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15.土地勘がない











 長期戦になることは予想していたが、瀬川の足取りをつかむのに五日かかった。由梨江の言うように、フェルダーレンで何度か目撃されている様子。監査室にヴァルプルギスを発見するためのレーダーがあるが、討伐師はこれに引っかからない。

 結局、戦闘班が足で目撃のあった周辺を探すことになる。支援班は情報の整理と解析がメインになる。戦闘力の低い高坂とイデオンが心配だが、由梨江がいるので大丈夫だろうと思うことにする。

 戦闘力を均衡にするために、慧はケヴィンと、宮森はスティナと組むことになった。ケヴィンは由梨江と同い年らしい。そして、スティナの弟子だそうだ。こちらは慧が何となくスカンジナビア語を理解できるので会話が成り立っているが、宮森の方は大丈夫か気になる。慧もスティナと会話できる自信がない。


「こちらのことに巻き込んでしまって、悪いな」


 慧が一緒に歩きながらケヴィンに言うと、彼は「いいって別に」と笑う。

「まあ、俺が言うことじゃないけど。決めたのはスティナたちだし」

「そうか……」

「まあ、人間相手は苦手なんだけどな」

 ケヴィンたちは本職の討伐師だ。討伐師として登録されているだけという慧や由梨江とは違い、その戦闘のメインはヴァルプルギスとの戦闘になる。当然の反応と思われた。

 と、慧の携帯端末が鳴った。日本を出国する際、システムを変えて外国でも対応できるようになっている。一応、盗聴防止処理がされている高価な端末なのである。着信画面を見ると、由梨江である。やはり通信機を持ち歩くべきか?


「俺だ」

『あ、慧? 由梨江だけど』


 どこか押さえた声なのは、彼女がどこかの狙撃ポイントで待機しているからだろうか。


『今どこ?』


 慧は周囲を見渡し、通り名を発見したが、あいにくと彼はスカンジナビア語は話せるが読めなかった。

「ケヴィン、ここどこだ?」

「グランホルム街って言えばわかるよ」

「グランホルム街だそうだ」

 そう言って由梨江がわかるのかはよくわからないが、ケヴィンに言われたとおり伝えた。由梨江は『そう』と答える。

『ちょっと距離があるねー』

「何かあったのか?」

『いやね。私もちょっと距離があるんだけどさ。レディーン広場のあたりでスティナさんと宮森君が日系の女性と接触してんだよね』

「瀬川か?」

『ちょっと遠すぎてわかんない。ビルの屋上にいるんだけど、距離が二キロはあるもん』

 一応、由梨江も慧も瀬川を写真で見ているが、顔はいくらでも変えられるし、二キロも距離があれば由梨江がわからない、というのも無理ない話だろう。

「高坂さんたちは一緒か?」

『いや、ちょっと離れたところにいる』

 どうやら由梨江だけ別行動らしい。慧は「よし」とつぶやいた。


「レディーン広場に向かう。そのまま監視を続けてくれ」

『了解よろしく。あ、通話はつけっぱなしで』

「わかった」


 慧はとりあえず通話はオンにしたまま端末をポケットにしまうと、ケヴィンに言った。

「スティナさんたちがレディーン広場? ってところで日系人の女性と接触しているらしい」

「あ、じゃあそこに行けばいいのか。行こう」

 さすがにケヴィンも察しがよかった。土地勘がない慧をひきつれ、ケヴィンはちょうどやってきたバスに乗り込む。

「走っていくにはちょっと距離があるからな」

 というのがケヴィンの主張だった。場所がわからないので、慧もついて行くしかない。


 教会の近くのバス停でバスを降り、慧はケヴィンに続いて走る。ポケットに入れた端末から由梨江の声が聞こえたきがして、慧は端末を耳にあてた。

「どうした」

『スティナさんたちが異動中! 宮森君が置いて行かれたから回収して! 私はスティナさんを追うから、そっちは高坂さんたちと相談してね!』

 と彼女は一方的に言うと、通話を切った。慧が「おい!」と叫ぶが当然意味はない。慧は高坂の携帯端末をコールしながらケヴィンに言った。


「スティナさんが移動したそうだ。宮森が置いて行かれたから回収していく。それと、今、高坂さんと連絡を……」


 ちょうどつながった。『高坂ですが』と言う声が聞こえ、慧は高坂にまくしたてる。


「今、レディーン広場に向かっています。ゆりから話は聞きましたか」

『ええ、聞きました。私たちもそちらに向かっていますが……。おそらく、そちらの方が早いでしょうね』

 高坂がどこにいるのか気になったが、聞いてもわからないのでやめた。代わりに「どうします?」と尋ねたところで、レディーン広場に到着した。いや、慧にはここが本当にレディーン広場なのかわからないが、広場っぽいところにはついた。出店も出ている広場を見渡し、宮森を探す。この辺りでは珍しい東洋系の顔立ちはすぐに目についた。

「宮森と合流します」

 慧がそう言うと、高坂も『了解』と返す。

『そちらはそのままスティナさんたちと合流してください。状況は不明なので、合流出来次第、スティナさんの指示に従ってください。そのほか臨機応変に対応願います』

「……わかりました」

 それ、実質好きにしろと言うことでは、と思わないではなかったが、とりあえずは承知したことを伝える。高坂たちも由梨江と合流するようで、そのまま通話が切れた。とりあえず、スカンジナビア語でまくしたてるケヴィンの言葉を理解していない宮森に状況を説明しなければならない。

「宮森、スティナさんを追うぞ」

「あ、ああ……っていうか、スティナさん、瀬川らしき女について行ったんだけど」

「お前は置いて行かれたんだろ。ゆりが追いかけているから大丈夫だ」

 おそらく、由梨江が最初がスティナの元にたどり着くだろう。あの二人なら、何となく不安がないので落ち着いて現場に向かえばいい。

「高坂さんたちも向かっているそうだ。俺たちも行こう」

 と、宮森に言い、ケヴィンにも同じ内容を伝える。というかよく考えれば、宮森はブルターニュ語がわかるのだったか? なら初めから会話をすべてブルターニュ語にすればよかった。


 というか、スティナたちはどこに向かったのだろうか。発信機でもつけておくべきだった。この三人の男たちは、由梨江や高坂のように知覚能力を持ち合わせていないので、探すのは困難だ。とりあえず、宮森にスティナたちが向かった方向を教えてもらう。そちらの方向に向かった。由梨江の携帯端末をコールしたが、取られることなく切られた。

「ちっ。あいつ……」

 思わず悪態をつく。人の多い場所をすり抜けて走るのは、結構大変だ。しかし、何とか人通りの少ない裏路地に入る。

「この辺、荒廃地区なんだけど……」

「隠れて会うにはありきたりだな」

 ケヴィンからの情報に慧はそう返した。隠れて人に会うのなら、人の少ない場所を選びがちだ。しかし、それは逆に目立つ。人通りの少ないところに入ってくと言うのは、結構目につくのだ。だから、人と隠れて会うときは、あえて人の多いところを選んだ方がいい。というのは、社長秘書の西條の入れ知恵である。

 だが、暴れるのであれば人の目がない方がいい。だから、こう言う場所に入っていくのは仕方がない。


「ああああっ。裏路地なんて迷路だよ!」


 早口だったのでよくわからなかったが、こんなようなことをケヴィンがスカンジナビア語で言った。宮森は路地をのぞきまくってうろうろしている。不審者だが、ツッコミは入れなかった。

 不意に、乾いた音が耳をついた。三人が一斉に反応する。

「どこから聞こえた?」

「……こっち?」

 宮森が一つの路地を指しながら言った。ケヴィンが先導し、行こうと言った。彼について慧も宮森も走る。しばらく走ると、突然路地から出てきた影とぶつかりそうになった。というか、先頭を走っていたケヴィンは実際にぶつかっていた。しかし、こけたのは相手の方だった。

「あ、スティナだ」

「何してんだ、お前ら……」

 しりもちをついたスティナが手を伸ばすと、ケヴィンがその手を取って立ち上がらせた。スティナが尋ねる。

「こっちに日系人の女が来なかったか」

「いや、見てないけど」

「……おかしいな」

 スティナが首に手を当ててかしげる。こういう仕草が妙に格好いい女性だ。

「こっちに逃げてきたんですか?」

 慧が尋ねると、スティナがうなずく。

「ああ。どこかで屋根に上がったのか?」

 スティナがそう言って空を見上げたので、つられて慧たちも顔を上げる。すると、ちょうどそこに由梨江が飛び降りてきた。基本的に笑顔の由梨江だが、今回は渋い顔をしていた。

「ごめん。逃がした」

 ってことは、本当に上に行ったのか。

「エイリー、腕、大丈夫か?」

 スティナがエイリーの腕をとる。狙撃銃を担いだ右手に目が行きがちであるが、彼女の左手が血に染まっていた。

「大丈夫。ちょっと動かないけど」

 それは大丈夫じゃないやつだ。ツッコミを入れるのは後にして、由梨江ですら対抗できないとなれば、いよいよもってやばいのではないかと慧は思った。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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