クラス対抗戦④
マーレーの活躍により、マーク達から放たれた火の球に対処したのもつかの間、今度は逆サイドから激しい足音が鳴り響き出した。
「え!?なによあれ!!ドラゴンの群れじゃない!!」
逸早くそれに気付いたクレアがそう叫んだ。
レッサードラゴンが5体、それにグリーンドラゴンが3体の計8体ものドラゴンがこちらを目掛けて突進してきているのだ。
なるほど、相手のクラスの守備部隊が、使い魔のみこちらへ向けて突進させてきたという事か。
「よし、ここは私がやるわ!」
クレアは自らの使い魔であるペガサスを召喚すると、そのままペガサスに跨がり上空へと飛び立っていった。
クレアを乗せたペガサスは、なんとグレーターグリフォンよりも更に速い速度で移動し、あっという間にドラゴンの群れの上空までたどり着いていた。
「アンタ達にはとっておきをあげるわ!第5位階魔術 光の雨!」
なんと、クレアはまだ学生の身であるにも関わらずドラゴンの群れに向けて第5位階魔術を放った。
光の雨。
無数の光の矢がドラゴンの群れの上空に浮かび上がったかと思うと、クレアの合図に合わせて一斉にドラゴン目掛けて凄まじい速度で照射された。
ドラゴン達は鋭い光の矢を避けきる事が出来ず、その身を無数の光の矢により撃ち抜かれた。
その結果、レッサードラゴンは再起不能状態となったが、グリーンドラゴンは全身に矢を浴びながらも歩みを止めず、そのままこちらへの突進を止める事はなかった。
アスタロトさん程の超越者からしたら、グリーンドラゴンはただの食糧でしかないのかもしれないけれど、全身に光の矢を浴びても尚動き続けるという、本来グリーンドラゴンとはあり得ないタフさを誇っている魔物なのだ。
本来、グリーンドラゴンとはそこに存在するだけで災害みたいな存在であるという事を、アルスは再認識した。
と、そんな事を考えながら眺めていたら、グリーンドラゴンはアルスのすぐ近くまで迫ってきていた。
「行け!レッドドラゴン!」
グリーンドラゴンを迎え撃つため、アルスが戦闘体勢に入ったのと同時に、隣にいるスヴェン王子が自らの使い魔であるレッドドラゴンをグリーンドラゴンの元へと向かわせた。
レッドドラゴンはその大きな翼で勢いよく飛び立つと、上空から突進してくるグリーンドラゴン目掛けてファイヤーブレスを吹き掛けた。
レッドドラゴンの口から放たれた、紅蓮の炎がグリーンドラゴンに襲いかかる。
これには、流石のグリーンドラゴンでも耐えきる事はできず、その全身を炎に包まれると悲鳴をあげながら3体ともその場に倒れ伏せてしまった。
ダメージは受けていたものの、あのタフなグリーンドラゴンを一撃でダウンさせたレッドドラゴン。
グリーンドラゴンも恐ろしい魔物であったが、レッドドラゴンはそれの比では無い程に凄まじい力を有していた。
こうして、今度は相手の奇襲をこちらが防いでみせた。
ここまでの戦いはまさに互角だが、こちらにはこれだけ頼もしいマーレー、クレア、そしてスヴェン王子がいる。
それに、レッドドラゴン筆頭に強力な使い魔だっているのだ、アルス達のクラスが一歩リードしているのは間違いなかった。
しかし、アルスがそう思った次の瞬間、突然スヴェン王子のレッドドラゴンが悲鳴をあげながらその場に倒れてしまった。
ここにいる全員、一体何が起こったのか分からずレッドドラゴンの方を呆然と見る事しか出来ないでいた。
すると、倒れたレッドドラゴンの巨体の影から1人の女性が現れたかと思うと、その女性はこちらへ向かってゆっくりと歩み寄ってきた。
「……まさか、アサシンオーガとはな。」
自分のレッドドラゴンを、まさかの一撃でやられてしまったスヴェン王子が憎らしげにそう呟いた。
という事は、あの女性が噂に聞くアサシンオーガという事だろう。
アサシンオーガ。
それは、使い魔として召喚される事は非常に稀と言われている最強クラスの化け物。
相手の影に潜り、一撃で獲物を仕留める事ができると言われている、言わばチートモンスターだ。
その容姿は、ちゃんと和服のような服を着ており一見人間のようではあるのだが、額からは角が2本生えており、口には2本の牙を持っている。
黒髪でサラサラのショートヘアーは美しく、これが人間ならば相当な美少女だろうなという感じだ。
だが、相手はあのアサシンオーガ、美少女どころかレッドドラゴンですら全く敵わない程の強力な魔物なのだ。
「マーク、約束通りこいつは仕留めといたぞ。」
「あぁ、ご苦労だった。こっちは俺達でケリをつけるから、お前はお前の目的を果たすといい。」
「分かった、そうさせて貰おう。私は自分より強い強者を求めている。」
そう言うと、アサシンオーガは影に吸い込まれるようにその場から消えていった。
「そこのお前、アルスと言ったか。お前の使い魔は使わないのか?」
丘の上から、マークはアルスを指差しながらお前の使い魔は使わないのかと尋ねてきた。
「ええ、今回はアスタロトさんの力は借りないつもりです。だってこれは、僕達の戦いだから!」
「使い魔も己の武器の1つだろ?」
「そうです。でも、それで勝っても嬉しくなんてありませんからね!」
「お前の使い魔がいれば我々に勝つなど容易いと、そう言っているのか?これはこれは、我々に一度も勝利した事がないお前らに随分と舐められたもんだな。」
そんなつもりじゃないんだけど。
でも、これは事実だから。
アスタロトさんが介入したその時点で、間違いなく一瞬でこの対抗戦は終わってしまう。
「いいだろう!今俺の使い魔であるアサシンオーガのミスズが、お前の使い魔の所へ行っているはずだ!世間知らずなお前に教えてやろう!自称悪魔など真の実力者の前では無力だとな!すぐにミスズがお前の使い魔の亡骸をここへ持ってくるだろう!」
そうマークが叫ぶと同時に、突如上空からマークの目の前に物凄い勢いで何かが落ちてきた。
―――それは、つい先程アスタロトさんの元へ向かったはずのアサシンオーガであった。
「なっ!ミスズ!?おい!何があった!?」
「ふむ、急に我の前に現れて刃を向けられたのでな。戦いに介入するつもりなどなかったのだが、仕方なく返しにきたのだ。」
「ミスズがやられた!?そ、そんなバカな!!貴様、俺の使い魔に何をした!?」
「デコピンだ。」
「デ、デコ!?」
「なんだ知らんのか。デコピンとは指をこうしてから、こうするのだ。」
気付いたらマークの隣にいたアスタロトさんは、そう言うと誰に向けるでもなくデコピンをした。
すると、指からは激しい波動が生まれ、それはそのまま先程マリアナが作った土の壁とぶつかるとその全て破壊してしまったのだった。
そして破壊の衝撃は、それまでカール達相手に優勢に戦っていたマリアナとゴーレムをも吹き飛ばしてしまった。
「こんな小わっぱ、デコピンで充分だろう。戦いの邪魔をして済まなかったな。我は再びあそこでお前達の戦いを観戦するとしよう。アルスよ、頑張るのだぞ。」
そう言うと、アスタロトさんはこちらへ向けて軽くウインクをしながら、入り口の方へと戻っていった。
しかし、マークもマリアナも相手のクラス全員、その圧倒的な力を見せ付けたアスタロトさんの方をただ呆然と見ることしかできないでいた。




