昼休み
魔術の実践授業が終わり、午前中の授業は全て終了し昼休みの時間となった。
昼休みは、各々弁当を持参するか、もしくは学校の食堂で済ます事となっている。
アルスは弁当なんて作った事が無いため、アスタロトさんを連れて食堂へ向かう事にした。
教室を出て廊下を二人で歩いていると、丁度教室から出てきた隣のクラスの人と鉢合わせた。
「ふーん、お前が今噂の大悪魔アスタロトさんかい?こうして見ると、普通の女にしか見えねーな。」
アスタロトさんに対して、まるで期待はずれだと言いたげにそう吐き捨てた彼の名は、マーク・ダレス。
ダレス家と言えば、アルブール王国の公爵家の1つで、特に過去の戦争において確かな実績を残し続けている名家だ。
魔術の実力は勿論、ダレス家の特徴は剣術にも優れており、魔術と剣術を組み合わせた戦い方を得意としている。
そんな現ダレス家当主でマークの父ニック・ダレスは、アルブール王国近衛騎士団長を勤めている程の実力者なのだ。
ここアルブール王国において、ニック騎士団長とサミュエル魔術師団長こそが、この国を護る2本柱として国内外に広く知られている。
マーク自身も、ダレス家の次期当主として看板を背負っているため、その実力は確かだった。
学生であるにも関わらず、その実力は既に魔術師団に入団して中核を担える程と言われており、戦闘においては学年でも1番だと言われている。
魔術に関する成績では、スヴェン王子やクレアの方が上なのだけれど、戦闘だけに限ればマークに敵う相手はこの学校にはいないとされている。
実際、過去のクラス対抗戦においてもアルス達のクラスはマークのクラスに過去1度も勝てていないのだ。
それ程までに、戦闘においてはクラス間の実力が離れているのだった。
過去の対抗戦では、アルス達のクラスもスヴェン王子やクレアを中心として善戦はしているのだが、それでも終盤の近接戦闘になると、魔術よりも剣術の方が優れているため毎回アルス達のクラスは惜しくも負け続けているのだ。
そんなマークと言えば、赤い短髪がトレードマークで、背が高く全身筋肉質なため、学年、いや学校内でも多分1番身体が大きい。
そのため、例えるとスヴェン王子が美の象徴なら、マークは男らしさの象徴として女子からの人気を二分していたりもする。
アルス達の学年では、スヴェン王子とマークの二人を筆頭に、お互い切磋琢磨できる間柄としてこれまで良い関係を築けてきたと思っていた。
だから、そんなマークがアスタロトさんに対して、あんな態度を取る事に正直驚いている。
「アルスよ、こやつはなんなのだ?」
「あ、はい。隣のクラスのマーク・ダレスくんです。スヴェン王子と同じく、マークくんは隣のクラスの主席でクラスを引っ張るリーダーのような人です。」
「ふむ、リーダーか。しかし、ここには我と己の力量の差にも気付かず、不敬な態度を取る人間が多すぎないか?」
アスタロトさんは、まるでマークの事など相手にせず、やれやれと呆れながらそう言った。
「ほう、貴様このダレス家長男の俺を前にして、結構な言い種じゃねぇか。大悪魔だかなんだか知らねーが、今俺に対して取った態度忘れんじゃねーぞ。そうだな、今度のクラス対抗戦楽しみにしとけ、今年も我々のクラスが圧勝してやる。」
こちらを睨み付けながらそう言うと、アルス達の前からマークは去っていった。
「ア、アスタロトさん?大丈夫ですか?」
「ん、なんだ?心配してくれているのか?可愛いなアルスは。我はあの程度の煽りなんとも思わん。」
そう言うと、何事も無かったかのようにアスタロトさんは歩きだした。
……いや、どちらかと言うと、マークくんの身の安全の方を心配していたのだけど、怒ってはいないようだしこの事は黙っておくことにした。
クラス対抗戦は、今週末にある。
これまでは完敗してきたアルス達のクラスだけど、最高学年は使い魔の使用が許されている。
使い魔を上手く利用する事で、最後ぐらいマークのクラスに勝てるかもしれない。
だから今回は、アルスもやれる限りの事を頑張ろうと覚悟を決めた。
……いや、でもちょっと待てよ。
これってアルスの使い魔であるアスタロトさんが介入した時点で、勝負が勝負じゃなくなるんじゃ。。
でもアスタロトさんは使い魔であり、クラスメイトでもあるし。。
と、やる気になったものの、またすぐに頭を悩ませるアルスであった。