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授業

 朝食を食べ終え、今日はそのままスヴェン王子と共に魔法学校へ向かう事となった。


 道中、色々とスヴェン王子が学校について説明してくれたおかげで、アスタロトさんに伝えきれていなかった事まで教えて貰えたのでかなり助かった。

 というか、スヴェン王子の説明の中にはアルスでも知らない事まで含まれていたので、その点については内心反省した。


 言われてみると、これまでアルスは学校に対して多くを知ろうとはして来なかった。

 ただ薬剤師になるためだけに、これまで魔術の勉強ばかりしてきたように思う。

 だから、これからはもう少し視点を変えてみようと思ったアルスであった。


 そんな話をしていると、あっという間に魔法学校へ到着した。

 ここクリストフ魔法学校は、正面に各学年の教室がある塔がそびえ立ち、その右隣に職員室のある塔、左隣に校庭が広がるという構造になっている。

 各学年、クラスはランダムに2つに別けられており、アルスのクラスはスヴェン王子、クレア、マーレーの3人がずっとトップ3の座をキープしている。


 クラスが別けられている理由としては、行事としてクラス対抗で競い合うイベントがいくつかあるためだ。

 その中でも、魔術対決を行うクラス対抗戦は1番盛り上がるイベントとなっている。

 特に、最高学年のクラス対抗戦は当然魔術レベルも一番高いため、学校外の人達からも注目をされている。

 このクラス対抗戦は、ある意味魔法学校で学んだ集大成とも言えるため、ここで活躍できれば魔術師団へ入団出来るとも言われている程、周りからの感心も高いイベントとなっているのだ。


 しかしアルスにとっては、あまり戦闘系の魔術は得意ではないため、これまでの自分はそっとサポート役を努めてきた。

 でも、昨日アスタロトさんに伝えた通り、これからはアルスも自分で自分の大切なものぐらい守れる人間になると決めた以上、次のクラス対抗戦はアルスも前線に立って戦ってみようと心に決めている。


 教室へ入ると、既に登校していたクラスメイト達が全員一斉にこちらを見てきた。

 視線の先にいるのは当然、アスタロトさんである。


「おはよう!皆いいかな?昨日伝えた通り、今日からアスタロトさんにはここクリストフ魔法学校に生徒として通って頂く事となった。要するに、これからクラスメイトになるという事だ。仲良く共に勉学に励もうではないか。」


 逸早く視線に気付いたスヴェン王子が、クラスメイトに向かってそう説明してくれた。

 スヴェン王子から直接言われたクラスメイト達もまた、すぐに意図を理解をし、そして好奇の視線を向けてしまった事をすぐに改めて個々に挨拶をしてくれた。

 こうして、またしてもスヴェン王子に助けられてしまったのであった。


「ふむ、スヴェンとやらには色々と世話になっているな。」

「そうですね、本当に色々と助けて頂いてます。」




 アルス達の学ぶ教室は、長机が並んでおり基本的に席は自由となっている。

 とは言っても、なんとなく誰がどこに座るかは決まっているのだ。

 アルスはいつも右端の後ろから2列目に座っているので、今日もいつも通りそこに座った。

 当然、隣にはアスタロトさんが座る形となる。


「ほぅ、これが学校というものか。中々興味深いな。」


 なんてアスタロトさんは、結構上機嫌に授業が始まるのを待ってくれているようで助かった。


 授業開始まで少し時間があるため、なんとなく周りを見渡してみたが、もうこちらをジロジロと見てくる人はいなくて一安心した。

 ただ1人を除いては。

 クラスの中でクレアだけは、厳しい目付きでこちらをじーっと監査してきているのだけど、あれは今始まった事でもないためアルスは見なかった事にした。



 しばらくすると、先生が教室へ入ってきた。

 それに合わせて、クラスのリーダーでもあるスヴェン王子が号令をかけ、一斉に挨拶をする。


 最初の授業はマリア先生なので、魔術の歴史についての授業だ。


「皆さん、おはようございます。授業を開始しますよ。あぁ、そちらにいるのがアスタロトさんね、宜しくお願いします。まさかあの伝説の大悪魔が、私の授業を受けているなんて何かの冗談としか思えないわね。むしろ私なんかより魔術の歴史に詳しいのでしょうから、何か間違っている事とかあれば逆にお教え頂きたいですわね。」


 なんてマリア先生は軽い冗談を言いつつ、それではと早速授業が始まった。


 今回の授業は、魔術の進化の歴史についてだった。


 遥か昔、元々は神々や魔族しか扱う事ができなかった魔術を、人間の身でも扱うように出来る術を見出だしたのが、大賢者マーリンと言われている。

 マーリンはこの魔術を扱う術を人々へ普及させ、それにより人々の文化の発展に大きく貢献したとされている。


 しかし、魔術には扱う人によって個人差が大きく現れる事が分かった。

 そのため、人々は魔術の適正のある者を集めると、各所で魔術の研究が行われるようになっていった。


 こうして、魔術研究が日々発展していく事になるが、その中でも1番有名なのが魔術師クリス・クリストフの存在である。

 なんと言っても、ここクリストフ魔法学校のクリストフとは、魔術師クリス・クリストフの名前が由来にもなっている程に。


 クリスは、進化する魔術研究の中でも独自の研究を貫いており、当初は変人扱いをされていた。

 しかし、クリスの作る真新しい魔術の数々は次第に評価され、人々の暮らしを豊かにする基礎を作ったと言われている。


 それまでの研究対象は専ら戦闘系の魔術が中心であったが、クリスだけは違った考え方を持ち、人々の暮らしの中で役立つ魔術を求めてひたすら研究を続けていたのだ。

 その結果、生活に役立つ魔術を数多く生み出したクリスは、それまでの魔術=攻撃ツールという概念を覆した第一人者と言われている。


 そんなクリスが作り出した魔術の中で、1番有名なのが昨日アルス達が行った使い魔の召喚魔術である。


 それまでは、魔術師だけでは直接戦闘は不向きとされており、騎士などと組んで一団で戦うというのが一般的であった。

 しかし、クリスの作ったこの使い魔召喚魔術により、魔界の魔物達を魔術師のサポート役として召喚できるようになった事で、魔術師単体でも戦場に出ることが可能になったのである。

 これにより、人々の戦い方というものが大きく変化したとされている。


 しかし、本来クリスは戦闘のためではなく、生活の中で使い魔を何か役立てれないかという思いでこの魔術を作ったとされている。

 例えば、薬草を集める時グリフォンがいたら移動が便利になるとか、村にグリーンドラゴンを置いておけば、近隣の魔物から村を守れるようになるといった発想から、使い魔召喚魔術を作ったのだ。


 そんな、人々の暮らしのため尽力したクリスの意思を次ぐべく、ここクリストフ魔法学校は建設されたのであった。


 アルス自身、クリスの考え方には好感を覚えている。

 何故なら、アルスが薬剤師になりたいも村の皆を助けたいという思いがあるからだ。

 アルスもクリスのように、卒業したら色々な魔術を駆使して、病気に役立つ薬を開発したいと考えている。

 だから、そんなクリスの名がついたこの学校で魔術を学べることは、アルス自身非常に誇らしい事だと思っているのだ。


 そんな事を考えながらそっと教科書のページを捲ると、そこにはクリスに関する歴史の中で、アルスの忘れていた情報が目に入ってきた。




 ―――――そんな魔術師クリス・クリストフが亡くなったのは、今から約1000年前の出来事である。




「……クリスか。懐かしいな。」


 隣でアスタロトさんは、そう小さく呟いたのであった。

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