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8.備えあれば憂いなし☆

☆がついているのは由梨江視点です。










 講堂で宮森と慧がヴァルプルギスと戦っているころの由梨江である。彼女は一人で、講堂の見える校舎の屋上に上って講堂内にいるヴァルプルギスを狙っていた。窓を破壊してしまっていることになるが、今更だ。

 狙撃銃を使った後方支援で、由梨江は慧と宮森をサポートするが、距離がある上に銃弾ではどうしても威力が弱い。銃弾に浄化能力を乗せることができないわけではないが、どうしても剣や槍よりも伝導率が落ちる。銃を使うくらいなら、弓矢を射たほうがましだ。

 それでも、由梨江は銃を使う。理由は単純で、彼女は弓矢が当たらないのである。そのため、後方支援に行くときは銃弾となる。


 慧や宮森が襲われそうになったら、さりげなく手助けする。普通の狙撃銃ではどこまで対抗できるか微妙であるが、ないよりはましなはずだ。

 何度目かの援護射撃を行ったとき、ふと背後に気配を感じた。由梨江は立ち上がりながら振り返り、自分の身を護るように狙撃銃を抱えた。その銃身が切り裂かれる。


「あー! ちょっとこれ、分解式の高いやつなのに……梢ちゃんに怒られちゃうじゃない!」


 と叫びながら由梨江は拳銃を取り出した。この狙撃銃もそうだが、拳銃も対ヴァルプルギス用に調整されたものだ。

 突然背後に現れた気配……つまり、ヴァルプルギスは銀色の鎧のようなものを纏っていた。日本式ではなく、西洋のものだ。プレートアーマーとでも言えばいいのだろうか。

 由梨江はためらいなく引き金を連続して引く。使い物にならない狙撃銃は捨てた。あとで回収しなければ。


「ちっ。やっぱり硬いな」


 ヴァルプルギスには通常弾頭は効かない。そのため、魔法弾頭をセットしているのだが、ヴァルプルギスには効かなかった。ヴァルプルギスを倒すには、浄化の力が必要だ。『エクエスの力』や『パラディンの力』など様々な呼び名があるが、日本では神通力と呼ばれることもある。

 この力の伝導率が良いのが、魔法精製の剣や槍など、直接ヴァルプルギスに触れる武器だと言われている。だから、討伐師には剣士や槍使いが多いのだ。

 銃や弓矢では、この伝導率がどうしても悪い。適正にもよるのだろうが、一般的に弓矢よりも銃の方が伝導率が悪いとされる。


「と、なると」


 多少へこむくらいでぴんぴんしているヴァルプルギスが大きく咢を開く。由梨江はそれを飛びのいて避け、回し蹴りを食らわせる。


「いったぁ! やっぱり硬いわ」


 涙目になりながら再確認。普通、ヴァルプルギスは一人で倒すようなものではないが、贅沢は言っていられない。援護は期待できない。


「使う場面はないと思ってたけど、備えあれば憂いなしってよく言うわ」


 と、由梨江は腰から二十センチほどの長さで手で握れるほどの筒のようなものを取り出した。よく見れば、それが何かの機械であることがわかるだろう。

 由梨江がそれを軽く振ると、白い光のようなものが機械の先から放出され、剣の形になった。持ち運びができる剣、神宮梢が開発したビーム・ブレードである。まだ試験段階なので、あまり数はない。これも実験記録としてあとで報告書にまとめることになるだろう。


「おらぁっ!」


 慧にそう評されたように、由梨江は頭がいいはずだが、戦い方は自分からつっこんでいくようなタイプである。自分から踏込み、攻勢に出る。振り下ろしたビーム・ブレードがヴァルプルギスの肩に食い込んだ。だが、それだけだった。

「うっわ。レーザーでも焼き切れないんだ……」

 と、由梨江はちょっと引き気味。ヴァルプルギスの拳が飛んできたので、後ろに飛びのいた。

「これ……ちょっとまずいかも!」

 さらにヴァルプルギスが拳を振るってきたので、由梨江は屋根の上を走って避けた。剣が欲しい。いや、持ってるけど。由梨江は急遽参戦したので魔法精製の剣を持っていなかった。

 左手の拳銃を放つ。駄目だ。やはりダメージが与えられない。とすると、やはりかろうじてダメージを与えられるビーム・ブレードで対応するしかないだろうか。


 ビーム・ブレードは持ち運びしやすく、一見便利な道具に見えるが、実は武器としてはとても扱いにくい。重量が柄の分しかなく、刀身が一メートルはあるのに、重さは一キロほどなのだ。

 そのため、振り回すとどこかに飛んでいくわ、勢い余って自分の体を傷つけるわと言う例が多数報告されている。飛んでいくに関しては手首に巻くひもなどをつけて固定できるが、そうやってぶら下がるようになると、今度は自分の足を切ってしまったりする。何とも難しい武器だ。

 今のところ、うまく扱えているのは由梨江を含めた数名だ。そのため、由梨江のところに検証実験が回ってきたしだいである。


 とにかく、自分を傷つけずに勝つ。それを目標に由梨江はヴァルプルギスに襲い掛かる。


 袈裟切りに斬り下ろすが、やはり切れない。由梨江は体を反転させてヴァルプルギスを蹴りつける。そのまま逆の足でとび蹴りだ。

「っく~! やっぱり硬いな」

 蹴った足が痛い。由梨江は足を軽くたたいてしびれをやり過ごし、少し考える。

 普通に切っても、切れない。なら、考えなければならない。ビーム・ブレードで切れば傷はできる。ならば、同じ一点を連続して攻撃すれば、そこは砕けるのではないだろうか。

 相手も動くヴァルプルギスだ。一転攻撃は難しい。しかし、ここでやらねば由梨江自身が危ない。そう言う思考が脳筋につながる。


 慧が『心配するだけ無駄』というくらいには、由梨江は強い。それはエクエスの力と言われる浄化能力もそうだが、何より、その剣技だろう。方針を決めた瞬間から、由梨江の動きが変わった。

 一点集中、攻め込むべし。身軽に屋根を蹴り、反転してヴァルプルギスの首のあたりを連続して攻撃していく。硬い皮膚にひびが入る。


「っし!」


 もうひと押し! と、ヴァルプルギスも危険であるのがわかっているのか、今度はけりが飛んできた。腕よりリーチが長いのでより大きく飛び退ることとなった。

 単純な身体能力だけではヴァルプルギスを倒せない。わかっていたことだが、ここにきて由梨江は攻撃に魔法を加えていく。

 ちなみに、この魔法と浄化能力は全くの別ものだと言われている。だから、魔法を仕えるが討伐師でない者もいるし、討伐師でも魔法が使えない者もいる。慧などが後者にあたるだろう。

 由梨江は足元に魔法陣を展開し、強く踏み込んだ。魔法による加速で勢いを増した剣戟がヴァルプルギスを襲う。もちろん、先ほどまで攻撃してきたところと同じところだ。


 小さいが、硬い皮膚が砕けた。間髪入れずに由梨江はヴァルプルギスの膝を思いっきりけり転ばせると、砕けたところに光の刃を突き立てる。じりじりと肉の焼けるにおいがする。

「いい加減……っ」

 腕が痛い。ビーム・ブレードでのヴァルプルギス討伐は難しいと報告しようと思った。どう考えてもエクエスの力の使用効率が悪すぎる。


 何とかとどめを刺した由梨江だが、力の使い過ぎで若干くらくらした。でも、壊した狙撃銃も回収しなければならない。

 とりあえず、目の前のヴァルプルギスを回収して、とヴァルプルギスの遺体を持ち上げていると、「由梨江さん!」と声がかかった。

「あ、高坂さん」

「……これ、由梨江さんが?」

 屋根に上ってきた高坂が言った。軽やかにやってきた彼だが、実は彼は討伐師としての能力を持ち合わせていない。

「まあねー。ちょっと手こずっちゃった」

「……ちょっとですむあなたはすごいと思いますよ」

 高坂と由梨江は結構長い付き合いだ。五年か、六年くらいだろうか。高坂も由梨江の性格と実力はわかっている。

「さすがですね。我々と違って、ヴァルプルギスとはそんなに遭遇しないでしょうに」

「まあ、そうだねー」

 由梨江が小首を傾げて笑った。


 壊した銃を回収し、ヴァルプルギスを高坂の術で一応拘束すると、講堂の中に入った。講堂の中は半壊していた。

「いや、お待たせしました」

「結構派手にやったねー」

 瓦礫を片づけている慧と宮森に高坂と由梨江が声をかけた。

「ゆり、ヴァルプルギスは?」

 慧に尋ねられ、由梨江は笑って答えた。

「倒したに決まってんだろ」

「彼女がヴァルプルギスの遺体を回収しているところに遭遇したので、一緒に来ました」

 高坂はどこまでも冷静である。

「宮森君。そのヴァルプルギスを運んできてください」

「わかりました」

 そして、上下関係もしっかりしている。さらに高坂が由梨江のことも送っていくと言うと、慧が死んだ顔になった。どうやら、彼も帰りたかったらしく、由梨江はおかしくて笑った。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ビーム・ブレードはスター○ォーズのライト○ーバー的なものと思っていただければ。いいですよね、ラ○トセーバー。


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