決戦後②
ここ、クリストフ魔法学校に攻めいってきた悪魔の軍勢は、無事アスタロトさんによって一掃された。
圧倒的力を持つとされるデーモンロードが相手であっても、アルスの使い魔であるアスタロトさんの前では無力に等しかった。
それほどまでに、アスタロトさんの持つ力は底知れなかったのだ。
一通りの後始末が終わると、アスタロトさんは最後に白い女性、セレスさんに詰め寄った。
「それで、この茶番はどういうつもりだ?」
「久々に会えた貴女への、ほんの挨拶よ。」
「挨拶で、この学校の人間を危険に晒したというのか?仮にも大天使である貴様が。」
「別にそんなの私には関係ないもの。この世から悪魔が減れば、私の役目としてはそれでいいの。まさか悪魔である貴女にそんな事怒られるなんて思わなかったわ。」
そう言うと、セレスさんはクスクスと笑いながら白い翼を広げて飛び上がった。
というか今、大天使って言いました?
「待て、話は終わってないぞ。貴様は我の主を危険に晒したのだ。」
「じゃあ続きはまた今度。今貴女と争う気はないの。貴女がそうして大人しくしてくれてるなら、私からはもう何もしないわよ。ただ私は、貴女に会いたかっただけなのだもの。」
そう言い残し、セレスはそのまま羽ばたいて空高く飛び上がるとこの場から去っていった。
アスタロトさんであればきっとすぐに追い付くのだろうけど、難しい顔をしたまま追いかけようとはしなかった。
大天使セレス。
かの伝説の大天使が、今アルスの目の前にいたなんて正直信じられない。
この世界を生み出した女神様の使いとして、世界の秩序を護るのが大天使の役目だと伝承がある。
かつて1000年前のアスタロトさんの一件の際、この世界の大天使は大悪魔に敗れたとも伝承があるのだけれど、それはつまり、当時の大天使をアスタロトさんが倒してしまったという事なのだろうか。
そして、新しいこの世界の大天使として、セレスさんがやって来たという所だろうか。
それならば、もしかしたらこれだけ強いアスタロトさんでも油断は出来ないような相手なのかもしれない。
それもそうだ、相手はあの大天使なのだから。
でも、変な感じだな。
これまで、この世界の秩序を護る存在としてずっと崇めてきた大天使様が、まさか今では自分と敵対するかもしれない存在になってしまうだなんて。
それでも、アルスはアスタロトさんのパートナーなんだ。
相手がどんな存在だろうと、アルスはアスタロトさんのパートナーであり続けたいと思っている。
例えそれが、大天使様だとしても同じだ。
「面倒な奴が出てきたな。」
「アスタロトさんは、セレスさんと面識があるのですか?」
「あぁ、あいつとは腐れ縁でな。悪魔と天使は基本敵対する関係なのだが、あいつは我の側によく来ておった不思議な奴だ。」
「そうなんですか。。」
「あいつは何を考えているのかよく分からん奴だからな。それがこの世界の担当になったというのは、正直嫌な予感しかしないな。。」
あのアスタロトさんが、初めて悩む素振りを見せた。
それだけ、あの大天使セレスさんというのはアスタロトさんをもってしても厄介な存在という事だろうか……。
「おぉ、こちらはアスタロト殿が始末してくれたのですか。」
そうこうしていると、ボロボロになったサミュエル団長とその一団がやってきた。
その様子から察するに、サミュエル団長も悪魔達との死闘を繰り広げて来たのだろう。
そしてよく見ると、団員の人が担ぎ上げている二人組が目に入った。
マークくとミスズだ。
「え!?マークくん!ミスズさん!凄い傷じゃないですか!」
「ふむ、すぐ手当てをしてやろう。」
ボロボロの二人を見たアスタロトさんが、即座に治癒魔術を二人に施してくれた。
すると、通常の治癒魔術とは比べ物にならない速度と精度で傷が癒えていった。
「す、凄い……。」
アスタロトさんの治癒魔術を見て、サミュエル団長の一団全員、その術のレベルの高さに驚きを隠せないでいた。
―――――
「身体が……俺は……そうだ!!悪魔だ!!」
傷から回復したマークは、悪魔との戦闘を思い出すと慌てて悪魔を探すように飛び出し臨戦態勢に入った。
「マーク。。悪魔はもうサミュエル団長が倒してくれたよ。」
そんな自分に対して、マリアナが宥めるように今の状況を説明してくれた。
「そ、そうか。じゃあ俺は……また負けたんだな。」
「マーク。。」
戦闘は既に終わっており、そして自分は悪魔に敗北して気を失っていたという現実を理解した。
アルスに負け、もう誰にも負けないと心に誓った矢先に、今度は簡単に悪魔に敗れてしまったのだ。
突如目の前に現れたあの悪魔は、正直これまで対峙してきたどの相手よりも強かった。
全く歯が立たなかったのだ。
隣では、同じく悪魔に敗れたミスズが下を向いて俯いていた。
こいつは俺の使い魔だ、気持ちは俺と同じなのだろう。
どうして、自分はこんなにも弱いのかと。
「師匠!!私に!!私に稽古をつけて下さい!!」
すると突然、ミスズはアスタロトさんに向かって稽古をつけて貰えるよう申し出た。
しかしそれは、いつものものとは違ってミスズの本心、いやこれは、懇願であった。
「ふむ、お前は何故、そこまでして力を求める?」
「私は、これでも里の長の娘なのです!父が亡くなれば、次は私が里の皆を引っ張っていく立場となるのです!ですから、私は皆を守れるよう強くなりたいのです!今回のような悪魔が里に現れた時、今の私では皆を守れない!!」
それは、心からの叫びであった。
ミスズとは色々な話をしてきたつもりだが、今の話を聞くのは初めてであった。
そうか、ミスズも俺と同じだったんだな。
俺はダレス家、そしてミスズは自分の里を背負っていくという強い覚悟。
もしかしたら、そんな似た者同士だからこそ、俺達は巡り会えたのかもしれないな。
「よかろう。その覚悟があるのならば、お前は今よりきっと強くなれるだろう。」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!!」
普段はミスズからの頼みを全てあしらってきたアスタロトさんから、まさかの快諾をして貰えた事にミスズは涙を流しながら感謝を述べた。
これだけの覚悟を見せたミスズの主として、マークは共に努力を続ける事を心に誓った。
「しかし、激しい音がしたからこちらにも駆けつけましたが、凄まじい戦闘があったのですな。。」
サミュエル団長が、戦闘跡を見て呆気に取られながらそう言った。
確かに、激しい魔術が使われたのだろう。
直径10m程の円形に、その軌道上にあったもの全てが破壊されているのだ。
こんな威力の魔術、正直見たことがない。
「アスタロトさんは、あの一撃を受けても尚無傷で、そのあと対峙したデーモンロードを一撃で吹き飛ばしていたよ。」
「デ、デーモンロードですと!?」
スヴェン王子の説明を受けて、サミュエル団長は驚愕した。
デーモンロードは、マークも知っている。
それは、この世の悪魔の中でも頂点に位置する最強の悪魔だ。
この世界には数回現れた事があると聞くが、まさにそれは災害レベルであったという。
目的を達成するまで、邪魔となるもの全てを破壊し尽くしていくという伝承が残されている。
「えぇ、そのデーモンロードです。」
「ま、まさか本当にデーモンロードだとは……!!しかし、それでよくこの程度で済みましたな!!」
「だから言ったではありませんか、アスタロトさんが倒してくれたんですよ。それもビンタ一撃で。」
「ビンタ!?」
またしてもサミュエルは驚いた。
今度は驚きすぎて、顎が外れてしまいそうになるほど大口を空けて。
そりゃそうだろう、その伝説級の存在をビンタ一撃で倒してしまうなんて、もう訳が分からなすぎる。
それでも、目の前のこの大悪魔であればそれも可能なんだろうなって、見ては無いが何故かしっくりときた。
むしろ、それの方が自然とすら思えるのだから、この大悪魔の強さっていうのはそれほど超越しているのだ。
その当の大悪魔様はというと、ミスズとの話を終えると、アルスを後ろから抱き締めながら優しく頭を撫でているのであった。
日が空いてしまい申し訳ありません。
また時間を作って更新頑張ります。




