悪魔襲来
次の日、アルスはいつも通りアスタロトさんと朝食を済ませ、学校へと向かった。
登校中、アスタロトさんが学校へ通うようになった当初は、その容姿を前に声をかけて来る人が現れたりと色々とあったけれど、最近はそれも段々と落ち着いてきた。
自分に自信がある様々な色男達が、アスタロトさんを一目見かけると、その容姿に惹かれ直ぐ様アプローチを仕掛けてきたのだけれど、その全てをアスタロトさんは即答で断ってきたため、今では皆諦めがついているようで声をかけてくる事は無くなったのであった。
そんなアスタロトさんは、裏では"難攻不落の女神様"と呼ばれている事をアルスは知っている。
その気品漂う、美しすぎる姿を目にした誰かが、「女神様だ……。」と思わず口にした事が発端らしいけれど……ごめんなさい、アスタロトさんは女神ではなく、悪魔です。。
おかげで、最近では声をかけてくる人はいなくなったが、それでもすれ違う人や同じ学校の男子達は明らかにアスタロトさんに目を奪われているのが丸分かりであった。
「どうかしたか?」
「いえ、行きましょう。」
こうして、いつも通りアルス達は登校した。
―――――
今日も1日いつも通り授業を終え、そして下校の時間となった。
アルスの席の周りには、今日もスヴェン王子やクレア、そしてマークくんやその仲間達が自然と集まるというのが、今では授業後の習慣になっていた。
そして、ミスズは今日もアスタロトさんに放り投げられていた。
そんないつも通りの日常であったのだが、次の瞬間ここクリストフ魔法学校の事態は一変してしまった。
「た、大変!!ミーナが!!」
突然同じクラスの女生徒が教室の扉を開け駆け込んできた。
「どうした?何事だ!?」
「あっ!スヴェン様!!それが、一緒に下校していたミーナが!ミーナがいきなり襲われて!!」
「なに!?」
なんだって?今ミーナが襲われたって!?
「ヤブンくんです!校門の所にヤブンくんがいて、それでミーナを!」
「何故ヤブンがミーナを!?」
すると次の瞬間、校門の方から激しい爆発音が聞こえてきた。
皆あわてて窓から校門の方を見ると、確かにそこにはヤブンがいた。
そしてその周りにいるのは……悪魔だった。
何故かヤブンの周りには悪魔が4人おり、あろうことかここクリストフ魔法学校に攻撃を仕掛けてきているのであった。
そうして、すぐに騒ぎに駆けつけた先生達と、突如現れた悪魔達との戦闘が始まってしまった。
「あいつら!伝統あるこの魔法学校を!!絶対許せねぇ!!」
そう怒りを露にしたマークは、校門目掛けて直ぐ様飛び出して行った。
そんなマークに合わせて、他の特攻隊の4人と、居合わせたマリアナも一緒に飛び出す。
「我々も向かおう!!」
「そうね!!」
「はい!!」
アルス達も、飛び出していったマークに続いて校門へと向かおうとする。
だが、アスタロトさんは後ろからアルスの肩を掴んで離さなかった。
「ア、アスタロトさん!?」
「待て、アルスよ。」
「な、なんでしょうか!!僕達も早く!!」
「待てと言っている。」
そう言うと、アスタロトさんは先程説明をしてきた女生徒の方を向いた。
先程駆け込んで報告をしてくれたのは、同じクラスのレイラだった。
レイラは普段からミーナと仲がよく、いつも二人で行動している女の子だ。
そんな彼女もまた、全身を酷く怪我しているようだった。
確かに、怪我をしたクラスメイトをここに置いておくのは不味かった事に、ようやくアルスも気が付いた。
しかし、アスタロトさんがアルスを引き止めたのは全く違う理由であった。
「何故貴様のような木っ端悪魔がここにおるのか、説明して貰おうか。」
「……ふん、流石に気付いていたか。だが木っ端とはよく言うな、田舎者めが。」
普段のレイラとは全く異なる、禍々しい声を発したレイラは、突然その姿を変形させた。
そしてそこに現れたのは、レイラではなく全身を黒く染めた禍々しい悪魔であった。
一目見ただけで分かる。
この悪魔は、外で暴れている悪魔よりも遥かに強いと。
全身から感じられるそのプレッシャーは、強くなった今のアルスでもまだ届かないレベルにあると感じられた。
それだけ、この禍々しい姿をした悪魔はとんでもない化物クラスなのが分かった。
「小娘はどうした?」
「さぁな、今頃は……な、なんだ……?」
「どうしたと聞いている。」
「な、なんだこれは!?身体がっ!!ぐあああ!!わ、分かった!!言う!!あの二人なら私がぁ!!」
「もういい、大方分かった。死ね。」
氷のように冷たい表情をしたアスタロトさんは、そう告げると簡単に目の前の悪魔の命を刈り取ってしまった。
それは、あっという間の出来事だった。
突然悪魔の全身が見えない何かに拘束されたかと思うと、アスタロトさんの一声で悪魔は絶命し、そのまま黒い霧に変わって消え去ってしまったのだ。
一体、何がどうなったのかなんてアルスには分からなかったけれど、たった今悪魔の集団がこの学校に攻撃を仕掛けてきており、ミーナとレイラは今の悪魔にやられたという事だけは理解できた。
という事はつまり、ミーナとレイラはもう……!!
「大丈夫だ、二人はまだ死んではおらん。」
「ほ、本当ですか!?」
「だが、急いだ方が良さそうだ。行くぞ。」
そう言うと、アスタロトさんは校門とは逆の方へと歩き出した。
「今のは……なんなの……?」
「あんな凶悪な悪魔見たことも無かったのだが……これが、アスタロトさんの本気……なのだろうか……。」
アスタロトさんの行動に気が付き、アルスと同じく立ち止まり事の一部始終を見ていたクレアとスヴェン王子もまた、初めて一切手加減をしていないアスタロトさんの実力を前にして、驚きを隠せないでいた。
自分達では何人束になっても敵わないと思われた程の凶悪な悪魔を、アスタロトさんは一切触れることもなく容易く屠ってみせたのだ。
しかし、驚いている場合ではなかった。
今はそんな事より、ミーナとレイラ二人の安全が最優先だ。
その事に気付いたアルス達三人は、互いに頷き合うと急いでアスタロトさんの後へと続いた。




