01 死という考え方
落ちる。
墜落していく。
とても、とても高い塔の上から、背中越しに風を切って、僕は落ちる。
死を悲しみ、嘆く者がいる。
反対に、死を喜び、歌う者がいる。
人の感覚は、人それぞれだ。
例えば質問してみようか。
これから問う質問に対して、心を沈めて良く考えてほしい。
貴方は何らかの罪を犯し、刑務所へと放り込まれた。
丁度同じ時期に、異性でも同性でも、気の合う人が同じ独房へ放り込まれた。
貴方はその人と、親友ないしは家族のように思い慕える中になった。
何十年も共に暮らしてきて、互いの性格や、良いところ、悪いところ。癖や寝言なんかまで、お互いに笑い合える仲だ。
そんな友人が、数十年たったある時、刑務所から解放されることとなった。
ただし、それによって、あなたはもう二度とその人と会うことは許されない。今世に限らず来世までも。
絶対に出会うことは二度とない。
あなたはそんな友人の出処を喜びますか?嘆きますか?
……つまり、そういうことだ。
「城山……僕はきっと君を──」
声が風に掻き消され、塔の上に縛られた彼女には、もう僕の言葉は届かない。
彼女の悲しい視線が──赤い瞳が、僕の死を嘆いていた。
……いや、哀しんでいた。
──死んでしまうことを嘆くか喜ぶか。人によってはさまざまな意見が飛び交うことだろう。
例えば、大半の人は嘆く。だが、そう思っているのに、実はそうでなかったりする人もいる。
言うなら、何をどう思うかは、そのときにならなければわからないということだろう。
青くなった肌に、枯れた滴が伝っていく。
僕は落下を続けた。
未だに続くこの感覚は、正直息が詰まっているようで苦しい。
耳元を空気が掠めていく。
身体が塔の石の壁にぶつかって跳ねる。
気絶しそうな恐怖と、苦しい喉と、熱い痛み。
そんな中で、僕はふっと目を閉じた。
意識がこの世から遠退いていく感覚が全身を襲った。
やがて意識は暗闇へと吸い込まれていき、気絶する。
僕は、地面に激突する大ダメージを食らってしまう前に、意識を手放した。
そして、それから向こうの世界では、僕の脱け殻となった身体がぐちゃりと音を立てて、破散した。
僕は……俺は、墜落しながらそんなことを考え、やがて件の如く死亡した。