月下夜話3
「私の話は、結構ギルドチャットで話してたし、聞いてる人も多いと思う。なので、新しい話は特に出来ないのだけど・・・整理も兼ねて話すよ」
新しく運ばれてきたケーキも、非常に美味しい。この世の物とは思えない・・・多分この世の物じゃないんだろうなあ。
「武器屋に保管されていた呪われた刀、正宗」
サクラがすっと、正宗をテーブルの上に置く。
「武器屋の親父がそれを陰干しする為に出した際、プレイヤーの1人がそれを見つけ、売るように強要した。親父は、その刀の危険性が分かっていたから、それを断った。・・・そして、その悪質プレイヤーが、武器屋から正宗を盗み出した」
正宗を抜くと、禍々しい妖気が漂う。
「正宗には、装備すると呪われる旨書いてあったのだが・・・そのプレイヤーは抜いてしまい、刀に取り憑かれた」
「補足すると、この時点で、リアルのプレイヤーは意識を失っていたらしい」
補足しておく。
「それで、私がその悪質プレイヤーを倒し、刀から解放した、と。で、親父が私に正宗をくれたので、今愛用しているって訳だ」
「そのプレイヤーが意識不明になった、事から、このゲームがデスゲームになる可能性が浮上し、調査していたのです」
ちょっと涙目になりながら、トキが口を挟む。
「でも、何でサクラさんはその正宗を持っても大丈夫なんですか?」
エレノアが聞くと、サクラが答える。
「ああ、それは私のスキル、タワーのせいだな。精神系の影響を完全に無効化するらしい」
「悪質プレイヤーと戦ってるときに相手が怯んだのも、スキルの効果か?」
「うん。威圧の効果が跳ね上がったり、対峙した相手のステータスを下げる効果があるみたいだな」
普通に強いじゃないか。
「タイマンなら強い感じなんだね!」
いいなーといった感じでレイが言う。
「残念。その刀にも興味があったのですが、私は触らない方が良さそうですね」
エレノアが言う。
レイがはいはーいと手を挙げ、
「じゃあ、次は私だね!」
んーっと、と思い出すような仕草をしながら。
「意識不明者が出た、って事で、騒ぎになってて・・・六英雄とか、トキが頑張って調査してた件だね!マスターが、話を聞いて、六英雄の1人、アーサーさんに話に行ったんだ。特に心配はいらないから、調査中止してねって」
「うーむ、トキが大変な目に遭ってたのは、私の事件が関与してたのか」
「サクラは悪くないしむしろ解決した側だからね!あの男が悪い!」
レイが『怒り』エモを出す。
「で、アーサーさんは捜査中止に賛成してくれたんだけど、騎士団全部を動かすのは難しくて・・・で、最終的には拳で決着を着けようって事になって、私が勝って騎士団が捜査を中止する事になりました」
うんうん、とレイが頷く。
「あの騎士団長と話してるとき、時々妙な印象を受ける言葉があったけど・・・あれもスキルか?」
「そうだね、言葉を相手に強く意識させる感じで・・・そう強い効果ではないけど、本人が信じたい内容を信じやすくする、程度だね」
微妙だよねー、という顔で頷く。いや多分、凄い使い勝手いいぞ。
「時系列的には、最後が私ですね。またサクラさんが倒した男が出てきました」
ユウタが話し出す。
「男が、この世界の皆さんに迷惑をかけていて・・・注意しても、所詮ゲームだろ、と言って聞かなくて・・・この世界の皆さんも生活があるし、プレイヤーの向こうには人がいるのに・・・」
ユウタはため息をつくと、
「迷惑プレイヤーは、例え殺されてもセーブポイントから復活するだけだし。牢屋に閉じ込めても自害で逃げるし。そもそもずっと捕まえておく訳にもいかないし。ログアウトすればそれで終わりだし。仮にアカウント剥奪されても、また新しくアカウント作って同じ事する、と」
腕を組みつつ。
「で、脱走して、PK集団と組んで、この世界の皆さんやプレイヤーを傷つけて・・・かなりカルマが溜まった状態で、アーサーさんに捕まりました。アーサーさん、カゲさん、と一緒に話していたら・・・突如そのプレイヤーがログアウト、そのままアカウント剥奪されていて、ログインできなくなってたようです」
「最後は何があったんだ?」
サクラが聞く。
「さあ、そこは分からなかったのですよね」
ユウタが答える。
「俺がスキル、ジャッジメント、でGMコールしたら、そのままBANされたみたいだな」
「えっ」
トキが呻く。
「ああ、マスターでしたかあ」
納得するユウタ。一同。
「えっ、何それ何それ、というかスキル2つあるの??」
トキがガタッと立ち上がってこっちに来ると、がくがく揺らす。揺らすな。
「2つじゃないぞ」
「えと・・・でも・・・ハーミットもあるから・・・ハーミットはない・・・?」
「ハーミット、フール、ジャッジメント、で3つだな」
「ええええええ?!!」
涙目になりながら揺らしてくる。ど、どうした?
「落ち着きなさい、ポンコツ猫もどき」
月花がぽこん、とトキにチョップする。




