白い存在
「ま、待ってくれ!」
イワンは、何故デーモンロードである自身の最高レベルの魔術を受けて、目の前の悪魔が平然と立っているのか理解ができなかった。
しかし、今はそんなものどうでもいい。
この目の前の悪魔は、それを受けても尚無傷であり、今こうして自分に向けて魔法陣を展開しているのだ。
まさに、絶体絶命の危機がイワンに迫っていた。
「お、おい!セレス!!わ、私を護りなさい!!」
イワンは、慌てて近くに立っているセレスへと声をかけた。
このセレスという女こそ、常にイワンの隣に立つ全身が真っ白な女の名である。
セレスはふっと微笑むと、イワンの方へと歩み寄り、そしてそのままアスタロトとイワンの間に立った。
「よ、よし!この隙に私は避難する!この場は任せたぞ!」
イワンはセレスに自分を庇わせ、その隙に自分は自分達の世界へと転移する事にした。
「何を言っているのです?」
だが、セレスはくるりとイワンの方を振り返ると、これまでの無表情とは違い、イワンを嘲笑うかのような笑みを浮かべていた。
「セ、セレス……お前は、なんなんだ……。」
思わぬ反応に、イワンは動揺した。
何故なら、以前よりイワンの側近として常に側にいたセレスが、まさか自分をこんな表情で見返してくるなど思いもしなかったのだ。
この表情には、情や敬意などは一切含まれていない。
これは、ただ弱者を見下す目だ。
一体なんなんだ……何が起きている!
も、もしや、このアスタロトという悪魔に洗脳でもされているのか!?
「そんなわけないでしょう。」
だが、イワンの考えを読んだのか、セレスに先回りされて否定されてしまった。
「貴方は最初から私に利用されていたのよ。哀れな人。いや、悪魔ね。」
セレスは哀れむような顔をイワンに向けた。
しかし、その口は未だ笑ったままだ。
どういう事だ……セレスはずっと私を支えてきたのだぞ……そう、ずっと?
なんだこの違和感は……思えば、セレスはいつから私の隣にいた?
そこで、ようやくイワンも何かが笑しい事に気が付いた。
セレスと名乗るこの女は、一体いつから自分の隣にいたのかという事に。
「やっと気が付いた?それもそのはずよね、貴方は私に洗脳されていたのだもの。」
またしても、セレスに先回りされてあっさりと答えを聞かされた。
洗脳?
デーモンロードであるこの私が、洗脳されていただと?
あ、ありえん!!
そもそも洗脳とは、術者がその対象よりもよっぽど高位でなければかけることなどできないのだ!!
……つ、つまりそれは……。
「そう、貴方ではアスタロトに敵うわけがないのよ。そして私にもね。それなのに、アスタロトを田舎者悪魔とか言っちゃうんだもの。私笑いを堪えるのに必死だったわ。」
セレスはよくやく笑えると、イワンの目の前で大笑いした。
「いいわ、可哀そうな貴方に真実を教えてあげるわ。貴方は私に洗脳された。そして、この世界への召喚要求に対して、本来アークデーモンが召喚に応じるべきところ、貴方に応じるよう仕向けたのよ。そして、普段なら気にも止めない悪魔の話に、過剰に反応するようにもね。」
そうだ。
普段の私ならば、別にこの世界で悪魔が何をしていようが気に止めなどしなかった。
どうせどこぞの同胞が暴れたのだろうという程度に。
だが、今回のこの件は何故かそれが許せないという感情に己が支配され、そして自らこの地へとやってきてしまっていたのだ。
「で、アスタロトと対峙するようにしたわけ。私としては、悪魔退治にもなるし、アスタロトとこうして会うことにも繋がるのだから一石二鳥だったのよ。」
そう言うと、セレスはアスタロトの方をくるりと振り向いた。
「久しぶりね、アスタロト。元気してたかしら?」
「ふん、貴様がいる時点で、この茶番の真意など見抜いていたわ。」
「あら、じゃあ私の茶番に乗ってくれたってことね。」
「貴様などどうでもよい、この学園を守るためだ。」
「まぁまぁ!悪魔である貴女が学園を守るですって!?明日は雨ね、いや、雷かしら!」
「死にたいのか?」
「やめてよ怖い!今日はほんの挨拶に来たようなものだから、そんな怒らないで頂戴な。私、この世界担当になったのよ。」
そういうと、再びセレスはイワンの方を振り向いた。
「まぁ正直、私が直接やっても良かったんだけどね。あまり私達が直接干渉する事は良しとされていないのよ。」
「ど、どういう事だ!?」
イワンは、セレスが自分に何を言っているのか全く理解できなかった。
「私達上界の存在が、貴方達下界の存在に直接生命を奪うような干渉をしてはダメなのよ。」
「下界だと!?」
「ええ、貴方達悪魔は、そこのアスタロトの庇護下で存在が許されているの。それなのに、自分達の神様のような存在を田舎者呼ばわりして倒そうとしてるんだから、もう笑っちゃうわ。」
そう言うと、再びセレスは大笑いした。
だがそんなものはどうでもいい、我々が下界の存在で、今目の前にいるこの二人は上界の存在だと言うのか?
確かに、戦ってみて分かった。
強さの次元が違う。違いすぎるのだ。
第14位階の魔術を無傷で防ぐなど、もはやこの世の存在の出来る事ではない。
仮にセレスの言う事が全て真実であった場合、セレスが大笑いするのも最もだ。
私は、自分の生みの親のような存在を蔑み笑っていたのだから。
「これで分かった?じゃあ、分かったところで終わりにしましょうか。上手く道化をしてくれたお礼に、今回は特別に私の手で消してあげるわ。」
そう言うと、セレスはイワンに向かって魔法陣を展開した。
しかも、魔法陣を8つ同時に起動する多重魔術だった。
この時点で、セレスもまたこの世の常識から外れた存在だと言う事が分かる。
「やめろ、そいつは我の獲物だ。」
だが、それをアスタロトが制止した。
セレスがイワンを討つことを許さなかったのだ。
「あらそう?じゃあお任せするわ。」
すると、セレスはあっさりと折れ、アスタロトにイワンの処分を任せた。
デーモンロードであるイワンは、これまでこの世界の最強の悪魔として君臨し続けたが、その自信はもう粉々に砕かれてしまっていた。
最早、こんな生き恥を晒すぐらいなら、この大悪魔によって滅ぼされる方が幸せだとさえ思う程に。
消える前に、本当の強者の力を体感できるのだ。
元々、ただ力を求め、そして悪魔として必要に応じて命を狩るためだけに存在したイワンにとっては、そんな己ではたどり着けなかった圧倒的な力によってその身が滅ぼされるのであれば、終わりとしてはまずまずであろう。
「ふむ、やめだ。貴様は殺すだけの充分な理由があるが、貴様に死なれてもこの世界の秩序の再構築が多少面倒になる。」
そう言うと、アスタロトは魔法陣を解除すると、一瞬でイワンの目の前に移動し、そして魔術の代わりとばかりにビンタをした。
ビンタを受けたイワンは、その衝撃で隣の壁まで一瞬で吹っ飛ばされた。
壁に激突したイワンは大ダメージを負ったが、それでも死ぬまでには至らなかった。
これも、加減されたのだろう。
「我はこの世の闇を司る者。引き続き、貴様はこの世界の悪魔を統べ、そしてこの世の秩序のために働け。」
そう言うと、アスタロトは興味を無くしたのか、気絶する生徒二人を抱えて人間達の元へと歩いていった。
朦朧としながらも、アスタロトの伝言だけはしっかりと聞き受けたイワンは、言われた通り勤める事を心に誓った。
もう二度と、こんなデタラメな存在に歯向かってはならないと。
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これからももっと面白い作品になるよう、頑張って書いていこうと思いますので、宜しくお願い致します!




