れもない事実なのだ。


「そうか、女子から人気なのか……ほぅ。」


 ヤブンの返事を聞くと、アスタロトさんは少し目を細めながらアルスをじっと見ていた。

 アルスは、こちらが何を話しているのか全く分かっていない様子で、アスタロトさんをきょとんと見返していた。


 これはあれだ……俗に言う、疑いの目っていうやつだろう。


 まさか、あんな出鱈目な力を持つアスタロトさんが、こんな反応をするなんて正直思わなかった。


 ……というか、アルスよ。

 こんな世界一の美貌とも言えるような人、いや悪魔相手でもお前は相変わらずかよ。。


 今この瞬間だけは、心の底からこんなふざけた世界と離れられて良かったと思えたヤブンであった。




 ―――――――


「あぁそうだった、おいお前。お前の配下に人手を貸してやろう。」


 もう話しは済んだかなと、さっさとこの地獄のような環境から逃げ出す隙を伺っていたイワンだったが、またしてもアスタロトに呼び止められてしまった。


「ひ、人手ですか?」


 イワンは少し怯えながらも、ゴマを擦りながらそう返事をした。


「あぁ、今の状況は我の責任でもあるからな。使えるやつをお前の下につけてやろうと思ってな。」

「そ、そうですか……それは非常に助かるお話ですが……。」


 正直、確かに今のイワンは配下の悪魔不足に陥っている。

 だから、そこのヤブン少年が新たな側近として立ち回ってくれているのは非常に助かっている。

 力こそアークデーモン以下ではあるものの、物事を考える力は無学の悪魔達より遥かに優れているからだ。


 それに、同じアスタロト被害者の会として通じ合う唯一の同士でもあるのだ。


「ふむ、では早速呼ぼう。」


 すると、アスタロトはイワンの返事を聞くとすぐに、魔法陣を展開しそこから1人の悪魔を召喚した。

 ただ、目の前でアスタロトが展開した魔法陣は、デーモンロードであるイワンをもってしても見覚えがなかった。


 というか、これは最早デーモンロードである自分を召喚するための魔法陣なんかよりも遥かに……。


「アスタロト様、お呼びでしょうか。」


 魔法陣の中から、1人の悪魔が現れた。

 白い長髪を靡かせながら、ゆっくりと歩み出てきた目の前の男が同じ悪魔である事は見てすぐに分かったのだが、それでもイワンにはその実力を測ることが出来なかった。


 通常、最上位悪魔であるイワンであれば、同じ悪魔の力量は一目見たら分かるものだが、目の前のこの男の実力は全く測る事が出来なかった。


「あぁ、ジークよ。我が少しこの世界の木っ端悪魔を減らしすぎたのでな、暫くそこのデーモンロードの配下としてサポートをしてやってくれ。お前なら可能であろう?」

「分かりました。アスタロト様の頼みとあれば、私はその全てに従うのみです。」


 そう言うと、ジークという悪魔はアスタロトに一礼すると、こちらを振り向いた。


 訳もわからないまま話が進んでいるが、そもそもイワンには選択の自由など最初から無かったため、ただ受け入れる事しか出来なかった。


「紹介しよう、こいつの名はジーク。我の側近の1人で、レジェンダリーデーモンであるこいつならばお前の配下としても十分な働きをするであろう。」


 へ?ちょっと待って下さい?

 レジェンダリーデーモン?


 アスタロトはさらっとそう告げてきたが、それはそんな風に簡単に言うレベルの存在ではない。


 レジェンダリーデーモン。

 それは、伝説級とも言えるデーモンロードより更に上位の悪魔の位だ。


 デーモンロードが最上位悪魔という認識は間違ってはいない。

 だが、そのデーモンロードの中でも稀に更なる力を身に付けた悪魔が現れる事があり、それこそがレジェンダリーデーモンの正体であるとされている。


 要するに、それはもう悪魔という領域の外にある存在なのだ。

 最上位とは、あくまでこの世界の常識というだけで、イワンでも知らない領域というのは確実に存在するのだ。


 この世界の外にもいる数多のデーモンロードの中から、極稀に規格外の力を身に付けた選ばれしデーモンロードのみが、レジェンダリーデーモンとしてその地位を与えられると聞いた事がある。


 実際、遥か昔にイワンも1度だけレジェンダリーデーモンを見たことがある。


 それは、かつて天使達との交戦のためイワンも戦闘へ参加した時の事だ。


 あの時は、正直同じ悪魔だったからイワンは無事で済んだのだが、自分達を率いたレジェンダリーデーモンはたった1人で、デーモンロードと互角レベルとされる天使達のそのほとんどを討ち取っていたのだ。


 それほどまでに、はっきり言って自分達とは比べ物にならないレベルで圧倒的な存在であった。


 だからイワンは困惑した。

 レジェンダリーデーモンが自分の下に付くなんて、冗談にしてもあり得ない話なのだ。


「ジークと申します。これより、私は貴方の配下として力となりましょう。」


 だが、このジークという男の言葉を聞いて、そんな冗談みたいな話はどうやら現実のようで、そしてその現実はイワンに重くのし掛かってきた。


 イワンは、これまでの人生で一度も感じたことのなかった胃の痛みを感じつつ、もうなるようになれと開き直る事しか出来なかった。





 ―――――――


 ヤブンくんと話していると、アスタロトさんが急に現れ、そしてヤブンくんとコソコソと話をしだしたかと思うと、何故かこちらをじっと見てきた。

 何かあったのかな?と思って見返していると、アスタロトさんは興味を無くしたのかプイッと目を逸らすと、次にイワンさんに声をかけそして魔法陣を展開した。

 一体何事かと気になってアルスも成り行きを見ていると、魔法陣の中から白髪の男が現れ、そしてアスタロトさんに向かって一礼をしていた。


 その男は、一目見て物凄いイケメンだと分かった。

 アスタロトさんとその男はどうやら知り合いのようだけど、その二人を見ているとこれ以上の美などこの世には存在しないと思える程絵になっていた。


 まさに、王子様とお姫様のように。


 それを見た途端、アルスは胸にチクリと痛みを感じた。


 でもそうか……そりゃそうだよね。

 アスタロトさん程の完璧な存在なんだから、その周りに自分なんかよりよっぽど優れた男性が居ない方が可笑しいのだ。


 そう思ったら、アルスはこんな自分がアスタロトさんを使い魔として身近に置いている事があまりにも場違いすぎて、そして恥ずかしさと不安が同時に押し寄せてきた。


 そう思ったアルスは、もうこれ以上二人を見ることが出来なくなり、アスタロトさんからそっと目をそらしてしまったのであった。

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