成長する悪意
警備ロボットがこちらに向かってくる。強くはない。遠距離攻撃で近づけさせず、沈黙させる。前エレノアと行った遺跡もそうだったが、経験値が入らないし、アイテムもドロップしない。
割れたガラスのケースが無数に有り、緑色の塊が底にへばり付いている。
《何だろう?》
レイがきょとんとして言う。
《さっきの話が史実なら、魔物を作ってたのかな?で、暴走?して出ていった》
サクラが言う。
《どんな魔物だったんだろー?》
レイが言うと、
《端末が有ればデータ採取したいですね》
エレノアが周囲をサーチしつつ言う。
《にゃあ、何かレバーあるにゃあ》
トキがレバーを引くと、隔壁が上がり、1階で見た本の魔物やマジックゴーレムがひしめいていた。俺、エレノア、が反応し、出て来る前に殲滅する。経験値、ドロップ、共になし。
《にゃ・・・びっくりしたにゃあ》
トキが言うと、
《トキさん、信じられないよ!》
レイ。
《あれだけ危険性強調してたのに、何をしてるのですか?》
ユウタ。
《みんなますたぁが危険性確認してから動いてるんだぜ?》
サクラ。
《トキさん、気を付けて下さい》
エレノア。
《にゃ、にゃんで私が軽率みたいな雰囲気になってるにゃあああ?!》
トキが叫ぶ。いや、軽率だから。
《トキ、悪いが大人しくしててくれ》
《ううう・・・》
レイが切り出す。
《でもさっきの敵、1階で見たやつだね!》
《ですね。神は造られていた魔物をベースに使われたのでしょう》
エレノアが頷く。
《トキさんのおかげで謎の解明に近づけましたね》
ユウタの謎フォロー。
《そ、そうだにゃ。虎穴に入らずんば虎児を得ず、にゃああ》
効果は抜群のようだ。
《レバー近くの隔壁の向こうから、魔物の気配がある・・・と言っても、システム的に知覚できる、一般的な魔物の反応ではないが。マナの乱れや、気配として感じる。恐らく、当時暴走した魔物を閉じ込めたのだろう》
みんなの方を向き、言う。
《あそこにある扉の奥、恐らく階段だ。気を付けて進むぞ》
みんな『グー』エモを出す。
次の階層は、通路と部屋。所々ゲートが閉じている。都度、エレノアが解除する。時間が経ちすぎたのか、再現が不完全だったのか、防衛システムは生きていない。出来ればダンジョン化して、サイバーなダンジョンを冒険してみたい。今度月花に言ってみるかな。
特に何事もなく、地下3階層に降りる。最下層だろうか、中央に機械が眠っている。制御端末から情報を吸い出すエレノア。
《良いなあ、可愛いなあ》
レイが羨ましがる。サクラがエレノアと何か話している。トキは、中央の機械に走り寄ったりはしない。先程ので懲りたのだろう。
ユウタはくーっとノビをしている。
突如、エレノアとサクラが呻く。
《どうした?》
問いかけると、エレノアとサクラがこちらに来て、切り出した。
《これは・・・困ったことになりました。この中央の機械ですが、自滅機構のようになっています》
《どういう事だ?》
《マナをエネルギーとして変換、吸収し、自己進化を続け・・・神に届くようにと作られたようです。地下1階のエネルギーも、ここに流れ込んでいるようですね。ところが、制御機構のあたりは発達せず、または退化し、防御力と攻撃力だけ進化を続けているようです。このままでは、遠くない未来、ここを飛び立ち、地上に出ます》
《停止は出来ないのか?》
《その機能は失われたようです。地下1階のエネルギー施設を壊しても、マナを直接変換するユニットを獲得しているようですね》
サクラが引き継ぐ。
《現時点でも、強力なマナ吸収フィールド、魔力をエネルギーに変換して自分を強化してしまう。物理攻撃も、次元をずらして軽減、無効化するらしい。攻撃としては、レールガン、レーザー、ミサイルに加え、マナを圧縮して撃ち出すマナブラスター等。小型ユニット生産能力もあるようだ。厄介だな》
何か強そう。
《施設を爆破すれば先延ばしにはなっても、いつかは出てきそうです。出来れば今破壊したいところ・・・》
エレノア。
《敵も無制限に動けるわけじゃない。まず地下1階とのリンクを断った後、攻撃。バリアを上回る魔法か、理想は物理攻撃。コアは内側なので特に弱点はない。敵の攻撃は強力だけど、消費もでかいはず》
サクラ。
《つまり、吸収されないように気をつけながら戦い続ければ勝機は有りそうだな。・・・よしみんな、行くぞ!》
ユウタがバフを配り終えるのを待って、月弓で繋がっていた管を射抜く。青緑の光をこぼしながら、管が外れる。機械の目に黄色い光がともり、無数の銃口が伸びる。飛び出す無数の光条。ユウタの魔法結界が光を防ぐ。
《壁や天井を崩されないように注意しろ》
俺はそう言うと、無数の矢を放つ。全て跳ね返る。これでいい。次元シールドを使い続ければ、エネルギーを消費する。
サクラ、レイが斬り込む。サクラは正宗で攻撃、弾かれるが、斬り続ける。レイは、普段のオーラを纏う攻撃が使えないので、メイスを振り回している。敵の銃口からレーザーが飛び、手や、腕が貫かれるが、ユウタの回復が飛び瞬時に癒やす。
トキは攻撃を躱しつつ、カタナで斬りつけて回っている。エレノアは、魔力を込めていない純粋な炎、熱線、氷塊、鉄塊を電磁力で飛ばす、電撃、といった物を放っている。本来は、炎に魔力を込める事で、熱を伝えやすくしたり、消えにくくしたりするのだけど。その逆だ。
俺は、惜しみなく、ミスリルの矢を月弓で撃ち出す。これも魔力を込められないので、劇的な威力は出ない。それでも、かなりの威力はあるはずだ。
コゥッ
波動砲、躱す。躱せるから良い物の、当たるとかなり致命的な威力だろう。
シュシュシュッ
電磁力で撃ち出された円盤、レールガンが飛ぶ。相当な早さだ。エレノアが撃ち抜かれるが、ユウタの魔法が癒す。だが、一瞬詠唱が途切れたようだ。続いてユウタを集中砲火。
ガガガガッ
エレノアが展開したバリアが、レールガンを弾く。
俺は武器を混沌の剣[大槌]に変更。上部に回り込んで、ひたすら叩く。
《敵のエネルギー残量低下、戦闘開始時の半分です》
エレノアが叫ぶ。経過は順調だ。ユウタが回復に加え、気力、魔力の回復バフ、ステータス増加バフを配っているので、継続して戦えている・・・疲労は少しずつ蓄積しているが。
ガガガガッ
敵の攻撃が徐々に激しくなる。・・・なんか壁が、天井が、危ないような。頑丈な造りのようだが、破壊不可でない以上、着実に崩れかけている。崩れてしまって埋まってしまったら、着実に成長されてしまう・・・神は何でこいつを再生したんだ。もしくは、元この世界があって、その上にゲームを被せた可能性もある。
違和感、恐怖、危機感。無意識に距離を取る。
コオオオオオオオオオオッ
敵が暗い光を発し、何かが吸い取られる・・・酸素・・・?違う、マナを吸い取っている。気力と魔力を吸い取られて、ひざをつく仲間達。こちらは距離をとったおかげで半分くらいで済んだが・・・
魔力回復ポットを飲めば良いが、敵が大型の攻撃を溜めている。気力と魔力が尽きた為、上手く動けないようだ。何とか距離をとろうとする一同。く。
〈力を貸しましょうか?シルビア〉
月精霊が話しかけてくる。
〈ああ、貸せるだけ貸して欲しい〉
月精霊が厳かに言う。
〈ならば私の真名を解放してみせよ。見事私の真名を明らかにする事ができれば、力を貸しましょう。あ、格好良い口上と一緒じゃなければ協力しませんよ〉
ええ・・・ちなみに、何故かこの間、一瞬の出来事。ヒントはほとんどないので、とりあえず知ってる月の女神の名前でも。
「御名奪われし月の女神、アルテミスよ、我シルビアが希う。我に力を貸し給え!」
「名前を呼ぶのに確信がないし、言葉の選び方、並べ方も雑・・・10点かなあ・・・」
溜息をつくアルテミス。言われてもなあ。
アルテミスが矢をつがえた俺の手に、手を重ねる。力が流れ込んでくる。
「ルナティック・キャノン!!」
ゴウッ
光の奔流が、敵を貫く。このあたりでようやく時間が動き出す。
流石に敵に隙ができ、その間にみんな距離を取りつつ、気力、魔力を回復した。一度集まり、ユウタがバフをかける。敵がこちらを向いて一斉射出を・・・
「ルナティックレイ!!」
シュゥッ
収束した月光を放つ。砲台を貫き、千切れた砲台が地面に落ちる。圧縮した方ならいけるな。敵のバリアも弱まっている気がする。
《バリアが大分弱っているはず。今なら強め、固めの魔力なら吸収されないと思う》
エレノアがレインボーレーザーを放ち、敵を貫く。レイがオーラを纏った蹴りで、敵の脚を切り落とす。サクラが呪力を纏わせて斬りつける。よし、ダメージが入り始めた。
「アルテミス、力を貸せ!」
〈雑?!〉
いいつつ、力を貸してくれるアルテミス。
狙う、相手のコアは・・・力の流れから感じ取る・・・そこ!
「ルナティック・キャノン!」
光が、敵の胴体を貫き・・・
ジジジジ・・・・
敵が動きを停止する。
《凄い・・・倒しました!》
エレノアが歓喜の声を上げる。
《ますたぁ、今の何?凄い凄い》
レイが駆け寄ってくる。
《そういう武器だ》
答えておく。
エレノアとサクラが残骸に近寄り、機能停止させて行く。後で聞いたところ、サブコアが幾つもあって、ほっとくと再生するらしい。エレノアがデータを吸い上げている。データ利用するのはいいけど、暴走させるなよ?
《みんな、お疲れ様。実入りのない闘いではあったが、とにかく勝利だ。崩れると危ない、早く脱出しよう》
《分かりました。ポータルを出しますね》
エレノアが集まって下さいーと呼びかける。みんなが集まると、ポータルを出す。やれやれ何とかなった。後で月花に聞いてみよう。




