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ありふれた日常のアルバム

SS.面影

作者: かるちぇ


目を覚ました時、枕が涙で濡れていた。


きっと、明け方に見た夢のせいだ。


彼女がいなくなってもう5年にもなるというのに、 夢の中の彼女は色褪せることなく昔のままの笑顔だった。


それはとても幸せな頃の記憶だったけれど、現実に は彼女がいないことが分かっていたから、だから幸せな夢を見ながら泣いてしまったのだろう。


カーテンの隙間から差し込む朝日に照らし出される 壁のカレンダー。今日の日付に印が付けてある。


まだ時間は早いというのに、窓越しに蝉の大合唱が 聞こえていて、またこの季節が来たんだと否応なしに思い知らされた。


あれから5度目の夏。


彼女と一緒に住んでいたこの部屋にはもう、彼女が居た痕跡はほとんど残っていない。


本好きだった彼女の本棚。蔵書には埃が積もっている。


読書は昔から好きじゃなかったから、そこはほとんど彼女がいなくなった時のままの状態で残されている。


あとは、小さな額縁に入った二人で撮った写真と彼女が愛用していた手鏡。


目に付く範囲内にある彼女の痕跡はそれだけだった。




時間はただ前にしか流れない。


全ての人の上に平等に残酷なまでに時間は流れていき、過去を一秒ごとに遠ざけていく。


身支度を終えた私が手鏡を覗き込むと、そこには彼女の顔があった。


否、彼女そっくりに成長した私の顔が映っている。


カレンダーに印がつけられている今日は、5年前に事故で急逝した5歳上の姉の命日。


私は、手鏡の中で寂しそうな微笑を浮かべている姉に話しかけた。


「お姉ちゃん、あたしは元気だよ。お姉ちゃんの分も頑張って生きてるよ」



  Fin.

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