クラス対抗戦⑤
「……ふざけるな……ふざけんなよ?」
沈黙の中、そうマークは小さく呟いた。
「よくも……よくもミスズをぉ!!」
怒りに任せて叫んだマークは、アスタロトさん目掛けて木刀を握り飛び出そうとした。
が、そのマークの足首をアサシンオーガは掴んで離さなかった。
「ダメ……あれは……ダメ!」
「ミスズ!?離せ!今仇を!」
「無理!死ぬだけ!あれにだけは逆らったらダメ!」
「なっ!?」
仇を取ろうとするマークを、必死に止めるアサシンオーガ。
アスタロトさんと対峙したところで無駄死にするだけだと、必死に自分が向かうのを止めるアサシンオーガの行動にマークはただ戸惑っていた。
「マークとやらよ。我と戦いたくば戦ってやってもよい。だがな、今はアルスやそのクラスメイトとの約束の最中なのだ。我はこの戦いには介入しないとな。そうだな、お前がこの対抗戦に勝利する事が出来たのならば、そのあとで思う存分戦ってやろうではないか。」
見兼ねたアスタロトさんが、悪魔的な笑みを浮かべながらマークにそう告げた。
文句があるなら、まずはクラス対抗戦に勝利してから言えと。
「……面白い、いいだろう。まずは、お前の主諸とも俺の手で討ち滅ぼした後は貴様の番だ!!覚えておけ!!」
「よく吠える小わっぱだな。だがな、先に言っておこう。お前では我のアルスに勝つ事など不可能だとな。」
「はっ!常に成績が中の下のあいつに俺がか?寝言は寝て言え!」
そう怒りを露にしたマークは、腰に下げた木刀を握りしめながらアルス達の陣地の方を向いて構えを取った。
それに合わせて、同じく特攻隊の他の4人も木刀を構える。
マークの周りには、側近とも言える特攻隊が存在する。
入学早々、マークのその圧倒的な実力に憧れたクラスメイト達が、同級生であるにも関わらずマークに弟子入りをし、以降これまで互いに切磋琢磨し今では圧倒的戦闘力を有している集団だ。
魔術の知識や精度云々ではなく、とにかくこれまで実戦のためだけの技を磨いてきた彼らが弱いわけがないのだ。
「目標、相手クラスの旗。俺が中央を切り込む。レオン、ビーンは右から、ダン、サリーは左からそれぞれ回り込み仕掛けろ。行くぞ!」
冷静さを取り戻したマークは、他の4人にそう指示すると、物凄いスピードで5人は僕達の陣地目掛けて切り込んできた。
「いよいよだな。」
「面白いじゃない、私は左手をやるわ!」
「じゃあ、私は右。」
「分かった。ならば僕がマークの相手をしよう。アルスくん、君はここに残って、万が一誰かが突破された場合の相手をして貰ってもいいかな?」
「う、うん!分かったよ!」
スヴェン王子、クレア、マーレーはそれぞれ別れて切り込んでくる相手と対峙をする。
そして、残ったアルスと戦闘が苦手なクラスメイト数人で旗の周りを固める事となった。
去年までは、アルスもこうして旗の守備を任されていたが、実際はただ旗の周りにいるだけで、あんなマーク達相手に何か出来るわけもなく簡単に旗を譲るだけであった。
隣を見ると、いつも優しいミーナが不安そうな顔をして少し震えていた。
「大丈夫だよ。今年は僕が皆を守るから。」
「ア、アルスくん?ありがとう、でも、怪我だけはしないでね?」
「いつも優しいね、ありがとう気を付けるよ。ミーナ達は僕の後ろにいて貰っていいかな?」
「え、あ、うん!」
さっきまで震えていたミーナは、少し顔を赤らめながらアルスの後ろへと移動した。
それに合わせて、他のクラスメイト達も全員アルスの後ろに回る。
良かった、ミーナの不安を少しでも取り除く事が出来たようだ。
よし、皆の前で守るとか言っちゃった手前、いよいよ負けられなくなったぞと気合いを入れ直すアルスであった。
―――――
「ほう、今年はクレアが相手か。相手にとって不足無しだな!」
そう叫びながら、レオンがクレアに斬りかかった。
その剣は、ただの剣ではない。
魔術による身体強化、また木刀に炎属性を付与する事で剣そのものがファイヤーボールと同等の威力を持っている。
だが、そこは学年2位の実力を持つクレアである。
通常の人間では出せない程の、ありえないスピードで迫ってくる剣技を、クレアは難なくかわして見せたのだ。
「アンタ達が自分に身体強化魔術を付与している事ぐらい分かってるわ。だったら簡単よね、私も同じ魔術を自分に付与するだけ。なんでこんな簡単な事これまで気付かなかったのかしら。」
そう、クレアも自分に身体強化魔術を付与していたから、さっきの攻撃を簡単に避けることが出来たのだ。
それに、魔術のレベルで言えばクレアの方が一段上だ。
つまりは、元々運動神経の高いクレアであれば、彼らを上回るスピードでの行動が可能になっているという事だ。
「身体強化魔術を習得したっていうのか?これは第3位階の魔術だぞ?そんな簡単に真似されたっていうのかよ!」
「レオン、一旦落ち着け。相手はあのクレアだ。二人がかりじゃないと無理だ。」
「クソッ、分かった。少々熱くなっていたようだ。」
レオンの肩に手を置き、ビーンがレオンを制止する事で冷静さを取り戻していた。
ビーンは沈着冷静タイプであり、常に戦況を俯瞰する事を得意とする。
相手はクレアだ、1人で挑むのは当然、2人であっても連携無しでは勝ち目がないだろう。
それだけの実力者を相手にしている事を忘れてはいけない。
「今回は俺達だけじゃない、そうだろ?」
「あぁ、そうだった。今回も俺達が勝つ。だから遠慮なく使わせて貰おう!正直反則レベルだが、恨むんじゃないぞ!」
そう言うと、二人はそれぞれ自分の使い魔を召喚した。
レオンが召喚したのは、リッチだった。
リッチは、魔術を得意とする高レベルの魔物だ。
リッチは第5位階まで操る事が出来ると言われており、その実力は王国魔術師団にも匹敵する。
近接戦闘が得意なレオンに対して、後方支援が可能なリッチを従えるという組み合わせは非常に相性が良いと言える。
やはり、使い魔とはその術者に合った者が召喚されるのだろう。
その証拠に、リッチを使い魔とする事は本当に稀なのだ。
何故なら、通常使い魔を従えるのは魔術師であり、魔術師は近接戦闘を得意とせず後方支援を得意とするから、同じ後方支援を得意とする魔物を使い魔とするケースなんてほとんど無いからだ。
つまりは、このレオンとリッチの関係は、他の魔術師と使い魔の役割を入れ換えたような状態だと言えるだろう。
そして、もう1人のビーンが召喚したのは、グレーターグリフォンだった。
グレーターグリフォンと言えば、とにかくスピードが速い魔物で有名である。
戦況を監視するビーンであれば、グレーターグリフォンはまさに持ってこいの存在だろう。
その速度で相手を翻弄し隙を見つけ、上空からそこを刺す。
使い魔を得たビーンは、それまで分かっていても実行する術が無かった相手の隙を、これで思う存分狙えるようになったのだ。
そんな、ただでさえ強い二人に、更にその強力な使い魔を召喚されてしまったクレアであるが、それでも余裕の表情を浮かべていた。
「なるほどね、確かにこりゃヤバいわね。でもね、残念ながら私にも使い魔がいる事を忘れて貰ったら困るわ。」
そう言うと、クレアは再び自分のペガサスを召喚し、それに跨がると一気に上空へと飛び上がって行った。
そのままクレアは、先にビーンを狙う事にした。
ビーンの前で隙を見せようものなら、確実にその隙を突いてくるような嫌らしい奴だということは、これまでの経験からクレアはよく知っている。
だったら、まずはビーンから片付けるしかないのだ。
クレアの接近にすぐ気が付いたビーンは、グレーターグリフォンに跨がるともの凄い速度で移動し距離を取ろうとしたが、それでもペガサスの方が一段速かった。
「クソッ!レオン!まずはペガサスを殺るぞ!」
「分かった!」
そう言うと、レオン、ビーン、リッチは同時にペガサスへ向けて攻撃魔術を放った。
だが、上空を物凄い速度で飛び回るペガサスにはそのどれもが命中する事は無かった。
「ふん!当たらなければどうという事はないのよ!」
と、上機嫌に叫ぶクレアは、背中を捉えたビーン目掛けて突撃を開始した。
「まさか私のペガサスがスピードだけだと思った?さぁ、おやりなさい!」
クレアはペガサスに命じた。
するとペガサスは、全身を白色に輝かせた。
輝くペガサスは、そのままビーンの乗るグレーターグリフォンへ向かって突進する。
白い輝きは光となり、光速とも言える速度で前進すると、そのままグレーターグリフォンの身体ごと貫いてしまった。
そう、これこそがペガサスが超上位魔物と呼ばれる本当の理由なのだ。
超速度での体当たりで相手を貫くこの攻撃は、まさに不可避の必殺技と言えるだろう。
グレーターグリフォンであってもかわすことなど不可能であり、そのままグレーターグリフォンとビーンは地面へと落ちていった。
「さぁ、次はアンタの番ね!」
そう言うと、レオンとリッチ目掛けてクレアは再び光の雨を放つと、生み出された無数の光の矢がレオン達を襲う。
レオンは、ビーンがやられたと思ったつかの間、上空から無数の光の矢が降り注いできている事に気が付いた。
「クソッ!めちゃくちゃかよあの女!!」
そう叫びながらも、頭は冷静である。
まずは自分の頭上にシールド魔術を展開して覆う。
リッチの方を見ても、同じくシールド魔術を展開しているので大丈夫そうだ。
まずは、あの超速度で上空を移動するクレアをどうやって捉えるかを考えなければならない。
正直、ビーンがやられた時点で打つ手なしだ。
だが、マークのためにもこの対抗戦負けるわけにはいかない。
一先ずはこの光の矢を防いだあと、すぐに身体強化で上空へ飛び上がり渾身の一撃で斬りつけるとしよう。
相手の想像しない、この一太刀の奇襲にかけるしかないと、レオンはそう覚悟を決めて光の矢から身を守った。
だが光の矢は、レオンとリッチのシールドを何故かすり抜けると、そのまま二人を撃ち抜いたのであった。
「なっ!?」
そしてそのまま、レオンとリッチは無数の光の矢に撃たれてその場に倒れてしまった。
「ごめんね、私の光の雨は攻撃魔術でありながら実は聖属性なの。だから同じ属性のシールド魔術は通用しないのよ。」
そう、この光の雨は聖属性の中では非常に珍しい攻撃魔術なのである。
通常、聖属性と言えば身体強化、治癒効果、防御効果などが主となる属性という認識が一般的である。
そのため、あらゆる攻撃から己を守るシールド魔術というのは非常に有用なのだが、この同属性であるライトニングレインだけは防ぐ事が不可能なのであった。
これは、迫りくる炎を炎の壁で防いでいるのと同じで無意味という事だ。
だから、光の雨を防ぎたければ、シールド魔術ではなく他の属性の攻撃魔術で相殺するしかないのだった。
こうして、見事クレアはレオンとビーン二人を相手にしながらも、無事勝利したのであった。




