13 寮の幽霊-2
「できたぞー……」
「……ありがと、うぃる」
時刻は午前四時過ぎ。
幽霊(?)に初めて飯を作った感想は、もうとにかく眠いの一言だった。
作ったのは、簡単に棚の中にあった干し肉(たぶん豚肉だと思う)を使ったサンドイッチだ。
俺もちょっとお腹が空いていたので、一緒に自分の分も用意する。
「……おいしい。ありがと」
「それは、どういたしまして……」
欠伸をして、俺もサンドイッチを一つ手に取る。
肉汁は無い。
なんせ干し肉ですから。
生肉は棚には置いてなかったし(冷蔵庫のようなものはあったが、何も入っていなかった)パンと干し肉と少量の野菜しかないとすれば、まぁ作るものはだいたい決まっている。
おまけに、具材をのせて挟んで切ればいいだけだからな。
時間もかからないし、パンと肉ならそれなりの量は蓄えがあったし。
(明日にでも買い物に行くかな……)
でなければ餓死する。
絶対餓死する。
俺は嫌だぞ?
異世界に来てそうそう、約四日目から食うものがない状態っていうのは。
前三日間は、有り余っていたパンと、申し訳程度の果物類に野菜、干し肉で過ごしてきた。
……だが。
現在、幸いにも俺の懐は、大量の大銅貨で暖まっている。
通貨は屑鉄銭<鉄銭<大鉄銭<小銅貨<大銅貨<小銀貨<銀貨<大銀貨<金貨<小白金銭<白金銭という順に価値が上がっていく。
格硬貨は、10枚ずつで上位の価値に変化するらしいので、多分日本円に直せば以下の通りになる。
屑鉄銭=1円
鉄銭=10円
大鉄銭=100円
小銅貨=1000円
大銅貨=10000円
小銀貨=100000円
銀貨=1000000円
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俺の財布には、大銅貨、つまり一万円価値の硬貨が、5枚はある。
これだけあれば、大抵の食材は購入できるだろう。
……え?なぜ今まで食べ物買わなかったかって?
ちょっと面倒だったし、バタバタしてたからね。
買いにいく暇がなかったのさ。
「ふぁ~……」
眠い頭を無理やり起こして、彼女の方向を見る。
青い長髪に整った顔立ち。どことなくナツメ先生に顔の作りが似ている。
同じ地域の出身なのだろうか?
眠たい頭では、せいぜいそこまでしか考えることができなかった。
(そろそろ寝るか。髪は朝風呂入ればいいし)
「え~っと、君」
「……?」
「俺はそろそろ寝るから、君もどこかそこら辺で寝ておいてくれるかな?」
「……わたし、ねないよ?」
そうか。寝ないのか。
「ならいいや。俺が起きるまで、部屋のものは勝手にさわったりしないでくれるか?」
こくり、と彼女は頷いた。
「そっか。じゃあ、俺は……そろそろ、寝るよ。おやすみ」
「……おやすみ、うぃる」
そうして俺は、そのまま机に突っ伏して、意識を手放した。
(……寝たか)
少女は、ふぅとため息をつくと、ダイニングを出て彼の寝室へと向かった。
時刻は四時半少し手前くらい。
もうすぐ朝日も上る頃だ。
彼女は伸びをすると、ここ6日の間の仕事の出来を報告するため、皮膚下に忍び込ませていた通信機で、彼女の上司に連絡をかけた。
『首尾は上々かえ?』
「えぇ。魂に若干傷がついてはいるものの、前世の記憶の定着は完璧です」
『傷かえ?……あぁ、ヴァールの時に、魔王軍の手下共が何かしたのか。それで、今世の記憶のバックアップはどない?』
「……」
彼女は、その質問に対して暫し沈黙を決め込んだ。
『まぁええよ。奴らの方が、一枚上手やったってことやし。けんど、今度失敗したら──』
「わかってます。次代の魔王様の名に懸けて」
『わかっとるならええよ。よかね?』
──プツン。
回線が途絶え、彼女は少し安堵する。
(彼の警戒心を抑えるための策とはいえ、あのようなキャラでこれからを通すのはきついですかね……)
心の内にそんなことを思いながら、彼女は次の作戦の実行に移った。
朝焼けのオレンジが東の空を染める頃。
彼女の顔は、何かわからない気持ちに満ちていた。