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転生魔王の墜落詩  作者: 忍霧麒麟
失楽園の王子
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16 アーカイヴス

「ただいま~……って、あれ?」


 買い物から帰ってくると、家には誰もいなかった。

 いや、まぁそれが至極当然の普通のことではあるのだが、今の俺の気分としては、なぜ?という感情が浮かび上がっていた。

 だってほら、幽霊が急に現れて、飯食わせたってシーンがアニメとかであったら、そこは普通、翌日家に帰ってくると、今回の場合だと──


『……うぃる、おそい。おなか、すいた』


──という感じで、あの腹ペコ幽霊が出迎えてくれる……だろ?


 え、何?それはいくらなんでも自分勝手な妄想過ぎる?

 まぁ、そこまで言われたらそれもそうなんだろうけど……。


(あいつ専用の食器、買ってきてやったのにな……)


 そういえば、今思い返して見れば、今朝もあいついなかった気がするな。

 ってか、あいつあいつって、そういえばあの幽霊、名前何ていうんだろう?

 ミーちゃんに聞けば教えてくれそうな気もするが、今はさすがにこんな時刻だしな……。


 ウィリアムは荷物をダイニングの机に下ろすと、肩をグリグリと回した。


 こんなことなら、マフユとホームパーティするってお誘い、断らなけりゃよかった。


 そんなことを思いながら、俺は食品や食器、調理道具などを整理し始める。

 そういや、今まで釜戸使ってなかったけど、このキューブどうやって動かすんだろうか。

 よくよく考えてみれば、あの照明に使ってるキューブの灯りも、今まで消してこなかったな……。


 どうしよう、これがもし膨大な電気代として加算されていたりしたら……。


(憂鬱だ……)


 再びため息を吐くウィリアム。


 さて、あれの使い方を調べないとな。


(どうやって調べようか?)


 まずはそれだ。

 ひょっとすれば、どこかに取り扱い説明書でも置いているかもしれないし。


 俺は、全てのアイテムを整理しおえると、一度伸びをして、取説探しを始めた。


 ──しかし。

 探しはじめて二分くらい経ってから、俺は己の愚鈍さにため息をつくこととなった。


「取説なくても、本体を頭にぶつければわかるんじゃね?」


 なにも、あの能力が書物オンリーにだけ働くとは考えにくい。

 あ、いや、こんなチート能力だから、制限がつく可能性とかを考慮してみれば、そんなことはないのだろうけれど。

 でも、よく考えてみれば、試さずに放っておくのももったいない気がする。

 もしこれで性能すれば、取説を探す時間を省略できるからな。


 俺はそう思い直すと、キッチンに戻って、その赤いキューブを手にとった。


 それは、まるで人間の肌のような感触をしていた。

 そして、それに付け加えるならば、そのキューブは柔らかく、そして温かかった。

 見た目が硬質なキューブに見えていただけに、その質感が気持ち悪い。


「おいこれ、この材料っていったいなんなんだよ!?」


 答える人のいない所に、俺はそれを掴みながら叫んだ。


 すると、突如その赤いキューブから薄紫色のウィンドウが開いた。


【魔働発熱立方体:主な材料;イフリータニウム】


「うわあぁあ!?な、なんだ急に!?」


 思わず俺は、キューブを釜戸の中に投げ捨てた。

 同時に、あの薄紫色のウィンドウも消えてなくなる。


「……もしかして、能力を使おうと意識した状態で質問したから、その結果、答えが表示された……のか?」


 もう一度、その仮説を確証するために、俺は能力を意識しながらそう呟いた。


【その通り】


 再び、目の前にウィンドウが開き、その文字列が現れた。


 な、なるほど。

 そういうことだったのか……。


 ちょっとキモいけど、それはなれればなんとかなるだろ。

 しかし、触れないで質問したことにも答えてくれたってのは、どういうわけだ?


「触れないで質問したのに発動した理由は?」


【実態がない、もしくは視界にその対象となりうるものが存在しない場合は、例外として発動することになっています】


 ふ、ふ~ん……。


「そうなんだ……。あ、じゃ、じゃあ、魔王について質問。魔王って何者なんだ?」


 すると、今度は一拍遅れてウィンドウが開いた。


【authorityが不足しています】


(……オーソリティー?)


 オーソリティーって、確か英語で権力ってことだよな?

 権力が不足しているってことは、つまり、俺にはこれについて調べるための権限がありませんってことだよな。


「オーソリティーって?」


【authority:アーカイヴスによる検索できる権力値のこと。この値は、レベルの上昇に伴い比例します】


 つまり、この世界にはゲームみたいにレベルが存在していて、それを上げることによって、このオーソリティーとやらの値を上げることができる、と。


(……なんか、だんだんと胡散臭くなってきたぞ……?)


 まあ、冒険者がいて魔物がいて魔法が存在していて魔王もいるわけだし、こういう異能力があっても別にいっか。

 楽できると思えば、それで別にいいし。


 それと、この能力アーカイヴスって名前だったんだな……。

 初めて知った。


「そういえば、レベルがあるって書いてたけど、具体的に俺は今レベルがいくつで、あとどれくらいレベルを上げれば、魔王について調べられるんだ?あと、レベルの上限は?」


【現在のレベル:1

 EXP:0

 NEXT:10000EXP

 魔王について調べることができるレベルまで、あとレベル99999】


 ……。


 どうやら未来は、果てしなく遠いようだ。







































 悪臭が鼻を突く。

 紫色の障気に侵された大地は腐り、陰の気で満ち溢れていた。

 そんな大地の上にある、とある集落に、レイジーは足を踏み入れていた。


(じゃ、始めますか……)


 片方に湾曲した両刃の剣『湾剣』を携えて、彼は集落の道を縫い歩く。

 その集落は基本的に獣人セリアンスロゥプたちが暮らしている。

 彼らはヒト族の奴隷に足枷や手枷をつけ、重労働を強いていた。

 ──そう。ここでは、持っている奴隷の数が多ければ多いほど、その者の地位が高くなるのだ。

 奴隷に働かせるものが多ければ多いほど、金は多く獲得できる、つまり裕福な暮らしになるということだ。


 ……そんな世界で、果たして彼が目立たず歩けるのか。


 普通ならそう思うかもしれない。

 だが、彼は常人ではない。


 ふと、彼がとある路地裏に入り込むと、そこにはいじめているのか、錆のない鉄製の鎧を着こんだ爬虫類型のセリアンスロゥプ──これはたぶん、亜龍人デミ・リザードマンだろう──が、一人の半獣半人の女の子を蹴り飛ばしていた。


「……まずはこいつから実験してみるか」


 ポツリ、と呟いた彼の言葉に、亜龍人デミ・リザードマンが反応した。


「お前、いつからそこに居た!?」


 叫ぶトカゲ男に、しかし彼は容赦なく剣を振るった。

 彼に技を使う価値などない。

 ただ技もなく適当に振っただけだった。


 だがしかし。


 レイジーの斬撃は、たやすくその硬い鱗を切り裂いて、首を切断した。


「!?」


 いじめていたもう一匹のトカゲ男は、それを見て剣を抜いた。

 彼の目には、もう女の子のことなど眼中になかった。


 紫色の体液が、トカゲ男の首から迸り、路地裏の壁を汚く染める。

 反射的に抜いていたもう一匹のトカゲ男の剣に血液が飛び散り、ジュッという音をたてる。

 どうやらあの血は酸性だったようだ。

 それも、かなり強めの。


「テメェ!よくもアムロを!」


 興奮して、剣を振りかざすトカゲ男。

 しかし、その反撃も虚しく空を切り、気がつけば視界が反転して地面に叩きつけられていた。


「くはっ!?」


 ヒトの頭蓋骨は、一キロほどの衝撃があれば、簡単に砕くことができる。

 だがしかし、このトカゲの場合は、鱗が緩衝材の役割を果たすため、そう易々とは死んでくれない。


 さっきして見せた針流の体術、『接点投げ』では、彼を戦闘不能にするには威力が足りなかった。


 しかし。


「っ!?」


 喉元に突きつけられた湾剣は、その鱗を易々と突き抜けることができた。


「一つ聞こうか。答えてくれれば、見逃してやってもいい」


「な、なんだ!?」


 怯えた風に喉をならすトカゲ。


「魔王はどこにいる?」


 ここまで裏口から入って、一直線に街道を突き抜けてきたが、未だ見るのは荒野のみ。

 最初にこの集落を見つけたはいいが、取り込まれる前の地形とは天と地ほどの違いがあるため、地理が掴みにくい。


 魔王が居るとするならば、それはおそらく、魔界が始まったとされる『悠久の岬』だろう。

 しかし、このままだと見つかりそうにないし、結界が張られている可能性だって考えられるのだ。


 確実に知るには、ここでは手に入りにくい『不錆鉄サビヌガネ』を着ているコイツに聞くのが一番だろう。


「こ、ここから1000キロ西に行った所にある、『磨耗の花園』だ……!さ、さぁ話したぞ!?その剣を退けろ!」


「ここから西……?」


 磨耗の花園……聞いたことないな。

 新しくできた場所か、それとも魔王が居住地を変えたか……?


「そうか、ご苦労だったな」


 レイジーはトカゲ男の気管支を破壊すると、剣を振って血を落とした。


「終わったぞ、小娘」


 振り向くと、そこには小さく踞って震えている女の子の姿があった。


「あ、ありがとう、ございます。鬼族キゾク様」


「いやいや。ところで君、ちょっと俺に仕えてみないか?」


 レイジーはそう言うと、被っていたフードを脱いで、彼女に手を差し出した。

 その彼の額には、鋭く突き出た、二本のがあった。


 少女は、訳がわからないという顔をしていたが、しばらくすると、こう言った。


「私に名前はありません。ですが、あなた様にお仕え してもよろしいのでしょうか?」


「名前なら俺がつけてやる。だからどうだ?俺と来ないか?」


 暫しの沈黙。


 しかし、やがて彼女は何かを決心したかのように、彼の手をとった。


「よろしくお願いいたします」

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