ユウタ2
教会に着く。聖王はいなかった。NPCの神父からあっさりクエストを受領する。向かう先は墓地。
《プリーストっぽいダンジョンですね。罠が多く、プリーストのソロは厳しいと聞いています・・・頑張ろう》
《適正レベル70前後のクエストなので、ユウタ殿なら余裕でござるよ〜。多分、罠に引っかかっても、無視して進めるくらいでござる》
そーなのかー。
《ん、そこ隠し扉だな、ショートカット出来そうだ》
壁を調べると壁の一部が天井に上がり、階段が現れた。
《・・・相変わらずシルビア殿は凄いでござるな。私には見つけられなかったでござる。聞いたこともなかった》
《早く進めますね、ありがとうございます》
次の階。扉があるが鍵が掛かっている。右に道があり、広間に続いている。広間には墓石。恐らく、鍵を探せって事だろう。
扉に近づくと、解錠を使って扉の鍵を外す。
《シルビア殿、そのイベント扉、普通は解錠出来ないでござるよ・・・》
カゲが呆れて言う。
《何だか異常にショートカットしてる気がします》
ユウタがポリポリ頭をかく。
3階。次はシンプルに通路を抜ける。アンデッドの群れと罠を避けつつ進むようだ。
《罠はあそこと、あそこと》
ユウタに場所を教えてやる。
《ありがとうございます》
1歩踏み出すユウタ。無数のアンデッドが壁から、地面から生まれ、迫る。
《ここは普通にやれば勝てない量の敵、どう対処するかも試験内容でござるよ》
《はい、そうですね・・・おやすみなさい》
最後の言葉をトリガーに魔法を発動。無数の聖なる光が間断なく飛び・・・10秒も経たず、全て浄化した。教えた通りの場所を歩き・・・出口に到達する。
《普通は倒せないのでござるが・・・流石シルビア殿の友人でござるな》
カゲが呆れて言う。俺は関係なかろうに。
《アンデッドは得意な職なので》
照れるユウタ。
祭壇に、聖遺物が置いてある。あれが目的の品だろう。ユウタがそっと聖遺物を手にした。
《では戻りましょうか》
《そうだな》
来た道を戻る。
《ありがとうございました》
ユウタがペコリ、とエモを出す。
《お疲れ様〜》
《お疲れ様でござるよ~》
後は教会に報告して・・・
《・・・あ・・・その》
立ち止まって何かやってたカゲが、青い顔でこっちを向き、言いにくそうに言う。
《申し訳ありません。こちら、と言うか騎士団、の不手際で、先程の男が逃げたそうです。自害を許してしまったらしく・・・》
更に困った顔になる。
《見つけたのですが、PKギルドと協力して暴れてたらしいです。プレイヤー数名と・・・NPCが数名犠牲に。内何人かはロストしたそうです》
《酷い・・・》
ユウタが青い顔をする。NPCの場合、時間が経ったり死体が酷ければ、ロストしてしまう。完全な死だ。蘇生魔法は万能ではない。プレイヤーはセーブポイントで再構成されるのだが・・・
《その逃亡した男だけは捕まえ、縛っていますが、どうしたものか・・・逃げた奴らも後日捕まえなければ》
《・・・許せないな》
人が嫌がるのが好き、そんな人種は存在する。排除出来ればいいが・・・運営、居るのだろうか?GMコールが欲しい。前のゲームなら、極端に恨みを買えば命を奪われたので抑止力にはなっていた。そもそも、ゲーム内で恨みを買って、の前に、リアルで捕まってたが。
逃亡した男は、アーサーが捕まえていた。その場に合流、アーサーをPTに誘う。男は猿ぐつわをしているので、喋れない。
《初めまして、ユウタです》
《俺はアーサーと言う。せっかく協力して貰ったのに、逃がしてしまってまことに申し訳なかった》
《いえ、大丈夫です。それにしても、釈放されたらまた同じ事しそうですよね・・・せめて牢屋システムでもあればいいのですが》
《牢屋システム?》
《はい、セーブポイントが牢屋に変更され、刑期が終えるまで出られなくなるような、そんなマップです》
《残念ながら、セーブポイントは、プレイヤー自身の選択でしか変えられないようになっている。そもそも、この世界を作った存在が、この男の行為を違反とも思っておらぬ。一応カルマ、は存在するのだがな》
《人個人の醜さ、には結構寛容なのですよね、あの方。種としての醜さ、種の存続に反する醜さ、と言った物には凄く敏感なのでござるが》
そうなんだよなあ。だからそもそも通報したとして、BANになるかも怪しい。出来るなら俺が裁いてやりたいところだが。
<固有スキル、ジャッジメントを取得しました>
・・・ん?
ジャッジメント
プレイヤーを指定し、GMに通報するコマンド、GMコールが使えるようになる。
オプションで、現実世界も同時に終わらせるかどうかを選択できる。
終わらせ方は、手早く行う方法と、罪を償わせる方法がある。
・・・何だこれ。あっさり書いてあるけど、後半部分かなり凄い事書いてある気がする。とりあえず使ってみよう。
GMコールを選択、目の前の男を指定、事由・・・ノーマナー行為、でいいのかな、オプションは使用しない。
シュッ
目の前の男が消えた。調査します、とかじゃないんだ。
《あれ、どうなりましたか?》
カゲが首を傾げる。
《消えた・・・ログアウトですかね?逃げられたのでしょうか・・・》
ユウタが言う。
《ログアウトか・・・何故このタイミングで・・・》
アーサーも首を傾げる。
《・・・今連絡が入りました。あの男、ログインできなくなったと騒いでいるようです。アカウントが・・・消えた?》
カゲが不思議そうに言う。うーむ。
《カゲ、アーサー、提案がある。六英雄から、情報を流して欲しい》
《どんな情報でござる?》
《お主の頼みなら勿論聞くが》
《うん、カルマが溜まりきった状態でPKされると、アカウントが剥奪される、と》
《なっ、それは誠か?!》
《何だと?!》
《そうなの?!》
いや、デマですよ。
《事実は関係ない。ただ、抑止力が必要なんだ。そんな話が広まれば、カルマを貯めると危険って話になるだろ?》
《なるほど・・・》
《分かったでござる》
2人は納得したようだ。早急に広める、と約束し、2人は立ち去った。
《色々な人がいます。私もまだまだ力が足りない。何時かはちゃんと説得できるようになりたいです》
《気負わない方がいいさ。色々な人が居る。相性もある》
苦い物が心に残る。今後、何度も人の追加があるだろう。こういった事はこれからもどんどん増える。
《さて、教会に報告に行こう。スキルを覚えなきゃ》
ユウタの肩を、軽く叩いた。




