月下夜話1
月夜の海岸亭。奥の店舗に控えるメイド、机の近くで待機する月花。そして円卓を囲うように座る、俺、レイ、ユウタ、トキ、エレノア、サクラ。夜、海岸と言う組み合わせだが、気候は快適な温度だ。ちなみに、気温、湿度は変更可能らしい。
メイドからケーキと飲料を受け取り、月花が順に運んでいる。
俺が、ゆっくり切り出す。
「今日集まってもらったのは、みんなに情報を共有しておこうと思ったからだ。俺やトキと、このゲームの前身、その関係。また、最近起きた事件に関して」
トキが引き継ぐ。
「まずは私から話すよ。このゲームの秘密、に関して」
低く、はっきりした口調で言う。語尾もロールプレイを辞めている。
「もう25年程前になるかな。神、女神様が、地球の人類を滅ぼすか、判定する為の仕掛けを作ったんだ。それが、ゲーム、LJO、ラストジャッジメントオンライン」
「正確には、ただの試練ですね。滅ぼす前提ではないです。失敗しても別に滅ぼさないですし。霊長には定期的に試練を課す事にしているようです。勿論、失敗したら大打撃は受けますが」
月花が補足する。トキがピタッと止まる。半格好付け顔のまま。
「えと・・・えと・・・」
ふるふる、と首を振ると、
「神の試練として、LJOが作られました。プレイヤーは、最初は特殊なインターネットサイトからアクセスしたそうです。このゲームは、ゲーム内での死亡=リアルでの死亡、と言う厳しい物でした。魔王を倒す事がゲームの目的、と示されたわ。そこでみんなをまとめ上げ、知識を集約、体系立て、強くなる道筋を確立、したのが6勇者、と呼ばれた人達でした」
一拍置き、
「そして、この内、魔導王の妹がわたs」
「うまっ?!」
レイが突如叫ぶ。ケーキを口に入れ、思わず叫んだらしい。
「えと・・・えと・・・」
またフリーズ。
「あ、ごめんね!!」
レイがペコペコ謝る。気を取り直す為だろう。トキもケーキを口に運び、
「何これ美味しい?!!」
みんな食べてみる。確かに異常に美味しい。この世の物とは思えない程。
「えと・・・えと・・・」
最初の勢いや威厳は既になく、ちょっと涙目になってる。やべ、ちょっとぐだ可愛い。
「そう言う訳で、魔導王、妹、私、関係者」
言葉が不自由になってる。
「六勇者は、初代魔王を倒す事には成功するのだけど、その後で真魔王なる者が出てくるの・・・ここまでは良かったのですが」
一拍置き、
「ダレた偉いさん達が、結界に護られていた最初の街から出ないようになった。安全な場所から、ゲームのNPC、ゲームの中の人達、元住民に、色々我侭を言い始め・・・元住民達は、魔王討伐を引き合いに出され従うしかなく・・・」
「酷いですね」
「そんな・・・」
「酷えな・・・」
「それはちょっと・・・」
そんな事になってたのか。
「後は、そもそもゲームに選ばれた人でも回避するようになって・・・女神様が強制的にゲームさせる仕組みを作ったら、今度はその仕組みを回避する機械まで開発して」
「人類の危機、と言う状況なのに、力を合わせて立ち向かう、ではなく、自己の快楽を追求したり、自分だけ逃れようとしたり・・・そう言う状況に怒った女神様が、定期的に一定数選び強制的に転移させる方法に変更、かつ、最初の街の結界を解いてしまいました」
「人類を滅ぼす事が決定したのはこのあたりですね」
月花が補足する。
「確かに、それはお怒りになりそうですね・・・」
ユウタが青くなって言う。
「で、魔王の採った行動が・・・最初の街ヘの奇襲、しかも、呪力結界を構築してしまいました。結界の中の人、元住民も含め、文字通り溶けたそうです。魔王はその後、最初の街に拠点を移しました」
「あれは悲惨だった」
俺が苦々しく言う。
「奇襲により、六勇者、及び上位実力者の大半が、溶けました。また、その後、地球から人が追加されたのですが・・・召喚と同時に溶けました。一人残らず。残った人もどんどん数を減らし・・・たった7人が残るだけとなりました」
「六英雄、と、シルビアさんですね。で、シルビアさんの指揮の下、魔王が倒され、ゲームクリア。人類は救われたそうです・・・最後の辺り、あまり聞けてないのですよね。ただ六英雄が口を揃えて言うのは、魔王が倒せたのも、その後の処理でも、シルビアさんの貢献が大きく、他の人はほぼ何もしてないに等しいとか」
えー。
「実に人類の三分の二が、このLJOで命を落としたそうです。この事実、記録に残すかはもめているようですね」
「マスター、やっぱり凄い人だったんですね!」
「微妙に事実含まれてるから否定し辛いって言う」
「まあこれがこのゲームの前のゲームの歴史。今回のゲームがデスゲームにならないか、六英雄と私、及びその仲間達、で調査をしています。今回のゲームも、通常では考えられない仕組みが有るので、女神様が関与してるのは間違い無いと考えています」




