10. Épilogue(終章)
◇ 16 ◇
「ねえねえ、おばあちゃん。続きは、続きは」
ゴーレム騒ぎのあの夏から三十七年。
マルセル少年はエレーヌのゴーレムに襲われた話を全く怖がらず、もっと聞きたいと目を輝かせて続きを催促する。エレーヌは苦笑しながらも、孫の頭を撫でて話を続ける。
「そうだねえ。結局、シャルルがあんまりしつこいから、怪我が治った時にしょうがないから結婚してあげるって答えちまったねえ。それから大変なこともあったが、アンナが産まれ、マルセルちゃんもいてこの通り幸せな人生さ」
エレーヌはちょっと照れながらも満足そうに話す。だが、マルセルは頬を膨らませる。
「違うよ。おじいちゃんとおばあちゃんのことじゃないー。アシェルさんはどうなったの。僕、アシェルさんのことが聞きたいの」
あらまあ、とエレーヌは目を丸くする。あいかわらずあの人は報われないねぇと一人呟き、話を続ける。
「そうだねえ。あの後、アシェルさんは屋敷の設備を使って体の修理を済ませて、北に旅立って行ったねえ。アシェルさんがそれからどうなったのかは、あたしも知らないねぇ」
えー、とマルセルは不満の声を上げる。ただね、とエレーヌは笑って付け加える。
「あたしたちが結婚式を挙げた次の日さ。玄関を開けると、花いっぱいの籠に手紙が添えて置いてあったんだよ。差出人の名前はなかったけどね。そこにはこう書いてあったのさ。『シャルルさん、エレーヌさん。家族を引き裂く怪物は二度と現れることはありません。二人で末永くお幸せに』ってね」
子供のマルセルには理解するまで時間がかかった。しばらく考え続け、考えついた答えをエレーヌに話す。頷くエレーヌに満足し、そのまま走って遊びに行った。
娘夫婦と孫に囲まれ過ごす、穏やかな日々。
エレーヌは思う。
――アシェルさん。あなたは私を救い、シャルルを救い、そしてこの暮らしを救ってくれました。あなたの魂も救われましたか? いつか、聞かせてくださいね。
どこかで、誰かが微笑んだ気がした。
一八三〇年、仲秋の昼下がり。
フランス、アルザスの葡萄農家では今日も元気な声が響いている。
«Après la pluie, le beau temps.»
~ La Fin “heureuse” ~




