17 実は天然
魔働発熱立方体、と書かれていた、あの赤い立方体の使い方も、アーカイヴスの力でなんとかクリアした俺は、早速夕飯の準備に取りかかっていた。
「……」
それにしても、なんか寂しいな。
キッチンに響く、ぺったんぺったんぺったんという、一定のリズムで音をたてるハンバーグのタネを見ながら、俺はそんなことを考えていた。
今思えば、あの幽霊はもしかしたら、俺が寂しさのあまりに作り出してしまった、ただの幻影だったのかもしれない。
『世界っていうのはね?人の脳が作り出した幻影に過ぎないんだよ』
いつか城山が言っていた言葉だ。
今のこの状況を考えると、その言葉が形のまま身に染みてくるような感じがする。
「……結局、二人分作ってしまった」
ダイニングの机で湯気をたてる、二組のハンバーグ。
あの腹ペコ幽霊用に買ってきた、縁にピンクの線が描かれたシンプルなデザインの食器には、虚しさだけが乗っている。
「はぁ……」
ため息をこぼしながら、俺は席についた。
「いただきます」
「……いただきます」
一拍遅れて、女の子の幻聴か鼓膜を打った。
「……うぃる、これ、おいしい」
あまりの寂しさのあまり、幻聴が聞こえてくるって……。
俺、もしかしたらもうすぐ死ぬのかな?
「……うぃる。これ、なんていうの?」
「あぁ、これな。ハンバーグっつって、よく僕のお母さんが作ってくれたんだよ」
気でも触れたか。
ついには幻聴と対話までし始める始末だ。
ついでに一人称が前世のものに戻ってるぞ。
「……なんで、僕は、昨日一時間くらいしか会っていないキミのことを、翌日離れただけでこんなに悲しんでるんだろう?」
ふと、そう疑問に思った。
相手は幽霊だ。
幽霊なら、すぐにでも消えるだろう。
次にもまたいたら、それは逆に不自然ってものだ。
……なのに、なぜだ?
なぜ俺は、こんなにもあいつのことが放っておけない?
頭では理解しているというのに、心は否定し続けている、変な感覚だ。
感じたことのない感情だ。
「……うぃる?」
俺は、ぽとりと涙を落として、声のした方向へと首を向けた。
そこには、不思議そうに首をかしげている、あの腹ペコ幽霊の姿があった。
口元は俺のお手製ケチャップで汚れているが、紛れもなくあの幽霊だった。
「幻覚まで見るとは……。末我だな……」
そう言って、俺は自嘲した笑いをこぼす。
すると、幻影の中の幽霊は、ほほを膨らませるとこう言った。
「……うぃる。わたし、げんかくじゃない」
「じゃあ、触ったら触れられるのか?」
「……なにいってるの?ゆーれいだから、とおりぬけるに、きまってる」
……。
「……ねぇ、うぃる」
青い髪の彼女は、ナイフとフォークを奥と、こう言った。
「……うぃる、じつはてんねん?」
…………なんだろう。
俺、こいつのことぜんぜん知らないのに、お前だけには言われたくない!って思ったんだけど、何でだろう?
とっくに湯気の消えた食卓の上。
彼女はキョトンとした目つきで俺を訝しんでいた。