魔術師団長 vs 上位悪魔
「貴方の事は伺ってます。ですが、所詮は人間。私には届きませんよ。」
サミュエルの登場に一度は驚きはしたが、それでもこのアークデーモンにとっては取るに足らない相手であった。
所詮は人間、アークデーモンである自分にとっては、例えそれがサミュエルであっても他の連中と同じく狩りの対象でしかなかった。
「そうか。それで、貴方の目的はなんですか?」
「まぁ良いでしょう。どうせこれから死ぬのですから、特別に教えてあげましょう。」
アークデーモンは、ニヤリと笑いながら話を続けた。
「暇潰しの悪魔狩りですよ。どうやら、この地に田舎者の悪魔が紛れ込んでるようですので。」
「ほう、それはもしやアスタロト殿の事を言っているのかね?」
「もしやも何も、それしかないでしょう。」
「はっはっはっ!いやはや、アスタロト殿を田舎者呼ばわりとは。」
「……何が可笑しいのですか?」
「いやなに、あの大悪魔を田舎者と罵り、狩りをするなどとは。その点、人も悪魔も同じなのだな。無知とは時に恐ろしいものだ。」
「何を言っているのか分かりませんが、既に校舎の中には私と同格の者が向かっております。ここの連中とも戦いましたが、イワン様が出るまでもないですね。今頃はもう終わらせている頃でしょう。」
そう言うと、アークデーモンはグニャリと歪な笑みを浮かべると、全身から魔力を解き放った。
「ですから、話は終わりです!イワン様をあまり待たせるのも宜しくないのでね!こっちもそろそろ終わりにさせて頂きますよ!第8位階魔術 漆黒の刃!」
アークデーモンは、サミュエル一団に向かって得意の魔術を放った。
第8位階魔術 漆黒の刃。
漆黒の鋭い刃状となった無数の気弾が、サミュエル達を襲う。
サミュエル達は、直ぐ様全員でプロテクションを唱え多重の防御壁を展開するが、それでも数発防いだところで全てのプロテクションを破壊され、全員その身体を漆黒の刃によって斬りつけられてしまった。
王国魔術師団の中でも、エリートクラスのみで編成されるサミュエルの一団が束になっても、第8位階の魔術を防ぎきる事は出来なかったのだ。
「ぐっ!貴方の理由は分かりました。であれば、これ以上好きにはやらせんよ!」
サミュエルはそう言うと、傷付いた身体を庇いながら攻撃魔術を唱えた。
サミュエルの得意魔術である、第6位階魔術 水槍の雨だ。
水槍の雨の範囲攻撃により、回避不可能の一撃を与える。
しかし、この攻撃では以前アスタロトと戦った時のように、このアークデーモンにも無効化されてしまうのがオチだろう。
だから、
「よし、全員!撃て!!」
サミュエルの号令に合わせて、他の魔術師達はアークデーモン目掛けて魔術を唱えた。
第6位階魔術 雷撃だ。
アークデーモンを水槍の雨で濡らし、そこに無数の雷撃を連打する事で大爆発を生み出す。
あの時アスタロトには通用しなかったが、それでも本来この魔術の組み合わせによる相乗効果は絶大なのだ。
「なるほど、考えましたね。」
これには、流石のアークデーモンでもダメージが通ったようで、少し顔を歪めた。
だがしかし、逆を言えばこの攻撃でもその程度だった。
人類に扱う事が出来る魔術の中でも、最高レベルに近い第6位階魔術を連打しても倒すには至らない相手。
それこそが、難度Sランクとも言われるアークデーモンの圧倒的なまでの強さであった。
サミュエルにとって、アークデーモンを相手にするのはこれで2回目となる。
以前、この国の近郊に突如としてアークデーモンが現れた事があった。
その際は、魔術師団総出で長時間戦い続けることで、多数の負傷者を出しながらもなんとか退治する事ができた程、凶悪な相手であった。
あの時の事は、今でも鮮明に覚えている。
しかも、今回のアークデーモンはあの時対峙したアークデーモンよりも確実に強い。
何故なら、あの時はそれなりに通用した第6位階魔術の連打であっても、このアークデーモン相手ではこの程度の結果で終わってしまったからだ。
「ほう、これでも駄目ですか。」
「悪くない攻撃でしたが、それでは私は倒せませんよ。」
アークデーモンは、やはりサミュエルをもってしてもこの程度かと余裕の笑みを浮かべる。
対して、窮地に追い込まれたはずのサミュエルであったが、それでもまだ顔に焦りはなかった。
「では、ここからは全力を出させて頂こう。」
次にサミュエルは、自身の必殺技である並行魔術を唱える。
両手にそれぞれ、同じ魔法陣を展開する。
そしてそれを見た他の魔術師達も、サミュエルのやろうとしてる事を一瞬で理解し、一斉に魔術を唱えてサミュエルを援護する。
全員が唱えた魔術は、全て同じ魔術。
第6位階魔術 聖なる光球だ。
サミュエル以外の魔術師達は、この聖なる光球を一定間隔のタイミングでアークデーモン目掛けて放ち続ける事で、相手に攻め入る隙を与えなかった。
これには、流石のアークデーモンも防戦一方となる。
「クソッ!ちまちまとやってくれますね!!」
常に飛んで来る聖なる光球を弾き返しながら、アークデーモンは苛立った。
弾き返すのは難しくはないが、自分にとっての不利属性である聖なる光球をその身に浴びるのは、流石にアークデーモンであっても相応なダメージを負ってしまうからだ。
だが、それだけだ。
飛んで来る聖なる光球を弾き返し続けてさえいれば、いずれ魔術師の魔力が先に尽きるのだから。
先程の攻撃で、既に奴等はボロボロだ。
だから、今はただ回避に集中していればいい。
そのあとで、こいつらには倍返しをしてやろうと、アークデーモンは攻撃をかわし続けた。
だが、サミュエルからしても、この聖なる光球ではアークデーモンには届かない事など承知の上であった。
何故なら、これも以前アスタロト相手に唱えた事があるが、結果は片手で簡単に弾き飛ばされて終わってしまったからだ。
全く、あの時の敗北の経験がここまで実戦で役立つとはな。
だがだからと言って、サミュエルもこれで終わりなわけではない。
今から行うこの魔術もまた、あの時の戦いでアスタロトが見せた、これまでサミュエルが知りもしなかった大魔術。
多重魔術。
複数の魔術を重ね合わせて、1つの魔術を作り出すという神業とも言える人知を超越した一撃。
あの時サミュエルは、これまでの人生の中で1番と言ってもいい程の衝撃を受けた。
それまでの自分は、魔術の最前線に立っているつもりであった。
だがしかし、あの瞬間まだまだ自分は魔術の深淵に片足すら踏み込んでいなかった事を思い知らされたのだ。
だからサミュエルは、あの戦い以降魔術の革命とも言える多重魔術を研究し続けた。
しかし、並行魔術を扱うだけでもかなりの集中力を必要とするのだが、更にそれを重ね合わせて1つの魔術を生み出すというのは、とても容易な事では無かった。
それでも、あの大悪魔は自分の目の前で、あろうことか実際に5つの魔術を重ね合わせて見せたのだ。
それも、通常の魔術を扱うかのように意図も簡単にだ。
それは、これでも王国最強の魔術師を担うサミュエルにとっては屈辱的な事でもあった。
この悪魔の前では、これまで自分が積み重ねてきた事など、その全てが足元にも及ばないと分からされたからだ。
だから、サミュエルはこの歳になって初めて、魔術の特訓をした。
これまでの人生で、初めて悔しさを味わう事が出来たのだ。
魔術は全部で10位階まで?
今となっては、こんなもの誰が決めたのだろうかと思う。
そして自分は、未だその10位階すらも扱う事が出来ないのに、全くもって何が最強だ。
―――笑わせるな、まだまだ自分はこんなにも弱いじゃないか。
その事に気付かせてくれた、かの大悪魔には感謝しなければいけない。
彼女のおかげで、サミュエルは更なる高みへと登り詰める事が出来たのだから。
サミュエルは、両手それぞれで展開した聖なる光球の魔法陣を、力に任せて強引に1つに重ね合わせた。
重なった魔法陣は互いに反発し合い、暴発寸前なところまで膨れ上がり、激しい衝撃を生み出す。
その衝撃に堪えながらも、魔法陣の要素1つ1つを集中して重ね合わせると、それらが完全に一致するその瞬間を狙い全魔力をもって一気に魔術を発動させる!
「さぁ、終わりの時間です!食らいなさい!!第10位階多重魔術 聖なる雷!!」
「な、なんだと!?何故人間がそれを!?それは大天使の!!」
聖なる雷の発動に気が付いたアークデーモンは、慌てて防御魔術を展開する。
それ程までに、この魔術はアークデーモンをもってしても受けては不味い一撃なのだ。
サミュエルの唱えた聖なる雷は、光の速度でアークデーモンを丸ごと飲み込んでしまう。
そしてその聖なる波動は、そのまま防御魔術ごとアークデーモンの全身を飲み込むと、瞬く間にアークデーモンをこの場から消し去ってしまった。
まさに、一瞬の結末であった。
サミュエルの多重魔術で生み出した大魔術 聖なる雷により、アークデーモンは見事に消え去ってしまったのだ。
こうして、サミュエルはアークデーモンとの戦いに、無事勝利したのであった。




