02 似非転生
──何かを打ち付けるような音がする。
聞き覚えがある。
これは、チョークで黒板に物を書く時の音だ。
木製の机の、ひんやりとする感触が、ほほを伝って目を覚まさせる。
「──で、あるからして、ここの回路はこっちに繋がる、というわけだ」
回路?
理科の授業でもしているのだろうか?
「はぁ……この男は全く……」
コツ、コツ、コツと、靴が床を打つ音が近づいてくる。
なんだろう、と、その音に俺は首を持ち上げた。
そこには、黒い長髪の幼女が、スーツ姿で出席簿らしきものを上に振り上げて立っていた。
「起きろ、惰眠!ここは寝るところではなく、授業を受ける場所だ。寝るなら寮に帰れ!」
そう言って、彼女はそれを俺の頭に叩きつけた。
──その瞬間、俺の中に膨大な情報が入り込んできた。
全クラスの生徒の名簿、教師の名前、時間割。
それら全てが一瞬にして脳内に叩き込まれ、一瞬にして記憶されていった。
──なんだ、今のは?
気のせい……だろうか。
「……すみません」
「わかればよろしい」
「……」
叩かれただけで、他に何もされなかった……よな?
っていうか、俺死んだんじゃなかったっけ?
……どうしてこんなところに居るんだ、俺?
とりあえず、俺は授業を受けることにした。
「ウィル!なぁ、ウィルって!」
背後からとんとんと肩を叩かれ、その名前が俺のことだと気づく。
「ん?」
振り返らずに、とりあえず目下のノートを見やりながら俺は答えた。
ノートには、生前ラノベとかで見てきた魔法陣や数式等がつらつらと描かれている。
「ナツメせんせーの授業で寝るって、お前度胸あるな。どうしたんだ?寝不足か?」
ナツメ……。あぁ、あの幼女、先生だったのか。
「ん、あぁ。そうかもな」
俺はそう適当に返して、ナツメ・クラハ先生の講義に耳を傾けた。
「──つまり、ここの魔力の循環公式は、A-(B×C)が成り立つわけだ」
……全く頭に入ってこない。
なんだよ、魔力の循環公式って。
俺はとりあえず、言われたことをメモして、後で読み返すことにした。
にしても、なんなんだろう。この気分は。
なんか、やっと、自分の居るべき場所に帰ってこれたって気がしてる様な……。
「では、ケイト。お喋りしているということは、さっきの公式が理解できたって考えでいいんだな?」
ナツメは俺の後ろの方へチョークを向けながら、彼女に言った。
「す、すみませんでした!」
「ったく。ウィリアムといいケイトといい……。お前ら、今日二人揃って居残り授業だ!」
うぅ……と項垂れるケイト。
「ドンマイ」
そう言うと、彼女は机に頭を伏せた。