魔術組み立て②
圧倒的な魔術を見せられ、クラス中が静まり返ってしまった。
アルスだって、アスタロトさんが滅茶苦茶強い事など重々承知していたつもりではあるけれど、それでも人知を超越した魔術の数々を見せられる度、その全てに驚かされるばかりだった。
「……ならば、ならばどうすればよい……のですか?」
沈黙の中、絞り出すようにルドルフ先生が小さく呟いた。
「どうすれば、我々にもそのような魔術が扱えるのですか……?」
「ふむ、お前達には無理だな。」
「なっ!?」
プライドも何もかも捨て質問したルドルフ先生だったが、アスタロトさんはバッサリと切り捨てた。
「まず、サミュエルと言ったか?あやつの魔力量であっても第7位階が限界であろう。要するに、お前たち人間は魔力量が足りなすぎる。そして2つ目は、お前は魔術を研究する最前の身でありながら、魔術をイメージで操る事が出来なかった。それが意味するのは、根本的にお前達は魔術を理解できていないという事だ。」
続けて、そう言う意味ではとアスタロトさんはアルスの方を向いた。
「我の主であるアルスの方が、お前より遥かに魔術の理解度は高いと言えよう。」
……え?僕がルドルフ先生より理解している?
えっと……アスタロトさん?何の冗談でしょうか?
「わ、私がただの生徒より劣っているとでも言うのかね!?」
「あぁ、そうだ。その何よりもの証拠として、アルスはこの我を召喚したのだ。」
確かにアルスは何故かアスタロトさんを召喚してしまったけれど、あれはただの事故だし、常に成績が中の下のアルスがルドルフ先生より優れてるだなんて事は絶対に無いと思う。
「すみません、横から失礼します。あの時アルスくんの展開した魔法陣は、確か赤い色をしていたと聞いています。それが何か関係しているのでしょうか?」
神妙な顔をしながら、スヴェン王子が質問した。
たしかにあの時のアルスの魔法陣は赤色をしていたけれど、あれが原因でアスタロトさんを呼び寄せたという事だろうか。
「それは、我が魔法陣を重ね合わせたからだ。通常の使い魔召喚の魔術は、召喚者の力量に合わせて魔界へと繋がるものだが、アルスは我の住む世界へと繋げたのだ。」
「……その、アスタロトさんの住む世界というのは?」
「この世界でも魔界でもない、別の世界とでも言っておこう。通常人間など踏み入れる事などできぬ場所だ。」
スヴェン王子の質問に、アスタロトさんはそう答えた。
人間が踏み入れる事なんて出来ない場所に、どうしてアルスの魔術が干渉出来たのか意味が分からなかった。
「これまで、我らの世界に干渉した人間は2人だけだ。1人はここにいるアルス。そしてもう1人は、クリス・クリストフ。」
「ク、クリス・クリストフだと!?」
思わぬ大物の名前に、ルドルフ先生が驚きの声を上げる。
アルス自身にとっても、まさか自分があのクリス・クリストフと並べられている事に全く理解が追い付かなかった。
―――そう思ったが、アルスには1つだけ心当たりがあった。
そうだ、何が他と違うかと言えば……アルスは使い魔召喚を失敗したくない一心で、魔術陣を何度も微修正していたのだ。
もしかしてそれが……。
そう思ってアスタロトさんの方を向くと、アスタロトさんはアルスも気が付いたかと言うように口許に笑みを向けながら言葉を続けた。
「ここのアルスは、使い魔召喚の魔術を作り替えて我らの住む世界へと繋げたのだ。正確には、使い魔召喚の魔術は元々クリス・クリストフが我らの世界へ繋げる魔術を生み出し、それを改変し魔界へ繋げるようにした物なのだ。つまりアルスは、クリス・クリストフが改変した魔術を基に戻したという事だ。」
「そ、そんなはずがない!使い魔召喚の魔法陣は完全に完成されたものだ!!」
「お前達人間の常識から言えばそうなのだろう。だがアルスはその前提を覆し、本来の魔術を導き出したのだ。」
「バカな!アルス・ノーチェスくんと言ったかね、君は一体何をしたと言うのだね!?」
ルドルフ先生が食い入るようにアルスに質問してきた。
「え、えっと、使い魔召喚を絶対に失敗したくなかったので、魔法陣の成り立ちを毎日解析してました。そしたら、違和感というか、ここをこうした方がもっと効率が良いんじゃないかな?って所が複数見つかったので、その……全部直して魔法陣を展開したらキレイに魔法陣が展開されたので、これで良いかなと思って本番に臨みました。。」
「ふむ、それはアルスが魔法陣そのものの意味を理解したから出来た事だ。クリスも、この魔法陣の違いに気が付く人間などいないと断言していたからな。何故ならイメージで魔術を扱う事より遥かに高度な事だからとな。」
アルスの拙い説明を、アスタロトさんが補足してくれた。
なんだか、アルスが無自覚でやった事がどんどん別次元の話になっていってる気がするんですけど……。
「なるほど、アルスくんは言わば魔術の深淵に触れたという事でしょうか。悪いけれど、アルスくん。僕達にもう一度その魔法陣を見せて貰えないかな?」
スヴェン王子に頼まれたので、アルスは使い魔召喚の魔法陣を展開した。
「こ、これは……確かに似ているが、術式が異なる上、魔力効率が数段高い。。確かに元々下級魔術でありながら複雑な構造をしているとは思っていたが、これが真の姿だと言うのか……!?」
「確かに、これは僕達のものとは全然違うと言わざるを得ませんね。」
アルスの魔法陣を見て、ルドルフ先生が驚きの声を上げ、スヴェン王子はなるほどと頷いた。
「悪魔王への扉、この魔術は第12位階に属する魔術だ。お前達人間の標準では未知の領域であろう。」
この魔術は悪魔王への扉って言うのか…というか今、第12位階って言いました!?
魔法陣に全員が驚く中、アスタロトさんは更にとんでもない事を平然と言ったのであった。