28 もう二度と会いたくなかったのに
観客席に戻ると、対面する方向から、茶髪の背の高いイケメンが歩いてきた。
「お~!?神路くんじゃないか!あ、しまった。今はウィリアムだっけ。こっちの名前は呼び辛いね~?」
嗄れ声でこちらを呼ぶ彼に、あえて嫌そうな顔をしながら、俺は回れ右をしようと足を後ろに引いた。
「おい、待てよ。先輩に会ったら何か言うことあるだろうが?」
「今すぐどこかに行ってください。脳の血管が破裂しそうなので」
「それってもしかして、もう切れてるんじゃない?」
皮肉を皮肉で返すエヴュラ・バーンハルトを無視して、俺はスタスタと進行方向と真逆に足を向ける。
(何でここにこいつがいるんだよ!?)
大して知りたくもない疑問を心の中でシャウトしながら、俺はしつこく後をついてくる先輩に、耐えられないストレスをぶつけんと、渾身の突きを放った。
「──なぁっておわっ!?あ、あぶねぇだろ!レベル3の渾身の一撃食らったら、さすがに俺でも流しきれるか自信ねぇぞ!?」
レベルのことを知っている?
「……先輩、貴方は一体──」
何者なんだ?そう聞こうとした瞬間、彼はめざとくそこにあった空席を指差して言った。
「そろそろ次の試合始まるぜ?周りの観客の迷惑にならないように……元日本人ならマナーくらいわかるよな?」
こいつ、俺の正体を知っている!?
そういえば、今日あったときも、スラッと神路の名前を出していたような気がする。
(……こいつ、いったい何者なんだ?)
ニヤニヤと笑みを浮かべるエヴュラを睨みながら、俺は渋々と席についた。
「そろそろ次の試合が始まるぜ?周りの観客の迷惑にならないように……元日本人ならマナーくらいわかるよな?」
ニヤニヤと笑う茶髪の男性を睨み付けながら、まーくんは渋々と席についた。
(日本人ってナンデスかネ?)
図書館で読んでいた本には、そんな人種は居なかったハズデス。
いったい、このイケメンは……ハッ!?もしかシテ、まーくんのおにーサン!?
ど、どうしまショウ……、ショーライ、も、もしかしたラワタシのおにーサンになっちゃう……
そこまで考えて、ワタシはブルブルと頭をふりマシタ。
(だ、ダメデス……まだオツキアイもしてナイのに、そんなことゼッタイダメデス!)
ワタシは、気を紛らワスタメ二、舞台のホーヲ向きましタ。
舞台の上デハ、ハートフィリアサンが、ゴッツイオッサンと対峙していマス。
ムムム……ワタシ、コーいうの、ちょっとわかんないデス……。
そんなことを考えているト、不意にまーくんがコッチにすり寄ってきましタ。
(て、照れマスネェ……えへへ)
ワタシはなんだか嬉しくなっテ、ちょっと顔が緩んじゃいましタ。
以前、オッパイが大きくならナイ悩みを伝えたコトがアリマシタ。ソレから、まーくんは『セイホルモン』?ッテいうのをブンピツ?よくわからナイコトたくさん教えてくれましタ。
最初ハ、ちょっと怖かったデス。
デモ、ワタシの部屋で教鞭ヲとってクレタ時ハ、とってもかっこよかったデス。
マァ……ハジメは、チョッと痛かったデスケド。もう、アソコから血が出ちゃうと思ったデス。
デモ、まーくん、実はケッコー教えるのジョーズなんデス。
知れば知る歩ど、頭の中が気持ちよくなってクルんデス。
ソレからデスネ……。
ワタシが、まーくんにこんな気持ちをもったのハ。
……イエ、人間語の話デスケドネ?
ノーファは、人間語、あんまりワカンナイデスから。




