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17.続作戦会議









 一人で勝てないのなら、二人で相手をする。それは当然の判断であるが、慧には少し難しいのではないかと思われた。スティナはよくわからないが、由梨江の戦闘スタイルは周囲を巻き込むような戦い方なのである。二人で連携できるとは思えない。ほら、二人ともぽかんとしている。

「……う~ん。スティナさんってさ、対人戦苦手でしょ」

「何故わかる」

「私の勘は結構あたるんだぁ。ちなみに、イデオンさんは大切なものに注意」

「えっ」

 さりげなくそんな忠告をされたイデオンはドキッとした様子で肩を震わせた。

「ゆり。あまり怖がらせるな」

 慧がそう言うと、イデオンの妻であるスティナは「気にするな」としれっと言った。


「こいつのメンタルは鋼鉄だからな」

「前に形状記憶合金メンタルって言われたこともあるよ」


 へらっと笑ってイデオンが言った。それ、曲がっても元に戻るやつ。おれないやつ。どれだけメンタルが強いんだ……。


 そして、話を戻す。


「ゆりも、あまりチーム戦に向いているとは言えないな」

「まあね」

 慧の意見に由梨江は否定せず、肩をすくめた。行き詰る作戦会議。黙って聞いていたケヴィンが手を上げる。

「いっそ、力自体を封じちゃうってのは?」

「おそらく、エクエスの力を封じることは難しいですが……」

 高坂が顔をしかめる。ヴァルプルギスを閉じ込める結界などはあるが、あれは無差別で人間も閉じ込めてしまう。力だけを封じるのは難しいだろう。

「でも、エクエスの力と魔法ではシステムが違うって聞いたことあるけど」

「……確かにな。だが、魔法自体がほとんど残っていないんだ。難しい相談だろうな」

 スティナが言うと、ケヴィンも「確かに……」とうなだれる。いや、意見としてはまっとうで良かったと思うのだが。


「打開策が見られない……」


 由梨江がネガティブなことを言うので、とりあえず後頭部をはたいておいた。


「一番現実味があるのは、スティナちゃんとエイリーちゃんの共闘だよね」


 イデオンが苦笑気味に言った。由梨江が「ええ~」と嫌がる。

「それ、慧じゃダメ?」

「俺がスティナさんの動きについて行けるとは思えん」

「そっかぁ……」

 由梨江、納得した。ちょっとショックだったが、事実なので仕方がない。

「そもそも私は、エイリーが剣をもっているところを見たことがない」

「じゃあやっぱり、手合わせしてみる?」

 由梨江はスティナを見て言った。もしかしたら、由梨江はこのまま戦闘班に入るかもしれない。バランスが悪いので支援班に入れられたはずだが、その辺はいいのだろうか。


「そう言えば、エイリーちゃんの狙撃が防がれたってことは、セガワはスティナちゃんと話しながら、エイリーちゃんの接近にも気づいてたってことだよね」


 イデオンが指摘した。先ほどから思っていたが、彼は結構視点が鋭い。何気ない感じで重要な指摘をしてくるからドキッとする。


「それなら、知覚能力にも優れていると言うことですね……私でも移動中の由梨江さんの気配を捕らえられなかったのですが」


 完全に後方支援系の能力をもつ高坂は、知覚能力もある。条件が厳しく、このフェルダーレンの中から瀬川を見つけ出すことはできないが、特定の誰かを追跡することはできる。だが、由梨江を捕らえるのは難しいらしい。


「なら、捕らえようと思っても簡単に逃げられるな……」


 スティナがため息をついた。慧は由梨江を見る。

「ここまでの意見を聞いて、由梨江の見解は?」

 彼女の演算能力でもどうにもならなければお手上げだ。しかし、彼女の『直感』は傾聴に値する。聞いてみる価値はあると思った。


「え~。って言われてもな……。瀬川はたぶん、私より強いし、もしかしたらスティナさんより強いかも。私の印象では、知覚能力の中でも珍しい全方向性探査能力を持っているんだと思う。あれは処理能力がいるから、頭もいいんだろうね。それと、空間干渉能力だけど……おそらく、そんなに規模の大きなものじゃないね。人ひとり飲み込むことはできないと思うけど、あれは入口出口を自由に指定できるから、どこから攻撃が来るかわからない。以上、今のところ、瀬川を生きて捕らえることは不可能」


 殺す方法ならいくらかあるが、と言わんばかりの由梨江に戦慄を覚えるのは慧だけか?

「つまり、やっぱり一人でセガワに対抗することはできないんだね。知覚能力がある以上、狙撃するにしてもその干渉範囲から外れたところから撃たなければならない」

 簡潔なイデオンのまとめに、由梨江は「そう言うことですね」と苦笑した。それはほぼ不可能だ。

「知覚能力の干渉範囲もそんなに広くないと思うけど、確実に半径二キロはあると思う」

 由梨江は一キロ半ほど離れたところからスティナに迫っていったのだという。それで気づかれたのだから、二キロは干渉範囲があると考えたほうが良い。少なくとも由梨江は、そんなに離れたところから人の撃ちぬくことはできないだろう。

「イデオン、できるか?」

「不可能ではないけど、確率は七割くらいかな」

 というトゥーレソン夫婦の会話。七割なら相当なものだ。しかし、由梨江は首を左右に振る。


「可能性の問題だけど、放った銃弾が干渉範囲に触れた瞬間に感づかれて空間干渉される可能性がある。確実に仕留めたいなら、やっぱり接近戦をするべきだと思う」

「そっかぁ」


 イデオンが残念そうに言った。自分の限界に挑戦してみたかったのだろうか。確かに、干渉能力によっては遠距離攻撃は効かないだろう。自分が討伐師だからわかるが、やはり、討伐師は通常の人間より丈夫で、勘も良いことが多い。全員が、というわけではないが、比率が高いのは確かだ。

 何が言いたいかというと、討伐師に対抗するには討伐師を準備する必要があると言うことだ。こちらは討伐師五人、相手は一人。しかし、こういう時は情報量も関わってくる。こちらに情報が少なすぎるのだ。


「じゃあ、援護は役に立たないと思いますか」


 高坂が由梨江に尋ねた。由梨江が、問いかければ返答が返ってくる機械のようになっている。由梨江自身も、問われることでその問いに関する答えをはじき出している感じがあるので、これで良いのかもしれないが。


「……致命傷を与えることはできないね。だけど、力を使い続けさせる置いう意味では、処理能力に負荷をかけるわけだから、全く無駄ではないと思う」


 討伐師の力は無限ではない。使えば肉体が疲れる。体力と同じだ。多方面から瀬川を刺そうと言うことだ。

「ですが、イデオンさんに援護をしてもらうにしても、やはり接近戦要員としてスティナさんと、由梨江さんには前に出てもらう必要があるかと」

 高坂が言った。慧もそうだと思う。もちろん、剣士としては慧、ケヴィン、宮森もいるが、上から振り分ければ女性陣の方が強いだろう。……女性の方が強いと言うのもどうかという話だが。こればかりは本人の適正である。

 慧たちはどうしても予備になる。瀬川が日本で投獄された罪状は、自身の力でヴァルプルギスを操り、人間を大量虐殺した、とのことである。彼女には何かしら身体操作能力があると考えてよいだろう。

「……気のせいかもしれないが、今まであげたものがすべて瀬川に備わっているとしたら、能力の種類が多すぎないか?」

 討伐師は、いくつか魔法のような能力を持つ者も多いが、さすがに瀬川の能力の種類は多すぎる気がする。知覚能力に空間干渉能力、さらに操作能力があるとしたら、三つも力があることがある。

「確かに……でも、絶対ないってわけじゃないからね。もしかしたら、他人の能力を吸収、使用できる能力ってのがあるのかもしれないけど」

 由梨江がうんざり気味に言った。まあしかし、それは捕らえてしまえばどうでもよい話だ。今は、捕らえる、もしくは始末する方が先。

 どうしても後手に回ってしまうのが気にくわないが、先手を打とうとすると『スティナを使って釣ろう』という話になるのでどっちもどっちである。


 結局、作戦会議は何の進展もないまま終わった。








ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


さすがにそろそろスカンジナビア編も畳んでいこうと思います。


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