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転生魔王の墜落詩  作者: 忍霧麒麟
失楽園の王子
36/38

32 金眼の悪魔

「くそっ!」


 悪態をいて、俺はようやく現実逃避から目が覚める。


 ──パァン!ガキン!


 次弾がベンチの背に当たり、跳弾する音が耳に響く。


「な、何が起こってるデスか!?」


 外の喧騒にようやく脳が再起動したのか、マフユは口早にそう捲し立ててくる。


「知らんが、誰かが拳銃持って暴れだしたみたいだ」


「け、ケンジュウ!?……あれ、ケンジュウってナンデシタッケ?」


 思わず彼女のボケに吹き出しそうになるが、緊急事態なのでスルーしておくことにする。


 閑話休題。


 それにしても、狙いはエヴュラ……じゃないみたいだな……。となると、狙いはケイか?

 エヴュラが気づかれたとか何とか言っていた気がするが……。


 いや、考えるのは後だ。


 俺は、喧騒の隙間から、こちらに向かってコツコツと歩み寄る足音に気がついた。


 さて、どうする?いつもみたいにあの黒い奴でなんとかなるか?でも、失敗したらどうする?武器なんてないぞ……。ましてや、ケイを使う・・なんて、到底考えられない……。


 よし、プランは決まった!

 まずは黒い奴で拘束する!無理だったら二人を脇に抱えて全力疾走で逃げる!

 よし、これで行こう!

 これなら行けるはずだ!


「……」


 やっべ、怖くてチビりそう。

 今までは相手が魔物だったからそんなに怖くなかったけど、拳銃となると前世での怖いってイメージを引きずってるもんだから、どうしようもねぇなぁ。


 そんなことをしている間にも、足音はこちらへと迫ってくる。


(あーーっ!もう!どうにでもなれやい!)


 俺は震える足を無理矢理に動かして、姿勢を整える。

 そして、黒い奴を使って相手の背後から首に巻き付き、締め上げる!


「うぐっ!?」


 よっしゃ!手応えあり!

 危ないからついでに両手も拘束して、拳銃を取り上げる。


「ふぅ、なんとかなった……」


 俺はそう確信して、ベンチの陰から体を出した。


 ──バギン!


「!?」


 しかし、次の瞬間。

 俺は意識を失っていた。















 居た。あの男だ。


 俺は三列前の席に腰を掛ける金髪の男を確認すると、その懐から一丁の拳銃を取り出した。

 音に気づかれない様に、ゆっくりとハンマーを上げて、狙いを定める。


 ……あの男さえいなければ、魔王様の研究が阻害されることはない……。


「はぁ……。気づかれちまったか……」


 気づかれた?

 いや、そんな正か。

 このローブは気配を消すことはできないものの、姿を認識しづらくする効果が与えられた、あのエリアス・バグクラフトの魔道具だ。

 なぜ、気づかれた!?


「ちっ。くそったれ……!」


 狙っていた男の隣に座っていた、茶髪の男が、しゃがれた声でそう唸り、こちらへと急接近してくる。


「!」


 不味い、このままだと阻害される!


 俺はほぼ反射的に銃弾を放った。


 ──パァァン!


 つんざくような音がして、銃弾が弾け飛ぶ。


「何!?」


 弾けとんだ場所に、わずかながら魔力の反応が見てとれた。


(魔性磁力で斥力を作ったのか!?)


 それを確認したその直後、その音を合図にコロシアムの全出入り口を、俺の仲間が封鎖し、一部が突入を開始した。


 証拠を隠滅するためにあらかじめ用意しておいた掃討班だ。


 そんなことに気を散らしている間にも、もう既に俺は、彼の手の届く範囲内に入っていた。


「……っ!」


 男の手が閃いて、俺の体を吹き飛ばす。


「ぐっ……」


 頭を天井にぶつけたせいか、頬には赤黒い血液が滴り落ちている。


 くそっ。俺よりレベルが低いくせになぜ……!?


 そこでようやく、俺は周囲の状況をはっきりと、明確に理解することができた。


 ……空気が違う。

 それに、音も聞こえない。


 そこから導き出された結論が、現状の不利の理由と悟った。


「結界か!?」


「お~、よくわかったな?」

 

 飄々とした態度で、俺を見下ろす茶髪金眼の男。


 ……ん?あいつ、目の色あんな色だったか?

 いや、まてよ……。そもそもこの類いの結界が、レベル2程度の雑魚に張れるような代物か?


「……」


 男は俺の頭を引っ掴むと、同じ目線になるように上へと持ち上げた。


「……ふーん、こりゃ姐さんも懸念するわけだ。魔王のやつが何企んでるかは知ったこっちゃねぇが……。これも仕事なんでな。悪く思うな」


 そして、次の瞬間、騒音がもとに戻った。

 しかし、最初と違っていたことがひとつだけあった。


 それは──。



























「!?」
























 銃口をこちらへ向けた自分が、目の前に居るということだった。

失楽園の王子 終


次章 鯨行げいこうの信徒

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