一段落
「すまないな、一通りやり取りを見ていたのだが、今のはヤブン達に非があるだろう。ただしアスタロトさんで良かったかな?貴女はアルブール王国の、、いや、人類の味方ですか?……それとも敵ですか?」
揉め事に気が付いてこちらへやって来たスヴェン王子が、アスタロトさんに向かって質問をした。
いつも朗らかな表情を浮かべているスヴェン王子だが、これまでに見たことない程緊張したような表情を浮かべている。
「どちらでもない。強いて言うならば、我は今日よりアルスの味方だ。使い魔だからな。」
「……なるほど、今はその返事を信用しましょう。回答によってはここで貴女をなんとしてでも止めなければと思いましたが、一先ずはその必要はないと理解させて頂くよ。もっとも、あんな戦いを見せられては我々が束になったところで敵う気すら起きませんがね。」
そう言うと、スヴェン王子はヤレヤレと笑った。
確かに、アスタロトさん相手にするならばここにいる全員に、もしかしたら魔術師団を加えても届かない領域にあると思える。
それほどまでに、先程の戦い、もといただの喧嘩で見せた実力は圧倒的であった。
「ふむ、そうだな。重ねて言うが、我はアルスの使い魔だ、アルスに危害を加えようとする者などいなければ、特にどうこうするつもりなどない。人は短命だ、1000年前と今では全てが異なる事など理解している。過去の過ちを現代の人間に咎めるのはお門違いというところだろう。」
「分かりました。我々も敵うわけがない相手と対峙するより、共同の道を歩むべきだと思っています。ここアルブール王国は、アスタロトさんをアルスくんの使い魔として、公式に受け入れましょう。」
「……スヴェン、本当にそれで良いと思ってるの?」
スヴェン王子と共にこちらに駆けつけ、一通りやり取りを見ていたクレアがスヴェン王子に問いただした。
「クレア、これ以上いらぬ事は言うな。もしここでアスタロトさんの反感を買ったその時、この国が終わるものと知れ。国としての面子などより、この国の民の安全を守ってこその国だ。」
「ふむ、中々よい心掛けだなスヴェン王子よ。お前のような人間が治める国ならば、1000年前のような事態にはならないであろうな。そのままお前はお前の信念を持ち、励むがよい。」
「はは、まさか悪魔である貴女にそんな事を言われるとは思いませんでしたが、ありがとうございます。私はこの国が好きなので、この国の発展のためならば努力は惜しまないつもりです。」
これだけ圧倒的なアスタロトさんを前にしても、物怖じせず対話を持ちかけられたスヴェン王子は、本当に国を思っているからこそ出来た行動なのだろう。
そういうところが、素直に凄いなと思う。
そして、そんなスヴェン王子とちゃんと対話しているアスタロトさんを見て、アルスはヒヤヒヤしていた胸を撫で下ろしていた。
「ところでアスタロトさん、1つお伺いしても宜しいでしょうか?私は先程、レッドドラゴンの召喚に成功しました。我が国の魔術師団をもってしても、このレッドドラゴンは最上級クラスの使い魔という格付けなのですが、アスタロトさんから見てこのレッドドラゴンとはどういった存在なのでしょうか?」
「ふむ、レッドドラゴンか。そうだな、先程のグリーンドラゴンとは比べようもないのは言うまでもない。レッドドラゴンの方が、肉質も味も数段上だな。」
「……食料、ですか。」
「あぁ、我のいる世界ではレッドドラゴンは非常に好まれて食されておる。その程度の下位ドラゴンは我らを見るなり食われまいと逃げ出すのが普通なのだが、先程のグリーンドラゴンはあろう事か我を食おうと突っ込んできたので滑稽であった。」
そう言うとアスタロトさんは、また思い出し笑いをしていた。
対して、ここアルブール王国最強クラスの使い魔であるレッドドラゴンを、下位ドラゴンで食料とバッサリ切られたスヴェン王子は、ただ苦笑いするしかなかった。
「まぁだが、そこの眼鏡女よ。お前の召喚したそのカーバンクルは中々のものだ。まだ育ちきってはおらぬようだが、成長に応じて強い力を発揮するであろう。」
眼鏡女とは、マーレーの事だ。
人だかりの中からそっとこちらを伺っていたマーレーだが、突然話を振られた事に驚いたのか、目を大きく見開き少しだけ驚いた表情を浮かべていた。
彼女にも感情があったんだなと、思わず失礼な事を考えてしまった。
「……そう、分かった。大事に育てる事にする。」
「ふむ。」
こうして、色々あったけどアルス達の使い魔召喚のイベントは無事?終了した。
こうして使い魔となったアスタロトさんだが、常に僕と行動を共にするとの事なのでスヴェン王子の計らいで今後魔法学校の生徒として一緒に授業を受ける事が許された。
そして問題を起こしたヤブン達5人だが、これまでの素行の悪さに加え、一度この地を滅ぼした大悪魔相手にまさかの喧嘩を売るという人類レベルの危機を招いた罪として、魔法学校の退学及び暫くは自宅謹慎処分となった。
「それで、アスタロトさんの部屋なのですが、我が魔法学校の生徒は全員男子寮と女子寮に住む決まりとなっております。なので、女子寮にアスタロトさんの部屋を新しく用意させましょう。」
「いや結構。我はアルスの使い魔なのだから、アルスの部屋でよい。」
「ちょっと!!ダメダメダメ!!それは不健全よ!!いくら強い悪魔で使い魔だからって、そんな勝手は私が許されないわ!!」
スヴェン王子の計らいだったが、まさかの理由で断るアスタロトさんに対して、これまで黙って話を聞いていたクレアが急に激しく反対を始めた。
「なんだお前、アルスの事が好きなのか?」
「ちょ!?そ、そそそ、そんなわけないでしょ!!いや、なくはないけど、ダメったらダメなんだからぁ!!」
暴走するクレアだったが、アスタロトさんからの思わぬ質問に赤面すると、クレアはどこかへ走り去っていってしまった。
アスタロトさんは、「なるほどな」なんて言いながらニヤニヤしている。
そんなこんなで色々あったけど、アルスが何故か召喚してしまった大悪魔のアスタロトさんは、今のところ問題は起こしていないしスヴェン王子ともちゃんと対話が出来ているので、一先ずは安心した。
でも、これからどうなるのか……なんて事は、今はちょっと色々ありすぎて考えたくないと思うアルスであった。