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3.呪詛のあるなし










 関たちはこのままNAOKIの護衛に入ってしまうが、いわゆる影の護衛である慧たちは四六時中引っ付いているつもりはない。何かあれば連絡してくれ、とだけ言伝て、ZSC本社に来ていた。


「それで、どうだったのかしら」


 吉野が机に頬杖をついて尋ねた。由梨江が代表して言った。この中では、由梨江が一番キャリアが長い。

「本人に不自然な点はなかったよ。ただ、様々な『不幸』があるのは確かだね」

 社長に対してすら由梨江はこの態度である。由梨江だから許されるのだが。

「つまり?」

「何かが取りついている、というよりは、誰かに呪われているんじゃないかと私は推測するね」

「うーん。なるほど」

 吉野が顎に指を当てて考える仕草をした。

「呪われているとしたら、下手人は誰かしら」

「さすがにそこまではわからないね。それこそ、巫女さんや陰陽師にでも聞いてみる?」

 ZSCには、巫女や陰陽師もいるのである。ちなみに。

「あなたの能力でも難しい?」

「特定はできるだろうけど、そこそこ時間がかかるね」

 そこでできると言うあたり、由梨江だ。吉野がうなずいた。

「わかったわ。では、引き続き三人で影ならが護衛して頂戴。三人が関わるのは、非現実的な現象だけよ。昌人君は初めてだから無理しないこと。いいわね」

「了解」

 三人とも異口同音に答えた。つまりは、この状況を継続ということだ。


 なんと言っても、『陰ながら守る』というのは難しい。しかも今回は先方に慧たちの存在は開かされていない。それでも、護衛契約を受けている以上、彼を護る義務がある。一応契約金ももらっているので。

「でも、NAOKIがわざわざ護衛を依頼したってことは、自分が狙われていると言う自覚があったってことだよね」

 昌人が社内を歩きながら慧と由梨江に尋ねた。慧がうなずく。

「だろうな。そうでなければ、空港警備員だけで済ますだろう」

 それが、空港を出た後もずっと護衛なのだ。狙われています、と言っているようなものである。別個に護衛を雇うと金がかかるのだ。

「まあ、そのあたりは関さんたちがぬかりなく調べてくれるだろうね」

 由梨江も苦笑して言った。関はベテランなので心配ないが、巧と麻友が心配である。そのあたりは信じるしかないけど。

「あ、じゃあ、僕も調べてみようか。もしかしたら熱狂的なファンが何かつかんでるかもしれない」

 昌人が手をあげて主張した。なるほど。

「あり得るな。頼めるか?」

「合点承知!」

 昌人が力強くうなずいた。ちょっと変な子であるが、確かに能力的には優秀だ。


 NAOKIたちは事務所に到着したようなので、慧たちはその事務所が見える喫茶店で異常がないか見守ることにした。やっていることがストーカーっぽいといつも思う。


「うーん……どうやらNAOKI宛てに脅迫文が送られていたらしいよ」


 喫茶店でノートパソコンを広げ、十分ほどで昌人が調べ上げた結果である。今回はクラッキングをしなかったらしい。


「まあ、警備を頼むてことは、そう言う可能性が高いよね。内容は?」


 相槌を打った由梨江がさらに掘り下げようと尋ねる。昌人はかけていた眼鏡を押し上げながら画面をスクロールし、うーん、とうなった。

「内容はわかってないみたい」

「そこまでは把握しきれていないと言うことか」

 慧はそう言いながらコーヒーを一口すすった。ミルクティーを飲んでいた由梨江が、「まあ、何となく予想はできるよね」と言いだす。

「……できるんだ?」

「まあ、ゆりだからな……」

 昌人の驚きと、全てが解決する『由梨江だから』を持ち出す慧である。由梨江は「私じゃなくてもできるよ」とミルクティーをかき混ぜていたスプーンを持ち上げる。


「……まあ、確かに本人宛の脅迫か、事務所あての脅迫か……ってところだな」


 慧もため息をつきつつ言う。昌人が「わお」と声を上げる。

「慧さんもすごいですよね~」

「いや、脅迫って言ったらそんなもんだろ……」

 ほかに誰を脅迫すると言うのか。

「それで、ゆりの見立ては?」

「おそらく、NAOKI自身に宛てた脅迫文だね。内容はお前に不幸が襲う、とかそれくらいの内容だろう」

「それくらいで警備を頼むか?」

「そうだね」

 由梨江は微笑むと言った。

「何も後ろ暗いことがなければ、ただの脅しと取るだろう」

「……」

 思わず、慧と昌人は目を見合わせた。昌人が由梨江に尋ねる。


「ゆりちゃん、調べたの?」


 すると、ケーキを食べようとフォークを手に持った由梨江は「いや?」と首を左右に振る。

「私は事前に社長に情報を開示された以上のことはわからないよ。まあ、脅迫があったのだろうとは思っていたけど、確証を得たのは今、昌人が調べてくれたからだし。脅されるとなれば、普通、何か後ろ暗いことがあるものだ」

「……ただの逆恨みとか」

「それこそ、芸能活動をしていればよくあることだろう? それしきのことで警備を厳重にしたりしないよ」

 そう言いながら由梨江がケーキをほおばる。幸せそうにケーキを食べる由梨江を見ながら、慧はため息をついた。

「さすがの洞察力だ」

「まあ、私の場合は能力がそう言う能力だからね」


 由梨江が持っている能力としては、念動力が主となるが、他にもいくつか附属能力がある。そのうち一つが超高度演算処理能力である。彼女はスーパーコンピューターもかくやという情報処理能力を持つのである。その能力により、小さな手がかりから多くのことを知ることができる。

 最も、これの能力は万能そうに見えるが、使用者に対する負荷が大きく、また発動条件も厳しい。今のは、単純に由梨江自身が持ちうる頭脳で導き出した答えの可能性が高い。

「たぶんだけど、NAOKIに恨みを持つ人間が、呪詛にでも手を出したか、それとも本職の呪術師に頼んだかはわからないけど、脅迫状が送られてきたときに一緒にその『呪い』が本当であると思いこまされたんじゃないかな。そこで、信用度ナンバーワンのZSCを選んで警備を依頼した、と私は見た」

「……まあ、ありうるな」

 とりあえず、事実確認はあとですればよいだろう。今は、今回のことに呪詛が関わっていると考えて行動すべきだ。


「はい、質問」


 昌人が手をあげたので、慧が「なんだ」と質問を動かす。

「僕は初めてだからよくわからないんだけど、呪詛が相手の時の問題点と注意点は何ですか」

「基本的に、呪詛と言うものは存在しない」

「最初からぶった切ってきたね!」

 慧が冷静に切り出すと、昌人が驚いたように声をあげた。それから首をかしげた。

「でも、ZSCには陰陽師さんもいるよね」

「ああ、いるな。だが、彼によると、現代には呪詛は存在しないとのことだ。彼もできないと言っていた」

 慧も詳しいことがわからないのだが、専門家と言ってもいい陰陽師がそう言うのであればそうなのだろうと思っている。

「ただ、俺達の能力を使って呪詛っぽく見せることは可能だ」

「そもそも、呪詛であると思い込ませることから始めるんだけどねぇ。人の思い込みってのはすごいよ」

 と、最初に呪詛だと言った張本人由梨江。ケーキ一つをぺろりと平らげた彼女はさらにモンブランに手を伸ばす。相変わらずの大食漢。


「うちでは遠隔操作による妨害阻害のことを『呪詛のよう』って言ってるけど、実際にはできないらしいからね~」

「……つまり、遠隔操作系の能力者が関わっていると」

「おそらくね」


 由梨江はそう言いつつ、モンブランも平らげた。そこで慧は待ったをかける。

「ちょっと待てゆり。晩飯が食えなくなる」

「ええー。食べれると思うけど」

「ちなみに今日の晩飯は」

「ハンバーグの予定」

「がっつりだね~」

 昌人がからからと笑った後、尋ねた。

「そう言えばなんでゆりちゃんは慧さんちに居候してんの?」

「家族がブルターニュに帰っちゃったからだよ」

 急なことだったので、由梨江が慧のアパートに転がり込んできたのだ。まあ、今のところ不便していないのでまあいいか、ということで今日まで来ている。

「一応、引っ越し先は探してるんだけどね~」

「だが最近、このままでもいいかなと思っている自分がいる」

「ああ、基本、ごはん私が作ってるからね」

 由梨江が納得したようにうなずいた。そうなのである。由梨江は意外と料理がうまいのだ。


「……二人って恋人同士なの?」

「違う」


 昌人の問いには二人同時に答えた。恋人同士では断じてない。昌人がカフェオレを飲んでふう、と息をつく。

「もう僕にはよくわからないよ……」

 慧たちにも良くわからないので、彼にわかったら逆にすごい。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


呪いだなんだと言っていますが、基本的に呪詛は存在しない設定。呪いをかけるにはまず、思い込ませることから始まります。


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