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転生魔王の墜落詩  作者: 忍霧麒麟
鯨行の信徒
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34 Fearless Nacht

 チリンチリン、と鈴のなる音が聞こえて、俺は目を覚ました。

 ひどい頭痛に顔をしかめて、俺は波紋を立てる水面に目を落とす。


 暗い。

 いや、これは本当に暗いと言えるのかわからない。だが、周囲が真っ暗なように見えるのは確かだ。


(一体、何が起きやがった?)


 確かさっきまで、教室で授業を受けていた筈だ。あのお子様ナツメ先生は怒らせると怖いからな。


「にしても、ここはいったいどこだ?真っ暗で何も見えやしねえじゃねえか」


 訳のわからない現状に悪態をつきながら、俺は辺りを見回した。

 すると、遠く向こうの方で何かが光っているのを見つけた。


「オーブか?」


 オーブっつうと、幽霊とかそんな奴だよな?

 ……何でこんなとこに。

 いや、なぜは俺の方か。


 俺はそのオーブに向かって足を動かした。


 ジャバ、ジャバと水面が音を立てる。

 オーブに近づく度に推進が深くなっていく。


 水のように見えるものは、水面は感じられるものの、水中の抵抗感というものが一切感じられなかった。

 水面だけが薄く水の膜を張っていて、その下はまるで空気のような無抵抗感。

 だが、しかしそれは確かに水だ。

 制服のズボンが水を吸って重たくなっているのがわかる。


 どれくらい経った頃だろうか。一時間か、二時間か。いや、ひょっとするともっと長いかもしれない。

 それほどの時間を歩き続けて、俺はようやくそのオーブの手前までやって来た。


 その頃には水深は俺の胸下の辺りまで迫ってきていて、直に濡れているのがはっきりとわかる。

 冷たくも温くも、ましてや熱くもないんだが、水流があることはうっすらと理解できた。

 なんだか気味がわりぃ。


「っ……」


 オーブの光は眩しく、思ったより高いところに浮かんでいた。

 いや、俺が低いところにいるせいだろう。


 その眩しい明かりに目を細めながら、俺はそれを見つめた。


【所有者情報を提示できません】


 提示できないのか……。なら、仕方ない。閲覧できるものを提示しろ。


【authorityが不足しています】


「使えねぇ」


 アーカイヴスに悪態をつくと、俺は魔力で渦を作って空間を歪めた。

 膨大な量の魔力を使っているためか、少し体が怠い。

 ようやくそのオーブを魔法で誘導させることに成功すると、俺は乱暴にそれを引っ掴んだ。


「!?」


 その瞬間、頭の中に膨大な情報が入り込んできた。

 頭をかき回すような苦痛に耐えられず、俺は思わずそれを投げ捨てる。


「これは、他人の記憶か?」


 それに、なんだ。あの記憶は。

 白い髪に、赤い瞳のあの女……それに、あいつが言っていた、カミジという名前の男……。


 ……わかんねぇ。一体何がどうなってんだ!?



















 煙る会場。多くの敵が、観客席に雪崩れ込んだ。

 こうなることは予想してはいたんやけど、それよりも多くの魔王軍が乗り込んできた。

 学園の門には結界を張っておいたやけ、大丈夫かと思っとったやけど……。

 この有り様。


「──脱出を考える他はない。なら、ついでや。こちらも反撃を開始しよう。そう思って、次代候補のこん小僧を連れ去ってきたわけや」


 細長を着崩した九尾の妖狐は、そう言ってどっかと腰を下ろした。


「次代候補?」


「何、簡単な話よ。魔王が死ねば、次に魔族らを従える人材が必要。それに最適なのが、魔王の血を引いたその体というわけや。正直、わっちらにお前の意思を尊重する気はそほそろ無い」


 焚き火の電気ネズミを抜き取ると、やや乱暴に食い千切りこちらを視た。


「えーっと?つまり……」


 つまり、どういうこと?


「つまり、お前には選択肢は無いってことやね」


 面倒くさそうにそう告げて、さらにもう一本の串焼きを手に取る九尾。


 魔王をそれによって倒すことができて、城山を助け出すことができるなら、文句はないけど……。

 でもこれって、今から俺の人権なんてどうでもいい状態になったってこと……だよな?


「……」


 夜の森の静けさの中に、焚き火のはぜる音が妙に響く。


 俺の頭はもう混乱の直っただ中で、シーンの展開についていけない状態である。


 ……はぁ。ここは、もう諦めて魔王になるしかないよな?


 でも、なるんだったらそれなりに厳しい訓練?とかさせられるんだろうな。

 それで城山が救えるなら文句はないけど。


 俺は駿巡して、空を見上げた。


「わかったよ。どうせ選択肢がないならやってやる。魔王ってのを殺してやろうじゃないか」


 諦めたように言い放つと、リオンはまぁ、どっちにしろそうなるように仕組むんだけどね~、などとほざいていたが、聞かなかったことにしよう。


 九尾はそんな俺の様子を見て、何が面白いのか腹を抱えて笑っていた。

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