アスタロト対イワン
やはり、例の悪魔はここへやってきた。
イワンの目の前に、今回のターゲットである田舎者悪魔が現れたのだ。
しかし、まさか本当にアークデーモンがやられるとは思いもしなかった。
悪魔の持つ力は階級で分けられている。
下から、レッサーデーモン、デーモン、アークデーモン、デーモンジェネラル、そしてイワンのデーモンロードという順だ。
基本的に、対人間にはデーモン、対魔族にはアークデーモンが実力的に上回るものとされており、一部の上位魔族などに対してのみデーモンジェネラル以上でなければ太刀打ち出来ないといった具合だ。
そんな悪魔の階級の中でも、アークデーモン以上ともなれば限られた数しかいないため、悪魔を統べるデーモンロードであるイワンが把握していないわけがなかった。
つまり、アークデーモンを向かわせておけば、どこぞの田舎者悪魔など簡単に狩ることができるはずだったのだ。
しかも、向かわせたのは念のため、デーモンジェネラルに程近いレベルに達しているアークデーモンであった。
だが、それにも関わらずこの悪魔は無傷で目の前に現れたのだった。
一体、なにがどうなってこんな事になっているのか、イワンには想像も付かなかった。
だが、それでもこの悪魔が本当に上位の存在だとする考えはイワンの中には無かった。
悪魔とは、悠久の時を生きる存在だ。
そんな悪魔にとって、それほど強い個体を互いに認識すらしていないなんて事は、絶対に有り得ないからだ。
つまりは、悪魔の最上位であるデーモンロードのイワンが知らないという時点で、その悪魔はどこぞの馬の骨という事が確定的なのである。
だから、これには何かトリックがあるに決まっているのだ。
そう思い悪魔の周りを見ると、他にも人間が3人いた。
1人はこの田舎者悪魔の主であるアルスだが、あとの2人の情報は聞いていない。
しかしなるほど、まだ学生のようではあるが、その佇まいからしてそれなりにやれる者のようだ。
要するに、真実はこうだろう。
こいつらがそこの悪魔と協力して、アークデーモンを倒してきたという事だ。
人間など、悪魔からしたら我々の力を欲しがるだけのただの弱い存在だが、それでもその中の一部の実力者が集まれば、アークデーモンでも倒されてしまうという事が過去にも何度か起きている。
それが、今回また訪れてしまったというだけの事だ。
分かってしまえばどうという事ではない。
いずれにせよ、配下を倒されたのだから、こいつらは全員ここで終わらせなければならない。
そう考えたイワンは、配下の悪魔を一斉に召喚した。
召喚に応じた複数体の悪魔が、一斉にゲートを潜ってこの世界にやってくる。
数はおよそ100体。
その中には、普段人間の前などに現れる事はないデーモンジェネラルも数体含まれている。
はっきり言って、デーモンジェネラル程の実力者であれば、こんな人間どもなどオーバーキルも良いところだ。
だが、こいつらには圧倒的な力による恐怖を与えなければならない。
それが、倒されたアークデーモンへの弔いであり、イワンが悪魔たる所以だ。
「イワン様、あそこの悪魔をやれば宜しいので?」
「そうだ、好きにやってしまえ。」
「御意。」
一体のデーモンジェネラルの問いに、イワンはニヤリと笑いながら答えた。
するとデーモンジェネラルは、手に持った大きな斧を振り上げると、一瞬にして悪魔の前まで迫り、そして一気に斬りつけた。
今のデーモンジェネラルの一撃は、イワンでも避けるのは簡単ではない神速の一撃だ。
それを、あの悪魔に避けられるわけがない。
案の定避ける事ができないでいた悪魔を見て、イワンはあっけない終わりだったなと思いながら、そのまま悪魔の最後を見届ける事にした。
―――しかし、悪魔はまだ生きていた。
デーモンジェネラルの振り下ろした斧を、あろうことか片手で掴んで防いでいたのだ。
「なっ!?き、貴様……何者だ……?」
これにはデーモンジェネラルも驚いていた。
当然だ、自分より下位であるはずのどこぞの悪魔に、デーモンジェネラルである自分の一撃を片手で受け止められるなどあるはずが無いのだから。
「何者?いきなり斬りつけてきたお前が我にそれを言うな。」
そう言うと、悪魔はそのままデーモンジェネラルから斧を奪い、先程召喚した悪魔達の集団目掛けてそのまま斧を投げ飛ばした。
投げられた斧は、物凄い勢いで悪魔達に激突すると、そのままそれがレッサーデーモンだろうとアークデーモンであろうと関係なく、軌道の直線上にいた複数体の悪魔を一撃で倒してしまったのだった。
イワンは、一体何を見せられているのか理解が追い付かなかった。
デーモンジェネラルの一撃を防いだだけではなく、その斧を力任せに強引に奪うと、それをぶん投げただけで複数体の悪魔を倒してしまったのだ。
そんなデタラメあってたまるか!!
その時、ようやくイワンは想定外の強敵を前にしている事を理解した。
「お、お前達!!今すぐそこの悪魔を殺るのです!!一斉にかかりなさい!!」
イワンは全ての悪魔に命令する。
ただちに、この危険な悪魔を処理しなければ不味いという事にようやく気が付いたのだ。
イワンの命令を受け、悪魔達は一斉にアスタロト目掛けて襲い掛かる。
この数の悪魔に襲われて、無事でいれる悪魔など自分以外に存在するはずなど無いのだ。
だが、またしても信じがたい光景がイワンの目の前で繰り広げられた。
なんと、アスタロトは魔術を使うこともなく、一体一体虫を払うように迫る悪魔を手で払い退けているのだ。
しかもそれは、悪魔の階級など関係なく、それがアークデーモンであろうとデーモンジェネラルであろうと等しく同じ結果に終わっているのだ。
全ての悪魔が、たったの一撃で塵となる。
ありえない……こんな事はあってはならない……。
そのありえない光景を前に、イワンは動くこともできずただ見ている事しかできないでいた。
そうこうしていると、ものの5分程度で召喚した全ての悪魔が倒され尽くしてしまった。
その時、イワンはようやく全てを理解した。
たった今自分は、絶対に関わってはいけない者を相手にしてしまっているという事に。
「なんだ?もう終わりか?残りはお前だけか。」
目の前の悪魔アスタロトは、傷1つ負ってなどいなかった。
そのまま顔色1つ変えず、こちらに歩み寄ってくる。
ま、不味い……このままでは自分も殺される……!!
焦ったイワンは、ふと足元に寝転がっている二人の人間がいる事を思い出した。
そうだった、絶対にありえないが、それでもシュナイダーが万が一のためにと用意していた人質がいたのだ。
「ち、近寄るな!それ以上近寄れば、この人間どもの命はないぞ!?」
「ほう?ではその者どもは我の知り合いだと知って、お前は殺そうというのか?」
アスタロトは、無表情から怒りを含めたような冷たい表情でイワンを問いただした。
「い、良いでしょう。これ以上何もしないのであれば、この二人はお返ししますとも。」
「なんだ?お前のようは木っ端悪魔が、我に取引を持ちかけているのか?」
アスタロトは、そのまま止まることなくイワンの方へとゆっくりと歩み寄ってくる。
イワンは、自分が震えている事に気が付いた。
悪魔の頂点であるデーモンロードの自分が、初めて恐怖を感じているのだ。
「ま、待て!待ってください!二人はお返ししますので、どうか助けて下さい!」
「先程の余裕が嘘のようだな。だが駄目だ、二人は元々我が助けると決めたその時点で、安全は保証されているのだ。その上で、お前を生かすか殺すかは我が決める事だ。お前じゃない。」
そう言いながらも歩みを止めないアスタロトは、イワンの3メートル程前のところでようやく立ち止まった。
そして、片手を前に掲げると、そのまま巨大な魔法陣を展開した。
それを受けて、いよいよイワンは覚悟を決めた。
やられる前に、やるしかないのだと。
イワンは、己が持てる全ての力を込めて、アスタロト目掛けて魔術を発動する。
「ふ、ふざけるなチクショウ!!いいでしょう食らいなさい!!第14位階魔術 漆黒波動砲!!」
イワンは、自身の扱える最大の魔術漆黒波動砲をアスタロト目掛けて放った。
漆黒の巨大な波動が、一瞬にして一直線にアスタロトごと飲み込んだ。
漆黒波動砲は、その波動に飲み込まれた全てのものを食らい尽くす。
この距離であれば、確実にアスタロトに当たっているはずだ。
いくらあのデタラメな悪魔でも、流石にこの攻撃を受けて無事でいられるはずがなかった。
「それで終わりか?」
「へっ!?」
イワンの放った漆黒波動は、そのまま地面ごとえぐりながら、一直線上にあったもの全てを破壊し尽くしていた。
だが、その中心でアスタロトだけは何故か何事も無かったようにその場に立っていた。
先程と変わらず、片手に魔法陣を展開したままの姿勢で。
いつもありがとうございます。
更新が遅れてしまい申し訳ございません。
季節の変わり目のせいか、少し体調を崩してました。。
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全然関係ないのですが、最近vtuberの宝鐘マリンちゃんにハマってます(笑)




