最上位悪魔
「こちらです。」
シュナイダーの後ろを、ただ下を向きながら付いていっていたヤブンは、その声に立ち止まり前方を見上げた。
顔を上げると、そこには薄暗い洞窟があった。
アルブール王国を出て少し先にある森の中に、こんなところがあるなんて知らなかった。
「こ、こんなとこに何があるってんだ?」
「もうすぐ着きますよ。ご自身の目でご確認下さい。」
そう言うと、シュナイダーはそのままその洞窟の中へと入っていく。
ここまで来ておいてなんだが、正直不安しかないヤブンであったが、もう後にも引き返せないため付いていくしかなかった。
洞窟の中にはいくつもの蝋燭が置かれており、案外中はそれほど暗くはなかった。
シュナイダーはそのまま黙ってどんどん奥へと進んで行く。
まぁ、この男を信用しているわけではないが、それでもかなりの手練れである事は間違いないため、いざとなればこの男に全て任せれば大丈夫だろう。
そう自分に言い聞かせながら、不安な気持ちを誤魔化してヤブンは後ろをついていった。
「着きました。」
それから暫く歩き続けると、シュナイダーは大きな扉の前で立ち止まりそう告げてきた。
「こ、この奥か。」
「そうです。入りましょう。」
シュナイダーは、なんの躊躇いもなくその扉を開けた。
扉の向こうには、広々とした空間が広がっていた。
そして、高そうな赤い絨毯の先には立派な椅子に座る1人の男が待っていた。
そしてその横には、女性だろうか。
ただ、普通の女性ではなかった。
全身が真っ白なのだ。
白い肌、少しシルバーがかった白いロングヘアー、そして白いロングドレス。
一目でそれが、人の形をした人では無い存在だと分かった。
そして、その容姿はあの時戦った大悪魔アスタロトにも引けを取らない程美しかった。
「シュナイダーくん。その子が例の?」
「はい、連れて参りました。」
「分かりました。」
椅子に座った男とシュナイダーの会話が聞こえてきた。
どうやら、元々この男とシュナイダーは仲間関係にあるようだ。
という事は……もう俺にも分かる。
今、目の前にいるこの男が、恐らくシュナイダーの言っていた最上位悪魔本人なのだろう。
よく見てみれば一目瞭然だった。
豪華な洋服や貴金属を身につけている事以上に、この男からはシュナイダーなど比じゃない程のプレッシャーを感じられるからだ。
これは確かに、あの大悪魔にも匹敵する程だ。
もはや、人間が抗えるレベルではない。
そして、その奥や壁際を良く見ると、他にも数人の悪魔が立っている事に気が付いた。
なるほど、恐らく周りの悪魔はこいつの部下か何かなのだろう。
「初めまして、ヤブンくん。私の名はイワン。見てのとおり、悪魔です。」
「あ、あぁ。シュナイダーから話は聞いている。俺に力を与える代わりに、アルスを討てと。」
「宜しい。では早速力を与えましょう。」
そう言うと、イワンは右手を掲げて魔法陣を展開した。
物凄く巨大な魔法陣の中から、真っ黒な塊が飛び出すと、ヤブンの胸目掛け飛び出した。
驚くヤブンであったが、動く暇もなく飛んできた黒い塊は胸に当たると、そのまま体の中へと入り込んできた。
「こ、これは!?ぐ、ぐおおお!!」
猛烈な痛みが全身に走った。
な、なんだこれは!?
やっぱり俺は、騙されたのか?
この二人に弱味に漬け込まれ、こうしてこのまま殺されるのだったら笑えない。
本当、間抜けな一生で終わってしまう。
そんな事を思いながらも、ヤブンは地面でのたうち回りながら痛みに耐える事しか出来なかった。
しかし、暫くすると痛みはなくなった。
そして、俺はまだ死んでもいない。
「な、なんだったんだ……。」
そう呟きながら、視線を落とし自分の右腕を見る。
「う、うわぁ!!なんだこれは!!」
右腕が真っ黒になっているのだ。
左腕も同じ、両足もそうだ。
自分の全身が、真っ黒に染まってしまっているのだ。
「お、おい!俺は悪魔には成らないんじゃなかったのか!?これじゃまるで!!」
「大丈夫です。ヤブンさんの意思で元の姿にもちゃんと戻れるようになってますよ。」
「そ、そうか。」
言われた通り、元の姿に戻りたいと念じると、黒かった全身が元の姿へと戻っていった。
良かった。
どうやら、俺はこの二人に完全に騙されたわけではなさそうだ。
「先程の姿であれば、下級悪魔相当の力を発揮できますでしょう。それに、貴方自身の怨恨が強ければ強い程、更なる力を生み出すでしょう。」
「マジかよ。。」
「ええ、ですから私は、貴方の活躍に期待しておりますよ。」
イワンと名乗った男は、そう言うとニッコリと笑った。
……ただ、その目は笑ってなどいなかった。
「イワン……さんの、も、目的はなんなんですか?」
「私の目的、ですか。」
そう言うと、イワンは口元をグニャリと歪めて笑った。
まさに、悪魔の笑いだった。
「娯楽ですよ。我々悪魔は、常に退屈しているのです。ですから、悪魔界最強であるこの私の知らないような野良の悪魔が、この地で最強などと言われているのですから、同じ悪魔として叩き潰したくなるのが自然でしょう?」
「は、はぁ。。」
「大悪魔アスタロトでしたか?知らぬ名です。そんなどこの田舎者かも分からない者が、大悪魔などと呼ばれている事自体、我々からしたら相当な不愉快なのですよ。私は最上位悪魔、デーモンロードのイワン。私の前では、全てがひれ伏すべきなのですよ!」
そう言うと、イワンは立ち上がり両手を大きく広げた。
「さぁ、行きましょうか皆さん!悪魔による悪魔狩りのお時間ですよ!」
イワンはその目を大きく見開き、今度は本当に笑った。
それに合わせて、周りの悪魔達も声を上げる。
ヤブンは、そのおぞましく笑う悪魔達をただ呆然と見ることしかできなかった。
でも、
「……アスタロト、待っててね。ふふっ。」
隣に立つ白い女性がそう小さく呟いた事に、ヤブンだけは気が付いていた。




