月下夜話 第二夜 2
「では、次は私が」
ユウタが話し始める。
「最近、この世界の住民の中に、奇妙な事を言う方がおられるそうです。曰く、この世界には神がいて、世界を滅ぼそうとする。人間は団結して神に立ち向かう必要がある。神を倒せなければ、人間は滅ぼされるだろう、と」
「ふむ・・・何かのイベントかにゃあ?確かにそう言う話は知り合いから最近よく聞くにゃあ」
トキが相槌を打つ。
「イベントの可能性、妄想の可能性もあるけど。さっきまでの話からして、この世界に住民を再生した際、手違いで記憶が残った状態で再生してしまった人がいる可能性があるな」
「にゃ?!」
サクラの言葉に、トキが驚きの声を上げる。
「噂に聞いたのですが、旧神、と言う存在がいるらしいので、事実ならその暗躍の可能性が有りますね」
旧神?アルテミスみたいな?後、噂に聞いたとか驚きの白々しさ。
「かつて女神様がまだ一世界の神でおられた頃、各世界を支配する神々が居ました。その神々女神様に戦いを挑み、敗れ、神格と真名を失いました。今では精霊となり、女神様に存在を許され、世界を放浪しています。反抗する事が許されているので、時々何か企むのです。それらの存在を、旧神と呼んでいます・・・残念ながら、中には神としてのプライドを棄てて、食欲と安寧に負けた存在もいるようですが」
そんな存在がいるのかあ。
<しくしくしくしく>
いるのかぁ。
「その旧神と言うのがいるのですね。危険な存在なのですか?」
エレノアの問いに、
「それ程でもないですね。圧倒的な実力差があるので、女神様にとっては脅威にはなりません。せいぜい、いたずらっ子のような存在です。ただまあ、プレイヤーの皆さんや、住民の方にとっては、極めて力が大きい存在ですね。ちょくちょく、住民やプレイヤーを扇動して、混乱をもたらします」
「十分迷惑だよぅ・・・」
レイが頭を抱える。
「現在活動が確認されてる旧神で何かやってそうなのは、あの存在ですね。真名は伏せておきます。真名に辿り着けた時、その存在は隠蔽の力が弱体化し、尻尾を出す可能性があるでしょう」
情報を集めて真名を探れ、的なワールドクエストか。レイやサクラ、トキ、エレノアに頼んで探ってもらうか。
「なー、何かヒントくれよー」
サクラの問いに、
「駄目です。せいぜい、明け方の金星、反逆者筆頭、くらいしかあげられません」
月花が拒絶する。てか、
「それは普通にルシファーじゃないのか?」
ジジジギギギギギ・・・ガシイイイイイン
俺の言葉と同時に、空間が軋む。
「驚きです、真名を暴かれ、ルシファーの偽装能力が激減しました。これまでより暗躍は難しくなるでしょう」
月花が驚嘆して言うが、
「驚くような難易度じゃないだろ??!何でお前ら旧神ってガバガバ過ぎなんだ?!」
思わず叫ぶ。
「すごーい!!!流石ますたぁ!!」
レイがはしゃぎながら抱き付いてくる。
「オドロキデスネ」
ユウタが抑揚の無い声で言う。驚いてないだろ。と言うか、驚かれた方が驚くわ。
「・・・そうか・・・なるほど、ルシファーだったのかにゃあ・・・」
トキが感心している。お前ポンコツ度が加速してないか?
「まあ、旧神の存在を明らかにするかはともかく、情報収集はした方が良さそうですね」
ユウタがしめる。
「何だかなあ・・・せっかく正体を探る全体イベントでも始まるのかと思ったのに」
俺が言うと、
「全体イベント、って何ですか?」
レイがはーぃと手を挙げて聞いてくる。
「全体イベントっていうのは、運営が目的を告知して、プレイヤー全員で達成に向けて努力する形のイベントだ」
レイが乗り出してくる。
「それ面白そう!やりたい!」
「いや、プレイヤーがいくらやりたいっていってもそうそうできるもんでは・・・まあユーザーイベントという手もあるけど」
「ユーザーイベント?」
きょとんとするレイ。
「うん、プレイヤーが景品を用意したりして、プレイヤーに呼びかけ、色々イベントをやる。ファッション大会だったり、隠した物を探したり、クイズだったり、アイテムを収集した数を競ったり。運営があまり何もしてない時で、プレイヤーが友好的な雰囲気だったりすると、あったりするな。運営がやるイベントのように特別な事はできないが、工夫次第で色々できる」
「色々あるんですね!何かやりたい!」
「いい運営だと、ユーザーイベントの様子を見て、システム的にもサポートしてくれたりするな。運営とプレイヤーが良好な関係を築いていると、そういう事が起きる」
「ふむふむ!」
「後は・・・運営の全体イベント、とか、他にも個別報酬のイベントとかあって・・・そういうのは凄く荒れたりする」
「荒れるの?」
「うむ。例えば、特定の時間だけ、特定のマップで、特定の敵が出る・・・その敵から、普段は高額で取引されるような檄レアがドロップする、みたいな事をやると、凄く悲惨な事になる。もうユーザー同士で足の引っ張り合い、ノーマナーだの、俺ルールだの・・・」
ユウタが言う。
「私も、別のゲームで経験あります。敵が沸いた瞬間取り合い、タゲを取った方は横から殴られる事を怒り、タゲを取られた方は、自分の傍にいて自分をタゲっていた敵をとったと言う。このゲームでは関係ありませんが、一般的なゲームでは、一定地域にプレイヤーが集まるので、非常に処理が重くなって、動きもカクカクに」
エレノアも続ける。
「結局、目をお金マークにしているプレイヤーがイベントに集まり、争いが嫌いなプレイヤーは参加せず軽い場所でのんびりしてるっていう」
俺も言う。
「人によっては、範囲魔法とかをわざと使って、処理を重くして、他のプレイヤーの邪魔するとかあったなあ。進路妨害系の設置魔法使ったり」
レイがわたわたしながら、
「えと・・・えと・・・結構大変な感じですか?」
「個人報酬、しかも高額、と言ったイベントは、悲惨な事になったりするね」
ユウタが続ける。
「さっき話に出てた、全体イベント、とかだとまた違いますね。こっちはプレイヤーで協力してやるイベントです。例えば、特定のアイテムを特定の敵が出すようになって、それを世界全体で何個集めて・・・一定数毎に、プレイヤー全員にアイテムが貰える、と言ったイベントです。みんな自分ができる事で協力し合うので、非常に楽しいですよ」
「それは楽しそう!やりたい!」
レイがぴょん、と飛び上がる。
「そうだにゃあ。やるなら全体イベントの方をやりたいにゃあ。個人報酬はもめるにゃあ」
トキが言う。
サクラが続ける。
「逆にギスギスするのを加速する方向だと、本来嫌われるはずのPKを、やる人がいないからって強制的に組み込もうとするのとか困るよなあ。例えば、PKのポイント数でトップのプレイヤーが、全体イベントで重要な役割になる為の条件、とか」
ユウタも言う。
「ストーリーとか、転職とか、プレイヤーが必ず訪れる必要があるマップが、PK推奨地域に設定されてて、仕方なく入ったプレイヤーがPKされるとか悲しいゲームもありましたね。みなさん、『PKしないで下さい』とか書かれた看板を持ってマップに入ってました。狙われましたが」
あるある。『PKしないで下さい』って看板持って走るPKKとかも出たなあ。
「PK数でイベントで重要な役割・・・例えば、カルマ値が高くなる行為をしたプレイヤーが高評価とかかにゃあ」
トキがうんうん頷く。
「高額レア・・・イベント限定装備とか、URがたくさんドロップ、とか」
サクラが言う。俺が訂正する。
「たくさん出る必要もないかな。むしろ、最高レアをぶら下げる方が効果が高い。つまり、稀、1/1000くらいでLRが出る可能性がある小箱、1/100くらいでURが出る、とか告知するだけで、結構みんなの目の色は変わると思う」
「平行して、別種のモンスターからそこそこドロップするアイテムを集めて、みんな幸せとかいうイベント開催、赤い方は個人報酬が高く、緑の方は全体イベント用、同じマップに出るとかやるといやらしいですね」
エレノアが言う。
「な、何でみんな酷いイベントの内容考えてるの?!」
レイが驚いて言う。つい。
「まああれだ・・・レイにも、イベントの雰囲気は伝わったかと思う。全体イベントは無理でも、ユーザーイベントなら何とかなるんじゃないかな。特定の目印アイテムを作って、隠して、探した数を競う、とか」
きっと楽しい。
「・・・うん、そうだね!」
レイがぱーっと明るくなる。
「私も、知り合いに相談してみるにゃあ」
トキに、
「私も、友人に聞いてみますね」
ユウタが言う。
「何ならうちで主催する方法もあるが・・・ますたぁは目立つの好きじゃなさそうだしなあ」
商品の提供くらいなら協力してもいいのだけど。
「そろそろいい時間だし、そろそろ解散して寝ようか」
俺が言うと、
「随分話し込みましたね」
ユウタもにこにこして言う。
「途中話がぐだっとしてたけどな、そういうのも楽しいぜ!」
サクラが言う。
「色々話して楽しかったです。またやりたいですね」
エレノア。
「イベントやりたいーーー!」
レイ。
「お酒も美味しかったにゃああ!」
トキ。
「それではみんな、おやすみー」
みんなで、『パー』エモを出し、別れた。
次の日の告知。
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バージョンアップのお知らせ
・一部、PK可能エリアを設定しました。
このエリア内では、PKを行っても、カルマ値が上昇しません。
代わりに、ヒールランキングが上昇し、集計期間毎にランキング上位者に景品があります。
また、デスペナルティは1日固定(カルマ値0と同じ)となります。
・対人に有利な職を実装します。
対モンスターの戦闘では他職に劣りますが、対人では有利に戦えるスキルを覚えます。
イベント開催のお知らせ
ラッキークッキーコレクター
・一部エリアで、緑と赤のプレゼントボックスが出現します。
・緑のプレゼントボックスからは、高確率で精霊のクッキーがドロップします。
精霊のクッキーは、各街に配置された専用NPCに渡してあげて下さい。
全プレイヤーの集めた合計数に応じ、全プレイヤーに素敵なプレゼントを配布します。
・赤のプレゼントボックスからは、低確率で精霊の箱がドロップします。
精霊の箱からは、やや高い確率でURの武具が、極稀にLRの武具が出現します。
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うん、メイド様が熱心にメモをとってたのは、正直気づいてた。




